第2戒 射し伸ばす手は
射原 綱手
年齢 18歳 職業 スナイパー
プロフィール
裏社会の某暗殺事務所に勤めているスナイパー。幼いころに両親に捨てられた経験あり。
口数が少ないが、仕事は完璧にこなす。
備考
なし。
順位 10位(¥541,000)
死因 スナイパーによる暗殺死
私は射原 綱手。スナイパーとして、富豪、会長を始め、一般市民、貧民など様々な依頼で様々な人を暗殺してきた。そして、物心が着いた時には既に捨てられていて、当時は捨てられたことさえ分からなかった。親が私のことを連れて帰るのを忘れただけだと、ずっと想っていた。そうであると願っていた。
私はある男に拾われ、訓練を受けた。そして、私の最初の依頼が来た。内容は私の親だった。依頼を受けた瞬間、これは赤の他人が私に依頼したものではないと分かってしまった。
私はためらわず撃った。
冷たくなった両親を見て、この日の当たらない冷たく暗い場所が居場所なんだと、そう感じた。
1日目。
射原は2階建ての空き家で2階の4畳部屋に食料品の入った段ボール1つに銃弾やガーゼ等の医療用具、掃除用具の入ったボール1つを窓から死角になる部分に置くと、今回の依頼の内容を思い出す。
「今回の依頼は金有 曹司。通称Mr.ゴールドだ。1週間に1回、必ずK-2地点を通る。そこでだ。H.I.、お前にはこのA地点に7日間の張り込みと目標を見つけ次第すみやかに殺れ。」
(Mr.ゴールド―。いかにも富豪的な通称だな。今回の依頼は誰から来たんだろう。)
射原はしばらく想像を膨らませた後、肘を曲げたまま両掌を上に向け、頭を横に振る。
(考えても無駄か。どうせ、私は下っ端なんだから。)
自身で納得すると、段ボールの近くの壁に背中を預けて座る。
(下見したとき、ここが一番の死角になる。ここで偵察するか。)
使用する銃を丁寧に拭きながら、これから7日間のことを想像する。
「1週間か……。」
今までの依頼は長くても1日で終わるものばかりであった。そのため、明確な生活風景を思い浮かべることあできなかった。
(どんな1週間になるのかな。)
射原は先の分からないことによる不安感と共にわくわくしてくる。自然と笑みが浮かんでくる。
2日目。
射原が銃を肩に乗せたまま目を開ける。窓の外からは数多の星が顔を出している。文字盤に蓄光材を使用した腕時計で時間を確認する。
「2時か。」
部屋の側面の窓の下まで背中の窓から見えないようにほふく前進する。その後、静かに目から上を出し、赤外線双眼鏡でK-2地点を5分確認する。人影は1つも映らない。他の地点からも連絡がない。
(2時半まで偵察して、その後連絡入れよう。)
そして、射原は2時半まで双眼鏡を覗いていた。その後、元の位置まで戻り、特殊な加工のされた携帯電話で連絡を入れる。既読の件数を確認し、スリープモードに戻す。
「ふぅ。」
ほっと一息つく。側面の窓から見える星を眺める。今まで見たことのない輝きに心を奪われる。
(今まで目印程度に使ってたけど、星ってこんなに綺麗だったんだ。)
射原は自身の目の中に真っすぐ届く無数の光を、それが見えなくなるまで見つめ続けた。
太陽が上がり始めると、射原にも空腹が訪れる。段ボール箱の中からアンパンと瓶に入った牛乳を取り出し、静かに食べ進める。食べ終えると
アンパンの袋はレジ袋へ、牛乳瓶は中に水を入れ、その水を飲んで段ボールにの中に戻す。
一息ついた後に備品の点検と整理を始める。
(どれも損傷、故障はない。)
携帯の電源をつけ、連絡を入れる。
>こちら異常ありません。今日の昼当番お願いします。
そして、銃を肩に乗せて睡眠に入る。
そんな生活が残り1日になるまで続いた。
7日目。
射原は同じような食事内容で食欲は低下しついには食事を抜くようになっていった。また、代わり映えのない景色で集中が散漫している。時々、瞼が閉じて頭が床に吸い寄せられていく。そのたびに頭を横に振って睡魔を飛ばそうとする。
(あ、もうすぐ偵察の時間だ。)
星は輝きを失い、単なる目印と化していた。
射原は移動のために四つん這いになり、窓から頭を出して双眼鏡で確認する。レンズ越しに人影が映る。目を細めてじっと見つめるとその影は目標のものと一致した。
射原はすぐさま床に置いてある銃を手に取り、標準を合わせる。すると、携帯に突然電話がかかってくる。標準を合わせながら顔と肩に携帯を挟み、電話に出る。
「こちら、H.I. 。目標発見しました。行動に移ります。」
すると、聞きなれないねばつくような声が聞こえ始める。
「りょ~かい。」
すると、一瞬だった。
射原の頭を銃弾が突き抜ける。
銃が、携帯が、血が落ちていく。時間が遅くなったように静かに落ちていく。そしてそれらが音を立てて床にぶつかる。携帯からは会話が漏れ続ける。
「Mr.ゴールド、終わりましたよ。」
電話の主はこの携帯とは別に電話の対応をしているようだ。
「ええ。では、今切り替えますね。」
すると、射原が事務所で依頼を受けた際に聞いたことのある声が部屋に響き始める。
「んっ、んん!射原君だね?私は金有だ。今回君にはこの世の厳しさを教えてあげようと思ってね。君の両親である射原夫妻は私の大事なお得意様だったんだよ。それを殺したのは重罪だ。そこで、君とこの事務所には罰を与えてあげようと思ってね。こうして私が直々に君への依頼を出して、対象になってあげたんだよ。」
電話の主は嘲笑いながら言い捨てる。
「もう、聞こえてないか。」
電源が切れる。暗い部屋を携帯の明かりが薄明るく照らす。そして、その携帯にも金に輝く銃弾が撃ち込まれる。