第10戒 正しさは暴力的で
秤谷 天子
年齢 10歳 職業 なし
プロフィール
普通の家庭に生まれの普通の少女。ある小学校に通っていた。
現在は数多の犯罪を犯す指名手配犯。
備考
10歳の頃に両親と別れる。
順位 2位(¥709,000)
死因 撲殺
私の名前は秤谷 天子だ。私は今までにたくさんの罪を犯した。窃盗、強盗、詐欺を中心に様々な罪を犯した。一番多かったのは窃盗。とにかく食べ物に困っていた。親は家ごと私を見捨てた。始めは捨てられたことに気付かなかった。思えば、可笑しなことだ。クソババアの最後の言葉は
「すぐに帰ってくるから、ここで待っててね。」
だった。旅行バッグを抱えて家を出ていった。私はその時、ただの旅行に行くのかとばっかり思っていた。クソババアは週末になると私を置いて旅行によく行くことを知っていた。
私を、置いて。
思い出すだけではらわたが煮えくり返る思いに駆られる。そしてクソババアが出ていったその4日後にまたもや最悪な日が訪れた。
クソジジイが何も言わずにいなくなった。
その日、私は小学校に通っており、大好きだった父にテストで100点を取れたことを報告しようと、ワクワクしながら帰路についていた。
「ただいま~!」
大きな声で挨拶をした。返事もなく、ただ自分の声が異様に反響した。私は不思議に思い、「おと~さ~ん。」と呼びながら父の部屋に向かっていった。部屋の扉が珍しく全てしまっていた。父の部屋の扉を静かに開くと、そこには誰もいなかった。
「おとう、さん?」
私は泣き叫びながら父を呼んだ。部屋中を探しまくった。しかし、どの部屋にも人は居なかった。涙がとめどなく溢れ、泣きじゃくった。
涙が枯れるまで落ち着くと、部屋には私のお洋服どころか食べ物の1つも無いことに気付いた。家電、家具も全て無くなっており、ただガランと空いた家だけに私だけが居ることだけが分かった。
そして、また数日過ぎると、私の部屋に知らない人が入ってきた。
「ちょっと君、早くこの部屋から出てほしいんだけど、いいかな?」
私はまだ子供だった。だから深い意味なんて知らない。言われるがままに盗んだ食べ物を持って家を出た。玄関を出ると、また知らない人がいた。その人は私と目線を合わせると、
「お嬢ちゃん、ごめんね。この家にはもう住めないんだ。」
私はハムを食べながら聞き返す。
「どうして?」
その瞬間、その人の笑顔は歪んだ。そして、少し間を置くと、
「あのね。この家はもう君の家じゃなくくなったんだよ。」
すると、目の前の知らない人の後ろに3人家族の知らない人が立っていることに気付いた。逆光で顔は見えなかったが、私はその人達を見つめ続けた。すると、私の視線の先に気付いた知らない人は後ろを振り返り、3人に挨拶をし始めた。口を開けてその様子を見つめ続けた。3人はちらちら私を見ては身を引いていた。知らない人が3人と話をつけると、また私と目線を合わせ、
「ごめんね。今日からこの家はこの方達の物になったんだよ。だから、ね?親御さんの元に帰りな。」
言っている意味が分からなかった。が、家が自分の家で無くなったことだけは分かった。だから、私は頷いた後に放浪し始めた。
それから私はとにかく生きることだけを考えた。
まだ身体が小さかったので万引きをしやすかった。
嘘もついた。親を呼んでくるから待っててほしいと頼み込んで逃げた事もあった。
お金持ちそうな男に色仕掛けもしてお金を取った。ある時はお金を貰うために身体を売った。クソババアとクソジジイから貰った体になど何の価値も無いと既に想っていたからだ。
ただ、どうしようもなくお腹の空くこの身体が憎くて仕方がなかった。そして、死ぬことに対して、ただ恐怖しか感じなかった。
だから、生きるしかなかった。
私の話題は徐々に広まった。私は身を潜め始めた。身を隠すための服も盗ったり、捨てられるているものを拾ったりした。
そして、私はついに捕まった。
たった1つのミスだった。好きな女児アニメのお菓子を1つ落としただけだった。
秤谷は牢屋にぶち込まれ、手足を拘束され、壁に貼り付けにされた。容態を確認する人が秤谷に触れようとするたびに噛みつこうとする。そして、口もさるぐつわで塞がれた。噛みつかないようにと、舌を噛み切って死なれないようにするためだ。
秤谷は逃げ出そうと昼夜変わりなく暴れた。
あまりにも暴れていたことが目に付き、秤谷の牢屋に巨漢が腕を鳴らしながら入ってくる。秤谷は近づくその男を睨みつけながら身体を前に出し、威嚇する。男はその様子を嘲笑い、
「おお、怖い怖い。」
と言いながら頬を撫で始める。優しく舐めるように何度も撫でる。秤谷は顔を横に振り、手を払う。すると、男は自分の顔を手で覆うと、高笑いし始める。
「ハハッ!こいつは叩きがいがあるぜ!」
そういうと、覆っていた手を顔から外し拳を握ると、勢いよく秤谷のお腹に突き刺さる。その後、何度も何度も左右の拳をお腹に打ち込む。男は笑う。秤谷は唾液が溢れでる。
男は一度手を止め、秤谷に近づきさるぐつわを外す。秤谷はだらんと力が抜けると口から大量の涎がぽたぽたと床に落ちる。
「官長、本日の面談はここまでです。」
男の後ろから低い声が通る。男は背中を見るように頭を動かすと、再びに秤谷に向くと、片手で頬を握り、視線を合わせるように頭を動かした後に、自分の顔を近づける。
「明日も来るから、おとなしくしてるんだぞ。」
その後、頬から手を離すと頭をポンポンと優しく叩き、牢屋を後にする。
次の日から秤谷は殴られ続けた。お腹はもちろんのこと、腕や足、そして顔までも。そして、男は殴り続ける間、いつも同じことを言う。
「犯罪者に生きる価値はないんだよ!」
お腹に拳がめり込むと、口から血と涎が飛び散る。呼吸をすることもままならない。
(意識が―。)
最期に秤谷の目に映った光景は男の狂気な笑みと振りかざされた拳であった。
「幼女殴るの最っ高だわ!」
振り下ろされる制裁に秤谷は静かに目を閉じる。
(ただ、生きていたかっただけなのに。)