第7戒 すれ違って
破魔 羊子
年齢 34歳 職業 なし
プロフィール
とある村に暮らしている主婦。夫と2人で生活している。
村で不治の病が流行り、それに苦しむ人々を見るにしたがって、病を患った人々を救うための薬の開発を試みる。
備考
村の事情により隠れて薬を作っている。
順位 5位(¥681,100)
死因 銃殺
私の名前は破魔 羊子だ。私は薬の研究をしている。最近、私の村ではある病が大々的に広まってしまった。その病は不治の病とも言われてしまい、病を患った人はたちまち遠くの山へ隔離されてしまう。私は隔離されてしまう人々の声を無視できなかった。病状、苦悩、鬱憤―。数多の声を聞いた。そうして、薬が完成する寸前までたどり着いた。
けれど、この村には伝統と言う名の呪いがあった。それは、魔女狩り。
一度聞いたことがある人もいるだろう。そして、そんな呪いがまだ現代に残っているのかと嘲笑うだろう。伝統と言うのは非常に厄介なもので簡単に覆すことはできない。そして、そんな伝統の中で暮らしている人の価値観もまた、変えることなどできはしない。
私は夫に薬の研究をしていることが見つかり、ものの見事に魔女に選ばれた。しかし、私も1人の人間だ。この薬を完成させずにはいられない。
私は夫と出会う前に使用していた倉庫に隠れた。村人にも知られていない。秘密の場所だ。
「よしっと。ここなら大丈夫だろ。」
破魔は一息つくと、マッチでロウソクを灯す。様々な道具や書物、素材が置かれた机の近くにある椅子に腰を掛ける。
大きく息を吐き、窓の外に見える星を見つめる。
(バレたら魔女認定されるって分かってたけど、私は二度とあんなに悲しい叫びを聞きたくないよ。)
破魔は胸のあたりがモヤモヤっとした感覚に襲われ、じっと座ることをやめる。
(お茶を飲んだら、作業を始めよう。)
部屋の奥には複数の木箱や樽が置いてあり、その中には茶葉や食器、保存食が入っている。
破魔は記憶と香りを頼りに茶葉の入った木箱を探し始める。目を瞑り感覚を研ぎ澄ませながら鼻を木箱に近づける。1つ2つと探していくと、木箱が3つ積まれた内の一番下の箱からお目当ての香りを嗅ぎつける。
(昔の私、こんな所に置いてたんだ。)
木箱1つ1つの重さを想像し、引け目を感じながら過去を振り返る。その後、溜息をつきつつ木箱に近づき、
(昔はお茶なんて保存食としてしか考えてなかったから、全然飲まなかったな~。)
全身に力を入れて腰を痛めないように木箱を下ろしていく。床に置くたびに埃が舞い、顔に被らないように手で振り払う。
「よいしょっと。」
ドスンっ!という大きな音と共に埃が舞い散るが、破魔はそんなことは気にも留めず、顔を出した一番下ほ木箱を見つめる。その後、その木箱の近くに膝をつき、頭の部分を両手で挟むようし、持ち上げる。木箱の蓋が開くと、中からダージリンの香りが鼻を抜ける。破魔はその香りで心が落ち着く。やはり紅茶の香りはいい。自然とそう感じた。
破魔は未開封の茶葉の入った袋を一つ取り出し、木箱の蓋を閉める。そして、袋を見つめながら机に戻る。
(パっと見、虫もいなそうだし、大丈夫っぽいな。結構年月経ってダメだと思っていたが、最近の保存技術は凄いな。)
袋を机の上に置き、茶こしに視線を移すと、落ち込み始める。
(火はロウソクにしか使えないし、水出しで我慢するしかないか。)
バッグの中から水筒を取り出し、フタを開け机の上に置く。そのフタの上に茶こしを乗せ、水筒を机の上に置くと、茶葉を開封して茶こしの中に茶葉を入れていく。茶こしの1/3程が茶葉で埋まると、袋を倒れないように机に横たわらせ、水筒を持ち、茶こしに水を注いでいく。水をフタの8割まで入れると、それをこぼれないように机の端に置き、作業の準備を始める、
(あと少し、あと少しなんだ。)
机にかじりつくように実験を進める。
小鳥のさえずりが聞こえる。瞼を少しずつ開ける。実験道具がぼんやりと目に映る。身体を少しずつ起こすと綺麗な青空と白い雲、鮮やかな緑色が徐々にはっきりと見えてくる。大きなあくびをしつつ背筋を伸ばす。息を抜くと共に猫背になる。すると、扉が勢いよく開き、銃を持った男が3人入ってくる。破魔は椅子から降り、木箱のある方へ後退する。冷や汗をかきながら男たちを見つめる。
(ここ誰も知らないはずなのになぁ。)
「あんたら、何しに来たんだい?」
できる限り時間を稼いで逃げ道を探し始める。男たちは逃げ道を作らないように横に広がりながら破魔に近づく。真ん中を歩く男が銃を構えて口を開く。
「魔女はな、いちゃいけねぇんだよ。」
その瞬間、1発の銃声が響く。火薬のにおいが部屋に漂う。破魔はぐったりと木箱に寄りかかる。胸の真ん中に一筋の銀色の光が煌めく。
その後、男たちは油を部屋中に巻き、煙草を家の中に放り込む。魔女を拒絶する熱がたちまち広がる。ガラス瓶の割れる音が時折響く。
燃え上がる帆のを見つめる男が4人。そのうちの2人が話を始める。
「旦那さん、これでいいんですか?」
「ああ、いいさ。この村に魔女は要らない。ただ―。」
「ただ?」
「この紅茶の香りは、幸せな日々を思い出すな。」
ダージリンの匂いが煙と共に舞い上がる。