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魔術の深化と外科魔術

「レオ様。休憩ばかりでは先に進めませんよ?」

「……」


 誰かレイダの口を縫い合わせてくれ。


 道なき森の中を進むのだ。

 魔靴によって足の裏のダメージは無いものの、木の枝なんかで身体には小さな傷が無数に付く。


 痛みは少ないがヒリヒリして不快だ。

 だから『魔靴』を解除し『治癒』の魔法を使う。

 そして『探知』で魔物の気配と逃げた人達の位置も把握しなければならない。


 それをレイダは休憩していると感じているようだ。

 確かに俺の身体はまだ七歳。直ぐに疲れてしまうのは仕方ないだろう。


 それにしてもレイダさんよ、あなたは鬼ですか?


 『探知』によれば三人組はその場に留まっているようだが、その先の二人組は少しだけ北へ向かっているように感じる。


 移動するたびに身体に小さな傷がつくのも流石に嫌だな。

 俺はふと魔靴の要領で全身を魔力で覆えば良いのではないか、という考えに至る。


 簡単に言えば魔靴と同じ性質の魔力を全身に巡らせ、防護膜のようなイメージで魔力を纏うのだ。


 これなら森の中程度では傷一つ付かないだろう。

 では早速試してみようか。


 ん?視界が真っ黒になった。

 あ、魔力を黒色にしているからか。


 俺は目のある部分だけ魔力の黒色を抜く。

 ついでに口周りも。


 良し、視界良好!空気も美味い!簡易的だが全身防護被膜の完成だ。

 この天才的な魔術。

 もっと早く気づけば良かったよ。


「ぎゃぁぁあああ!」


 突然、レイダが叫ぶ。

 俺はびっくりして立ち上がり、倒れ込むような姿勢で恐怖に顔を歪めるレイダの様子を伺った。


 腰を抜かしたのか、ズルズルと腕だけで後ずさっている。

 もしかして漏らした? と思って足元をサッと見たが残念ながらそうはなかった。


「あぁ、だ、だめ、こっちに来ないで!真っ黒い化け物が…レオ様ぁあ!真っ黒で目だけの化け物が…」


 こちらを見てレイダが再び絶叫する。


 彼女の視線の先は俺だった。


「え、俺?…あっ、ごめん」


 よく考えてみれば俺は全身真っ黒で目と白い歯だけが視認できる状態だった。


 俺は動けなくなったレイダの頭に触れ、俺と同じように全身を黒い魔力で覆って目と口の部分だけ色を抜く。


 そこには人の輪郭をした漆黒の闇。

 その上部に眼球と白い歯だけが視認できる。

 まさに魔界の住人。


「うわっ。怖っ!」


 確かにこれは恐怖を具現化した姿だ。

 前世でも怖い話で何度も見たり聞いたりしたような姿。


 辺りにいた小鳥や野兎などがバサバサと逃げ出していく。

 すっかり恐怖で固まってしまったレイダが口を開いた。


「れ、レオ様…なんですか?」

「あぁ、少し実験してた。ごめん」


 漆黒の闇に人の輪郭。

 あるのは目と口だけ。

 そんなレイダが呟く。


 うん、さすがにこれは怖いわ。

 俺は直ぐに全身の色を抜いたのだった。


 偶然とはいえ、俺は視覚的に恐ろしい魔術を生み出してしまった。

 天才が故の副産物なのか。


 簡易的な全身防護のつもりが恐怖の象徴と化した。


 しかも自分達でその恐怖を体験してしまっただけにこのインパクトはかなりデカい。

 何処かでこの魔術を再び使う事もあるやもしれぬ。


 俺はこの魔術を『恐怖!怪人ブラックさん』と名付けた。


 ネーミングセンスの悪さは気にしないで欲しい。



◇◇◇



 魔術を重ね掛け出来ないのは余りにも大変すぎた。

 ずっとレイダと接触しなければならないのも問題だ。


 魔術は(ことわり)の理解と明確なイメージが大切だ。多分。

 絶対にコツがあるはずなんだよ。


 一度にいくつもの魔術を並行して扱うにはそれを個別に制御する頭脳を持たないとダメだと考えていた。


 人の頭なんて幾つもの事を同時にできるなんて難しいに決まっている。


 しかし、魔術自体に単純な要素パラメーターを与え、その通りに機能させれたらどうなのか。

 そんな事を考えながら移動をしている。


 レイダと接触していないと魔術が消えてしまうのは俺が制御しているからだ。

 では、レイダに掛けた魔靴に魔力を与える大きさ、魔力の消費量、色や硬さ、圧縮の度合いなどのパラメータを指定する。


 その全てを大まかにイメージして『魔靴』と認識する。

 その『魔靴』をレイダに付与したらどうなるのか。


 予想通り、俺がレイダから離れても掛けた魔術はそのまま機能を果たした。

 与えた魔力量から消費する魔力量を引けば効果時間となる。


 ざっくりだが1時間くらいを目安に配分した。


 これで実際に魔力が切れた時間との誤差を確認すれば更に精度は上がるだろう。

 これは個人的に大発見だ。


 実際、俺以外に魔術を使う人のやり方がわからないので単純に評価はできないが。


 魔術の重ね掛けもこれを応用すれば可能だと思われた。


 例えば『探知』と『結界』を同時に発動させるとする。

 それぞれの魔術に使う魔力やイメージなどの要素パラメータを決めて『探知』や『結界』だと認識する。


 あとは意識的に発動、停止させるだけだ。

 理屈がわかれば簡単だった。


 多少の誤差は後から修正すれば良いし、慣れてくれば範囲や強度なども自在に調整ができるはずだ。


 正直、自分の才能が恐ろしくなったよ。えっへん。



◇◇◇



