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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

魔女の住む森

別サイトのブログにて投稿掲載していた短編を加筆と修正により手直ししています。



「森に行って薪木を拾って来て頂戴」


「はい」


 あの森には魔法を使う魔女が住むと言うのに。


 私はアダム兄さんの手をギュっと握った。


「エミー、大丈夫だよ。魔女なんていないから」


「でも、その魔女って人間に化けるんでしょ?」


「もし僕がその魔女だったらどうする?」


「アダムは男だもん。それに大好きな兄さんが魔女なら怖くないよ」


 ☆ ☆ ☆


 怖いのは継母の方だ。


 あんなに優しかった父さんが、継母と暮らし始めて以来おかしくなった。

 継母の言葉は絶対なのだから。

 ほぼ、命令のようなもので父さんすら逆らう事が出来ない。

 貧乏な、この家では主とも言える。


 私達の母さんは昔、病気で死んでしまった。

 とても働き者で、料理が上手だった。

 もしかしたら魔女の魔法に掛けられたのではないかという噂が村の大人達の間で話されているのを聞いた事がある。


 でも、そんな時に優しく慰めてくれたのが継母だった。


 当時、継母は村で仕立て屋の看板娘。

 まだ父さんと知り合う前で、私達は母さんと一緒に何度か仕立て屋で話した事があったので仲は悪くなかった。


 母さんが死んで、私は悲しくて泣いて臥せってばかり。


 その話をアダムから聞いた継母は私の元を訪れた。

 元気になるまで何日も。


 そんな事があれば、継母と父さんが恋に落ちるのも無理はない。

 いや、本当は父さんが継母に癒しを求めたのだと私にだってわかる。


 ☆ ☆ ☆


 アダムと私は森に向かった。


 継母は私達を遠ざけたり、父さんは飲みに出掛けたり。

 継母と暮らす以前なら、こんな事はなかったのに。

 優しい人だと思っていたのに。


 継母は魔女に魔法を掛けられたのかもしれない。


 もしかしたら継母が魔女なのかな、と思った事もある。


 村の大人達の話ではとても綺麗な女の人、それが魔女らしい。


 継母も綺麗だから、もしそうだったら怖い。


「ねぇ、アダム。森に入っても、ちゃんと帰って来られる?」


「夜にならなければ魔女に会う事もないだろうし、大丈夫さ」


 アダムは私の手をしっかり握って離さないでいてくれる。


 森に入って薪木を集めると、それを縄で縛ってアダムが背中で背負った。


「そろそろ帰る?」


「そうだな」


 アダムのシャツの裾を掴んではぐれないように注意した。


「エミー、知ってるか?魔女と交わった人間は願い事を叶えてもらえるんだぞ」


「アダム、怖いよ」


「お前の願い事は僕が叶えてやるからな」


 私はアダムが大好き。

 優しい兄さんが側にいてくれるだけで嬉しい。


 薪木を拾って森から帰って来た。


 納屋に置きに行き、服に付いたゴミをパンパンと叩き落としてから家の中に入ろうとした。


 でも……。


 アダムに止められた。


「どうしたの?」


「何でもない……」


「アダム?」


 私は窓から家の中をそっと覗いた。


「エミー、見るな」


 そこから見えたものは……。


 ☆ ☆ ☆


 私達はもう一度、森に向かった。


「夜になったら魔女が出るのよ?」


「出ないさ。あれはただの噂」


 今度は薪木を探すのではなく、アダムと手を繋いで森の中の湖を散歩した。


「知ってるか?魔女と交わった人間は願い事を叶えてもらった代償として、魔女と交わらずにはいられなくなるんだ」


「でも噂なんでしょ?」


 私は気になっていた事をつい聞いてみた。


「あの継母って、魔女……じゃないよね?」


 窓から見えた継母はとても綺麗で、父さんは魅了されているようだったから。


「だとしたら父さんの願い事は何だと思う?」


 父さんの願い事……。


「魔女はね、何回でも願い事を聞いてくれるんだ」


「アダム……?」


「魔女と交わるとね、他の人間と交わる事が出来なくなるんだ。願い事の代償は大きいんだよ」


 なんでアダムがそんな事、知ってるの?


