魔戦国家トガ
第三章からは1~2回/週 投稿になります。
里の近隣二か所へ向かうことが決まった後、俺達は詳細の計画を立てていた。
「やはりレオ王国ですな」
「やっぱレオ帝国ですかね」
「いえ、レオ連合国ですわ」
俺達の里の正式名称を決めていた。
エナ曰く、規模は小さくとも俺の専制政治であることに変わりなく、対外的にきちんとした名称が必要との事だった。
ニャンゴというリーダーの元で集団で暮らしていただけの存在が、俺を頂点とした組織で新たに決めたルールに従って生活を始めたのだ。
掟ではなくルールだ。
もっと組織が大きくなれば法律だと言える。
俺は一応名称を考えてみたが、残念ながらネーミングセンスゼロなのは今も変わらない。
「んー。『トガのジャングル大帝レオ』これで!」
「却下です」
ははは、即答ですなエナ様。
今日も通常運転でなにより。
「はい!レオ様!」
「ん?ニーナ君、なぜここに?」
ナロウの後ろに隠れるようにしていたニーナがひょこっと顔だけ出している。
む、可愛い。
「ニーナ、ここはお前が出る幕ではないよ」
優しく窘めるナロウ。
「いや、意見があるなら言っていいよ」
「はい。『魔戦国家トガ』が良いッス!かっこいいッス!」
間髪入れずに国家名称の案を出すニーナ。
ちょ、なに厨二病発言をこんな時に。
エナ様の高速指突の餌食になりますよ?
「あら。中々良いわね」
「え?」
エナ様、これのどこが良いの。
「うん、いいですな。魔素や魔力を力に変えて困難と戦う」
「トガの大森林を代表するような大きさを感じますね」
「レオ様の我儘な国、みたいなイメージもありませんし」
おーい。なにおっしゃってるんですかー。
会話の中で俺を遠巻きにディスるの止めてくんないかな。
と言うか、俺は我儘全然言ってねぇ!
「では、『魔戦国家トガ』で行きましょう」
「賛成ッス!」
「「「異議なし!」」」
俺、おいてけぼり。
ま、名称はどうでもいい。
中身だよ、中身。
何を俺達が成し遂げるのか、ここ大事。
まさかトガの大森林を本気で支配する気じゃないよな。
皆の目が少しイっちゃってる。なんか、怖い。
◇◇◇
東の猫耳族には同じ種族同士という事もあり、交渉役:ニャンゴ、戦隊長:オルダ、総監督:エナ、他は戦闘員の魔人五名を加え、総勢八名が選出された。
忌み子の治療にはエナが担当する。
北のコボルト族へは交渉役:ナロウ、戦隊長:レイダ、総監督:レオ、他、親衛隊五名の総勢八名。
親衛隊も全員魔人でサラ、ニーナも加わっている。
留守番部隊にはダリルを筆頭に、最近メキメキと頭角を現してきたドルーとマリーが指揮を取る。
ドルーとマリーも半年前に魔人化を選んだ。
一家で魔人とか凄ぇわ。
この里へ来て三年以上が経ったが、その間に魔人化をしたのは約四十人。
魔人化済みのドルーとマリーに四人目の子供が出来たことで、様子見をしていた住民達の魔人化への応募が殺到した。
俺が帰任した時には更に三十名程の魔人化が決まっている。
魔人化したからと言って皆が戦闘員を目指すわけでは無い。
勿論、非常時の防衛戦力として戦闘訓練を行うのは魔人化の条件なので合意はしている。
戦闘員を目指さない魔人は主にインフラ系魔術を習得し、建築や地盤工事、魔石管理と魔力補充などに従事することになっている。
今回の遠征は交渉が纏まった時の滞在、忌み子の治療、経済支援を行ってくるため、約一か月を想定している。
交渉がダメでも忌み子を引き取るくらいはやって欲しいと伝えた。
救える命は救いたい。
◇◇◇
里の北にある結界の石碑に来た。
石碑の外には視認できる範囲でも魔物が跋扈している。
こりゃ凄い。
「これ、行けるのか?」
思わず俺はナロウに聞いた。
「はい、問題なく進めます」
なに、その自信。
「このくらいの数なら毎日訓練で狩ってますからね」
「レオ様、魔人達が連携した時の凄さをお見せするッス!」
確かに俺は戦闘訓練を積んだ魔人達の戦いを見たことが無い。
と言うか興味が無かった。
だって俺は戦闘狂じゃないし。
猫耳族は狩猟民族なので戦うことが基本好きなのだ。
俺は農耕民族なので穏健派だ。前世は。
「レオ様。後衛でサポートをお願いします」
「了解」
「『恐怖!怪人ブラックさん』展開!」
おうふ。それ使うのか。
「いくぞ!」
「はい!!」
ナロウの号令で前衛から3:2:3の布陣で突入する。
俺は後衛の真ん中だ。
というか、戦闘長ってレイダだよね?