 そんなこんなで移動をしながら魔術の実験を繰り返し、ようやく三人組がいる場所へとたどり着いた。


 移動を開始して約五時間くらいか。

 太陽は真上に上り、正午あたりの時刻だろう。


「どうも、こんにちは!」


「え?誰…レオ様と…レイダ?」


 突然現れた俺たちに驚いた様子だったが、俺とレイダを見ると直ぐに落ち着きを取り戻した。


 俺は彼らを知っている。


 そう、屋敷で働く使用人達だったのだ。


 だが腹から血を流して横たわっている男が一人居た。

 名前はナロウ。


 屋敷を代表して管理をする筆頭執事。

 多分、俺の次に偉い人だ。


 勿論、俺が生まれた時から彼の世話になっている。

 ナロウを看病するようにメイド長のエナ、料理人のダリルが居た。


「ナロウ!どうした?」

「ははは。レオ様。ご無事でしたか。 これはお見苦しいところを…」


 ナロウは苦しそうな顔で俺たちを見る。

 血の気が引いて顔が真っ白だ。 かなりやばい。


「大丈夫か?直ぐに『治癒』してみよう」


 俺が『治癒』の魔術をすると聞いて三人は驚いたような素振りを見せた。


「そうなんです。レオ様って実は魔術を使えるようになってまして…」


「レイダ、そんな話は後で良いだろ!まずは治療だ」


 俺は直ぐに三メートル四方程度の『結界』を張り、全員がその中に入るように指示した。


 今ここで魔物が来たら俺達は終わる。

 わりとまじで終わる。


 だから結界は必須だ。

 魔術の重ね掛けが出来るようになってて良かったわー。


 正直、こんな外科手術のような魔術が俺に出来るとは思えない。


 でもやらなかったらきっと後悔する。

 ナロウは今にも死にかかってるのだ。


 ナロウが抑えている手を除けて傷口を確認する。

 刃物で切られた跡で傷はかなり深い。


 傷口の奥では腸のような臓器も露出し、ざっくりと切創(せっそう)が残っていた。

 血が出尽くしたのか傷口を凝固させたのか良くわからないが、今はそれほど出血はしていない。


 軽めに表現しているが()()()()()、吐きたいくらいグロい。


 しかし、これがかなりやばい状況なのは俺でもわかる。


 こんなの治せるのか?


 とりあえず、レイダの足を治癒させた方法を思い出し、ナロウの傷口付近に手をあてた。


「ぐっ…」

「直ぐに痛みを取るから我慢してくれ」


 傷口付近にある神経の反応を鈍らせる麻酔のようなイメージで魔力を流し込む。

 明確なイメージが大事、イメージだ。


「どうだ?」

「はい。痛みがかなり引いています。ありがとうございます」

「いや、礼はいい」


 寝ているのに丁寧に頭を下げようとするナロウ。

 俺は空いている手でそれを制した。


 次は腹の内部の洗浄・消毒、切創の修復だ。

 魔力を腹の傷口から流し込み、内部を塩分が一パーセントの生理食塩水をイメージして洗浄する。


 腹の傷口からゴボゴボと汚水が流れ出る。

 どこまで洗えば良いのか医者じゃないので良くわからない。


 そこは勘で…ナロウすまん。


 消毒もしたいが薬品とか何も知らないので消毒薬(エタノール)で滅菌するイメージで魔力を流す。


 とにかく雑菌を殺すのだ。ところでエタノールで内臓って洗っても良いのか?


 こんな適当にやって本当に消毒されているのかも正直わからん。

 でも、やるしかない。


 よし、消毒終了。

 そしたらもう一度洗浄した方が良いよね? これは直感だ。 なんとなく洗浄しないとマズい気がするのだ。


 よし、再び洗浄だ。


 んー。なんか、傷口の中がね。


 どす黒い色してたのに凄く綺麗なピンク色になってるんだよ。


 洗浄しすぎなのかな? 人の内臓なんて見たことないから全くわかんねぇ…不安すぎる。


 確か、前世のテレビコマーシャルで 『コレで身体の中から綺麗にしましょ! 』みたいな事を言ってた女優が居たよな。


 うん、身体の中は綺麗な方が良いに決まっている。

 

 そうに違いないのだ。


 次に綺麗になった腸と腹の傷の修復。

 これは比較的簡単だ。


 魔力で傷を密着させてヒトの自然治癒機能を強制的に増幅させるイメージ。


 するとあら不思議。

 キレ~イに傷が塞がってくるんです。

 勿論縫い傷なんかもありません。


 はい、元通りになりました。


 『俺は医者じゃないので申し訳ないけど、術後に容体が悪くなっても責任は取れません』


 と、心の中でナロウに伝えた。


 輸血とかしてないから、少し血を増やした方が良いのかな。


 この世界にも血液型とかあるだろうし、適当に血を増やした途端、拒絶反応を起こして死亡。とかは絶対にいかん。


 本人の血の複製なんて出来るのだろうか。

 吸血鬼じゃあるまいし、血を飲ませれば良いわけでも無さそうだし。


 そうだ、何か食わせて魔力で代謝機能を鬼上げさせて血を増やそう。

 他のダメなとこも補ってくれるかも知れん。


 心配そうに治癒魔術を見つめるレイダ達。ナロウの『治癒』は一通り終えた。はず。


「これで多分大丈夫。ナロウ、調子はどうだ?」

「はい、痛みは消えましたし大丈夫そうです」


 立ち上がろうとするナロウを制してそのまま寝かせる。

 あとは血を増やすために何か食わせよう。


 俺達も腹減ったしな。


「何か食い物ない?」

「無いです」


 即答か。


 ふむ、困った。

 仕方ない、今からは狩りの時間だ。



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