第3戒 救い求めて
八木 弥生
年齢 12歳 職業 なし
プロフィール
ある山村に住んでいる女の子。村の掟に従い、霊堂で1人生活を始める。
備考
この霊堂で4歳と8歳の頃にそれぞれ1人ずつ友達が返ってこなくなる経験あり。
順位 9位(¥581,200)
死因 餓死
私の名前は八木 弥生です。私はとある山村に住んでいます。12歳です。今日はお祭りがあって、私は普段立ち入ることが禁じられている霊堂に入っています。お祭りなのにどうしてお母さんとお父さんは泣いているのでしょう。
「それじゃあ、また一月後に迎えにくるからねぇ。それまでこの霊堂でじっっと待ってるんだよ。」
八木は村長からそういわれると明るい笑顔で返事をする。霊堂の入り口で笑みを浮かべる村民たちは静かに扉を閉めていく。差し込む日差しが段々と眩しさを増し、ついにはパタンという音と共に見えなくなる。
八木は入り口の扉を呆然と見つめる。そして、後ろを振り返る。そこには大きな大仏が祀られていた。
(ここの大仏様、こんなにおっきかったんだ。)
八木は覚えている限りで2回見ている。今まで遠くで見つめる程度だったため、実際の大きさと思い出の大きさとのギャップにただただ感心するだけであった。
しばらく見つめた後に辺りをキョロキョロと見回す。そして、
「葵ちゃ~ん。茜ちゃ~ん。どこにいるの~?」
と口元に両手をあてて大きな声で呼ぶ。しかし、反応はなく、自身の声のみが反響する。
八木は再び大声で呼ぶ。
「2人とも~、ここにいるんでしょ~?出てきてよ~。」
またしても反応はない。先ほどよりも大きい声を出したのでより大きな反響が起きる。
(また会おうって約束したのに―。どこにいっちゃったの?)
八木はこの霊堂で葵とは4歳の頃に別れ、茜とは8歳の時に別れた。村長たちも一月後には会えると言っていた。そして、一月以上経った後にそのことを聞くと、
「神様が霊堂に隠しちゃったのかもねぇ。もう少し待ってみたら会えるんじゃないかな。」
と毎回答えられる。八木はそのことを思い出すと、
「葵ちゃんも茜ちゃんも、嘘、ついてたのかな。」
と小さく呟く。そして、少しずつ態勢を低くし、その場に体育座りをして顔を膝に埋める。
壁の高い部分にある風の通り道となっている格子窓から星が垣間見える時間になると、八木は空腹感に襲われる。
(お腹空いた。なにか、食べ物。)
脚の痺れを緩和させつつ少しずつ立ち上がる。若干脚がもたつきながらも壁に手をついて霊堂の周りを歩く。灯りなど一つもないため、足と手の感覚だけを頼りに歩き進める。
同じような感覚と時々床のきしむ音のみが伝わる。ゆっくりと先へ先へと足を進めていると、
「あたっ!」
八木は何かに頭をぶつける。ぶつかった部分を押さえながら、空いた手でぶつけたものを触る。それからは滑らかな曲線を描き、艶のある手触りの良さを感じる。曲線に沿って歩いていくと、途中で少し凹みを感じる。八木はこの感覚に思い当たる節があった。
(この形……、大仏様の手だ。)
八木は大きく溜息をつき大仏の正面へ、大仏の手を触りながら歩く。そして、正面に立つと、その場に座り込み、更には仰向けで大の字になる。
(なんか、お腹空かなくなっちゃった。)
食への諦めがつくと 頭が痛くならないように横にして目を瞑る。
(もう、寝よ。)
格子窓から光が差し込む。
八木が目を覚ますとすぐに空腹に襲われる。また、昨日からなにも生唾だけを飲んでいるので喉が干からびたように乾いている。八木は右手を喉にあて、左手をお腹にあてて堂内を歩き回る。
(たべもの……。たべもの……。)
ゾンビのようにひたすら歩き回る。お手洗い場は見つけるが、それ以外は見つからない。食べ物などもってのほかだ。
八木は動き続けることで気を紛らわせていたが限界がある。そして、ついには自分の手に噛みつく。血が吹き出す。それを必死に飲む。
「うっ!ごほっ、ごほっ。」
しかし、鉄臭い匂いと味でむせかえる。口に含んだ血を床に吐き出す。手からは血が止まらない。痛みが徐々に表れる。心臓が脈を打つたびに痛みも流れてくる。空いた片手で止血しようにも力が入らない。意識が朦朧とし始め受け身も取れずに倒れ込む。
八木は夜になると空腹で目が覚める。這いつくばって大仏の手の部分まで近づく。呼吸が荒くなる。
八木は大仏の横になっている手の部分に手を合わせながら、唇を動かす。
(だいぶつさま……、たすけて。)
雫が一粒だけ零れ落ちる。
八木は大仏の手の上に噛んだ手を乗せて意識を失う。
そして、再び朝がやってくる。
格子窓から村民が霊堂の中の様子を確認し、近くの村民に合図をかける。すると、霊堂の扉が開く。尊重を含めた複数人の村民が桑や杭を持って入り口に立っている。村長は八木の様子を確認すると、手を真っすぐ大仏と手を合わせた八木の方へ伸ばす。近くの村民はその指示に従い霊堂の中へ入っていく。
八木の所まで近寄ると、手に持った桑や杭で八木をつつき始める。
反応がない。目は光を失い、口は開いたまま。
村民はそれを確認すると村長に向かいながら、腕で〇を作る。村長が頷く。すると、村長は
「八木の娘は早かったようじゃな。」
と呟く。
その後、村民は八木に触れないように桑や杭で八木を床のきしむ場所まで転がす。村民が必死に床を叩くと軋みの生じる部分のみ床板が回転し始める。そして八木はその下にある穴へ落ちていく。
バタンっ。
穴へ射し込む光が消える。
遠くから村民の声が響く。
「やっぱり、こんなのおかしいんじゃ。」
「あんた、まだ分からんのか。この村の作物を守るためなんだよ。」
木造の扉が重い音を響かせながら閉じていく。
そして、そこには何事もなかったように何もない時間が流れ始める。