正直、魔人部隊と『恐怖!怪人ブラックさん』の組み合わせは最強だった。
相手からしたら目と口だけ。
それだけでも恐怖するだろう。
魔物から見たら初見なので誰が誰なのか全くわからない。
こちらは体形の位置と体型で見分け可能。
ナロウ、レイダ、サラの前衛がダリル産の魔剣でスパスパ魔物を切り刻む。
中衛二人は前衛が漏らした魔物を同じように刻む。
後衛三人は……魔石を拾う。
「後衛!アント!!」
レイダが叫ぶ。
俺の両隣の魔術師がファイヤーボールを叩き込んだ。
俺は……魔石を拾う。
「左からベアウルフ二体!」
「右からもドグルートの群れ、こっちに来ます!」
あ、これヤバイやつだ。
「ザンガはそのままアントを焼け!ローリーはドグに『凍結』、全部止めろ!」
「ベアはレイダ、行け!」
「「「「はい!」」」
両隣の魔術師はそれぞれ魔術をぶっ放す。
同時にレイダはベアウフルに飛び掛かった。
レイダは慣れたように1匹目のベアウルフの魔石のある位置に正確に剣をぶっ刺す。
は、早い。
しかし、刺した剣が抜けない。
その横から二匹目のベアウルフが爪を広げて襲い掛かる。
「こんのぉぉぉおおお!」
レイダは剣を手放し、横から来たベアウルフの振りぬいた腕の下に潜る。
そして身体を跳ね上げるように飛び上がり、胸にある魔石の位置に手刀を突き刺す。
そのまま魔石を握りしめて引き抜いた。
「レオ様!!」
「お、おう!」
俺は何を!!
「魔石をお願いします!」
「……了解」
大量に散らばる魔石の回収。
結構疲れる。
倒れたベアウルフから剣を引き抜き、前線に戻るレイダ。
こ、こいつらすげー。
戦闘開始から二時間を越えた頃、ようやく周囲の魔物が見えなくなった。
まだ、結界の石碑を越えて五十メートルほどの距離だ。
しかも魔石を入れた袋が既に満タンだ。
「この辺りはほぼ壊滅させましたので、今のうちに進みましょう」
確かに『探知』で見てもあれだけ居た魔物の反応がここ数百メートルは反応が無い。
でもコボルト族の村に辿り着くのは相当キツイだろ、俺的に。
「これさ、俺が『結界』作って進めば問題なくね?」
俺は素朴な疑問をナロウに伝える。
エナグループも『結界』は習得済みなので簡単に進めるはずだ。
「いえ、それでは対巨浪の訓練にはなりませんので」
は?巨浪で戦うつもりなの??
「レオ様。疲れたなら私が背負うッス!」
「い、いや。いいッス」
真っ黒なので表情はわからないが、ニーナはニヤニヤしていたと思う。
それにしても、こいつら化け物か。
魔人軍団最強かよ。
百人もいれば北部地方の小国くらい落とせるんじゃない?
俺、留守番が良かったかも……。
俺達は魔物を狩りつつ、『結界』で休憩を繰り返す。
魔石を入れた袋は既に三袋が満タンだ。
魔石収集担当の俺は『怪力』で袋を背負う。
「では行きましょう」
「はい!」
淡々と歩を進めるナロウ達を見て魔人部隊の恐ろしさを肌で感じる俺だった。
◇◇◇
出発から三日目。
『結界』を張り、『恐怖!怪人ブラックさん』を解除して俺達は最後の休憩を取っていた。
三キロの距離を三日ってどんだけ魔物が多いんだよ。
「サラ、ニーナ。疲れてないか?」
「全然平気です。こうして皆さんとご飯を食べると本当に美味しいですよね。毎回この時間が楽しみなんです」
ドグルートの肉をはむはむしながらサラは笑う。
余裕と言うか、遠足的な?
「訓練だと魔物の群れの中に魔人が数名混ざって攻撃して来るッス。そっちの方がかなりきついッス。いつもヘロヘロになるッスよ」
「え?どういう事?」
なんか恐ろしい事をさらりと言ったような。
「ははは、訓練ですから負荷をかけるんですよ。 敵に混ざる魔人は交代制で行っています。 結界を使って魔物側から攻撃を仕掛ければ、体形や連携の弱点が見えてきますから」
やってることが斜め上過ぎて頭が追い付かない。
普通、魔物と命のやり取りしてるところに、味方の魔人を敵役で投入するか?
「レオ様!私の心配は無いんですか!」
口を曲げるのはレイダだ。
「だってお前、ピンチすら無かったじゃん」
「むぅ。私だって心配して欲しいですよぉ」
可愛い事言っているが、こいつの戦闘はかなりえげつない。
何せ、剣が間に合わなくなると素手で魔物を引き裂く、千切る、抉る。
レイダが戦った跡は現場が凄惨すぎて魔石を拾うのも嫌になるくらいだ。
ふと結界の隅を見ると魔石の袋は八袋に増えていた。
『怪力』があるから問題無いが、袋同士で紐で結んでズルズル引っ張るのは奴隷みたいで嫌なんだよ。
「さ、ミッションの一つでもある 『レオ様を完璧にお守りして目的地に着く』 のはあと少しだ。 親衛隊の意地を見せて最後まで気を抜くな!」
「「「はい!」」」
でも荷物持ちはさせられてるがな……
俺達は立ち上がって先を急いだ。