表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/14

コボルト族

「そう言えば聞いて無かったんだけどコボルト族ってどんな種族なの?」


 俺は今更ながら聞いてみた。


「私も見たことは無いのですが犬だと聞きました」

「犬?ワンちゃんか?」


 俺の想像は前世で飼ってた犬。

 犬は犬だろう。


「見た目は犬ですね。しかし、知能が高く強力なリーダーが群れを守っています」


 一緒に同行している魔人で魔術師、猫耳族のローリーが教えてくれる。


「言葉は通じるの?」

「はい、勿論ですよ」


 話す犬か。なんか怖い。


「コボルトは戦闘民族ッス。怒らせると面倒ッスから注意が必要ッス!」

「ニーナは見たことか会った事あるの?」


「巨浪の時に結界の外で戦ってるのを見たことあるッス!めちゃ強いッス」

「魔人よりも?」


「んー。戦闘スタイルは剣を持たないレイダさんぽいッスけど、似たような感じッスかね」


 それ、めちゃ強くね?


「戦うのが楽しみですね」


 おい、レイダ。

 目的違う。

 なんでそんな怖い連中と戦わねばならん。



「「「ウォーーーン!」」」



 突然遠吠えのような声が響き渡る。


「彼らの領域に入ったみたいだね」


 俺は『探知』で複数の影をキャッチしていた。

 みるみるうちに俺達が囲まれる。

 畏怖とも殺気とも取れる気配が充満する。


「「『恐怖!怪人ブラックさん』解除!」」


 流石にこの姿は警戒されるよな。

 俺達が姿を現すと少しだけ空気が緩和する。


 立ち止まる俺達の前に現れる人影。

 結構デカい。

 二足歩行、全身毛で覆われ、顔は……狼? ん? 犬ちゃうの?


「オマエタチハ、ナニモノダ」


 狼のそれと同じく、突き出た鼻、鋭く尖った牙。

 うん。狼っす。

 ワンちゃんどこ~~。


「私どもはここから南にある元猫耳族、今は『魔戦国家トガ』から来た代表者です」


 交渉役のナロウは落ち着いた表情で話す。


「ネコミミゾク、ソノキオクハアルガ、『マセンコッカトガ』ハ、シラヌ」

「後ろにおりますレオ様が国王で御座います」


 お、いきなり紹介されちゃった。


「あ、こんにちは。レオです」

「オマエタチハ ヒトゾク ノヨウダガ」


 俺を鋭い目線で見下ろす。

 背丈はニメートル近いはず。


「はい、我々は人族です。猫耳族から請われて王になりました」


「コンナ チビ ガ オウ ダト?」


 この言葉を契機に双方の殺気が一気に暴風と化す。

 前方の茂みや木陰から狼顔のコボルト達が飛び出して来た。


 ナロウ以下、魔人隊も構えを取る。

 一歩出ていた俺は、いつの間にか再び後衛の中心になっていた。


「ほう……レオ様を愚弄なさるのか…」


 ナロウは怒りを押し殺す。 


 コボルト族も三角錐のような陣形を取り、皆が手に鍵爪を装着している。

 彼らは近接戦闘が得意らしい。


 魔人隊はナロウを中心に魔力を急激に高め、再び『恐怖!怪人ブラックさん』へと切り替えた。

 俺も直ぐに同調する。

 コボルト族も魔力がグンッと高まる。


 え?コボルト族も魔力あるの?!