「父さんの願い事はきっとお金かな。生活するお金、遊ぶお金、僕達を捨てるお金」


「アダム、もう帰ろうよ。怖いよ」


 アダムがまるで森の魔女に魅入られたようで、不安なのだ。


「魔女の住む家に帰るのか?」


 継母が、魔女?

 いや、違う。

 魔女が継母だったという事?


 だとしたらアダムは。


「僕の三つ目の願いは、お前が僕を愛する事」


 まさか……。


「僕が願ったから、エミーは僕を怖がらなくなったんだ」


 私はアダムが大好きだ、兄さんなのだから。


「僕が願ったから、エミーは一緒にいたいと思うようになったんだ」


 あぁ、そうだ……。

 私は今よりもっとずっと子供だった頃、アダムが怖かった。

 私を刺すように見つめるアダムの目が身体中を縛る気がしたのだ。


「なのに、またエミーは怖がるのか?」


 アダムはいつから私の兄さんでいる事をやめたのだろうか。


「魔女がお前の願いを聞かないように願い事しないといけないな」


 アダムは私を見て笑う。


 そして、私の知らない真実を話す。


 魔女は願う者が女だった場合、その代償として若さと美貌を奪うという。


 ただ、村の女達は誰も魔女に会ってはいないらしい。

 若さと美貌を奪われるのが嫌だからだろうか。


「エミー、僕と二人で生きて行こうな」


 魔女の住む、あの家で……?


 ☆ ☆ ☆


 今日もアダムと一緒に森に薪木を拾いに出掛ける。


「ねぇ、アダム。私の願い事、聞いてくれる?」


 昨日の夜、寝る前に考えた。


 父さんはお金が欲しくて魔女と交わった。

 アダムは私が欲しくて魔女と交わった。


 そして私はアダムを魔女から取り返したい。

 それが私の願い。


 でも、そのために魔女に私の若さも美貌も渡したりしない。


 あの継母、いや魔女が綺麗なのは女達から奪っているからだ。


 私はそんな事しない。

 父さんみたいに欲張りじゃないし、アダムとも違う。


 私の心と身体は一つだ。


 だからアダムにもそうでいて欲しい。

 父さんにも昔のように働き者でいて欲しい。


 私は、私の家族を取り返す。

 あの継母という名の魔女から。


「私の願い事はアダムが叶えてくれるんでしょ?」


「もちろんだ。お前の願いはどんな事でも必ず僕が叶えてやる」


 だったら叶えてもらう。


 森の湖で私は言った。


「あのね……」


 ☆ ☆ ☆


 数日後。


 森で魔女が火に焼かれるというおぞましい事件が起こった。


 なんと村の女達が魔女を襲ったのだ。


 魔女は父さんやアダムだけでなく、村の男達とも交わっていた。


 彼らの願いは交わりによって精気を与える事。

 女達の若さと美貌を魔女に奪われないようにするため。


 でも同時に、魔女に魅了された男達が女達と閨を共にしなくなる事も意味していたのだ。


 村の女達の魔女狩りのおかげで男達に掛けられた魔法は解けた。


「もうお前の願い事は聞いてやれない」


「ううん、アダムは聞いてくれるはず」


 簡単な事だから。


「ずっと私と一緒にいて」


 じゃないと意味がないでしょ。


 村の女達の手を汚させたんだから。


 ☆ ☆ ☆


 その後……。


 村では、妙な噂が立ち始めた。


 森の湖に向かって願い事を叫ぶと、叶うという。

 ただし願い事が叶えられれば、その代償として湖の底に引っ張られる。


「アダム、今日は薪木がいっぱい集まったから、そろそろ帰ろう」


「そうだな、僕の可愛いエミー」


 焼かれた魔女は湖の底で男を待っている。


 私の兄さん、アダムを。


 でも絶対に渡さないから。


 じゃないと意味がないでしょ。


『村の女達を使って』


 私はそう言っただけ。

 魔女をどうしろとは一言も言っていないんだから。

 アダムが勝手にやったんだから。

 私のためにね。


 アダムはもう私から離れられないのよ。


 兄さんは狂ってるよね。


 でも……。


 狂ってるのは私も同じなのかもしれない。


 だって私達は兄妹なのだから。




「彼と彼女と二人の秘密」(全2話)

「捨てられた犬と拾った男の話」(連載中)

も掲載しています。

そちらもよろしくお願いします。


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