 俺は魔力の流れが見える。

 コボルト族はゼロに近い姿から一気に魔力が沸き上がるように見えた。


「ジュドー、待ちなさい!」


 一色触発の雰囲気の中、奥の方から可愛らしい声が聞こえてきた。


「コレハ ()()() サマ」


 コボルト族の後方から凄まじい魔力の奔流が近づいて来る。

 トガの魔人以上の魔力量。


 姿は見えないが巨大な魔力がオーラのように放出され、コボルト族の身長よりも遥か高くまで立ち昇っている。


 魔力量は俺と同じかそれ以上。


「初めまして、私はハスイと申します。コボルトの長です」



 先頭のコボルト族の影からひょっこり顔を出したのは、可愛い女の子だった。

 身長は百五十センチくらい、日本の着物に似た服を着ており、おかっぱ頭の黒髪。


 白い肌、真っ赤な唇、おかっぱ頭からは控えめな獣耳がちょこんと出ている。

 ケモミミ日本人形、と言った感じか。


「ジュドーは直ぐに相手の強さを確認したがるのですね!そんな事ではダメですよ?」

「モ、モウシワケ アリマセヌ」



 ジュドーと言う狼頭を叱ったハスイは何事もなったように俺達に居直った。



「さて、トガの国の皆さん。今日はどのような要件で?」


 俺は再び『恐怖!怪人ブラックさん』を解く。


「これはハスイ様。私は魔戦国家トガの王、レオと申します」

「ふふふ。可愛い王様ですね」


「ははは。良く言われます。まだ十歳ですから」

「でもレオ様も相当な魔力をお持ちでしょう?わたし、怖くて……」


 あれ。俺は魔力を全く放出してなかったんだが。

 と言うか、どう見ても怖がってなど居ない。

 俺たちを少し揶揄っているのだろう。


「ハスイ様、僕たちはあなた方と友誼を結びにここまでやって来ました」

「私達と友誼を?私達に下るのでは無く?」


 え。なに、この上から目線。

 隣でレイダ達が更に魔力を高めているのがわかる。

 ちとまずいな。


 でもこのハスイと言う子が高レベルな魔力の持ち主なのでこちらから迂闊に手を出せない。

 しかし、何かきっかけがあれば一気に戦闘状態に陥ることだろう。


「ええ、友誼のつもりです」


 ハスイはこちらをぐるりと見渡し、少し考えるような素振りを見せた。


「そうですか、わかりました。お話は中でお聞きしましょう」


 そう言ったハスイは濁流のような魔力をスッと消した。

 うわぁ。やっぱり脅しだったのかよ。


「ジュドー。お客人をご丁寧にお連れしなさい。魔力も消しなさいね」

「ハ、ハイ。ゼンイン マリョクヲ ケセ」


「魔人隊も同じだ!」


 俺達はジュドーに連れられ、コボルト族の棲む領域に入っていく。



 やがて森は意図的に開け、目の前に現れたのは石造りの城壁に囲まれた荘厳(そうごん)な城塞都市のような場所だった。




◇◇◇




「う、すげぇ……」


 大きな門をくぐるとバッと開けた世界に俺達は固唾(かたず)を飲む。

 コボルト族の里、いや国だ、これは。

 石を切り出した建築物、道路も石畳で歩きやすい。


 木々の配置も計画されて植えられている。

 一言で言えば古代ギリシャ風とでも言えるか。

 まさか、こんな大森林の中にあるとは思えないような街並みが広がる。


 町行く人は、小柄な男女。

 しかし、不思議な事に女性は猫耳族のように人に近い。


 ピンと立っていたり、へにゃっと倒れていたりする耳と尻尾が有るだけで他の容姿は人族に近い。

 まるで猫耳族の女性のようだ。


 だが、男は犬顔で全身を体毛で覆われている。

 中には背の一際高い狼顔の連中も少数交じっていた。


 女性達はハスイのような着物を着ており、髪型は様々。

 長さは膝丈くらいまでの色々な柄の着物で着飾っている。


 イメージとしては浴衣を膝丈までにし、帯で締めたようなファッションだ。


 男性は上半身裸で短パンのような物を履いているだけだ。

 その代わり上半身の体毛には髪飾りのような装飾品が幾つも飾られていて、それぞれが個性を出している。


 俺には理解出来ないが、それがオシャレなんだと思う。


 街並みを見ながら歩いていると、俺達は町の中心にある石造りの大きな館に連れられてきた。


「ココデマッテイロ。ハスイ サマガ アトカラクル」


 そう言われて通された部屋は十五畳くらいの大きさで白壁の綺麗な部屋だった。

 贅沢では無いけれど、テーブルや椅子など家具類は綺麗に手入れされている。


 俺達は荷物を部屋の隅に置いてテーブルに突っ伏した。


「うわ、疲れたッス」

「はい、勝てるかどうかわからなかったです」


 と、サラとニーナ。 

 ま、そういう感想だよな。


「レオ様。不思議に思っていましたが、彼らは魔力を扱うようですね」

「うん、俺もそう思った。町の人達も狼頭ほどじゃ無いけど魔力は少なからず持ってるように見えたね」


 ナロウの問いに俺は答えた。


「戦士らしき人は狼頭だったよな。一般の人は犬という感じ」

「え?両方とも犬ですよ」


 レイダが言うと、他の連中も頷く。


「ん?狼だろ、あれはどう見ても。全然顔つきが違うじゃん」

「あー。顔が違うと言えばそうですが、犬です」


 要するに犬は犬なのだそうだ。

 ブルドックもダックスフンドも犬と言えば犬だ。

 この世界は狼という姿は犬の一種らしい。


 狼も犬の凶暴な種類だと言えば、なんとなく納得できる……のか?


 でも前世的には違うはずなんだけどなー。

 ま、いいや。本題はそこじゃない。


「それにしても狼頭の連中は相当強いぞ」

「はい、かなりの手練れですね。腕が鳴ります」


「腕は鳴らすな」


 レイダってこんな奴だっけ。

 戦闘能力が身に付いて天狗にでもなったのだろうか。


「とにかくだ。武力的な支援は意味が無さそうだな」


「彼らに魔力があるとすれば、忌み子自体が居るのかもわからないですね」


「うん、俺もそう思ってた。忌み子の治療という支援も危ないかもしれない」


 これは問題だ。

 こちらの申し出る支援に意味が無いとしたら、交渉など出来るはずもない。


 なにか交渉のテーブルに乗せらせる材料を探さなくては。



「お待たせ致しました。トガの国の皆さん」




 新たな着物を着た日本人形のような女。


 コボルト族の長 ハスイが何人もの従者を連れてやってきた。

 

 俺達は立ち上がり、再び挨拶を交わす。


「これは麗しきハスイ様。ご挨拶を賜り、ありがとうございます」


 優雅に礼をするナロウ。

 流石にこういう場には慣れている。


 従者が持ち込んだ豪奢な椅子をサッとハスイの後ろに置かれる。


 ハスイは優雅に椅子に座るとゆっくりとこちらを見る。


「さ、どうぞお掛けください」


 俺達と同じテーブルには座らないってことか。

 やはり、同等には見られていない様子だ。


 従者の中に紛れていた狼顔のジュドーやその配下達が部屋の周囲に配置される。

 ま、当然だろう。


 俺達はこの館に入る時に武器類は全て外され、預けることになったため丸腰だ。



 「で、本日はどのような要件なのか、ここでじっくりお伺いしましょう」



 着物の中で足を組むハスイは悪戯そうな顔で俺達を見た。



『貴様らはどんな面白い話を持ってきたのか。それなりの話なんだよな?』


 

 そんなハスイの気持ちがピリピリと伝わってくる。

 

 現時点では有効な交渉材料は無いだろう。これからの会話の中で勝機を掴むしか無い。



 そして胃がキリキリと痛むような交渉が始まった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