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何年婚約者やらせるつもりだ

 絶叫後、ピヨからのお説教タイム。


「レン様の調子はまだ戻らないのにデカい声を出すな」

「すみません」


「あとそういう下品な言葉使いはやめなさいな」

「すみません」


 一通り怒られた後


「というかヤン様のお相手どうする気だったのよ?」

 どうする気と言われましても


「とりあえずある程度落ち着いてから……」

「レン様がこの状態では政務は取れない。一旦はレン様が即位したとして、すぐにヤン様が執務をとることになる。その際に皇后候補不在って訳にはいかないでしょう? 幼くとも王になるなら后の婚約者は必要」

 まあ、そういうルールはありますよね。


「んで? 誰がいるのよ?」

 ……???


「女ならいっぱい……」

 そう言って外を指差すと、カブトムシをクッチャクッチャ噛みながら歩くワイルド系少女が通り過ぎていく。


「……まあ、ほら。他の街なら……」

「后に相応しい家柄で、生娘。そら婚約破棄されたのは傷かもしれないけど、逆を言えばレン様の婚約相手になれた家柄よ? シャオ以外にいないわよ。そんな名家で無事な娘」


 おお。またクソったれな理屈が。


「でもね。おかげでふっきれたの。最初はシャオがレン様と結ばれるべきだと思ったのだけけれど。ヤン様に相応しいのはシャオしかいないわ。レン様もね、私達を大切に思っていただいて。この前寵愛頂いたのよ」

 そう言ってすっごい嬉しそうに微笑むピヨ。


 寵愛、寵愛。

「な、なんだってーーー!!!」

 いつのまにーー!? ここでやったんですか!?


「こんな身になったのに寵愛くださったのよ。みんな嬉しくて泣いてしまったわ。だからね、レン様は私達が絶対に守る。シャオはヤン様をよろしくね」

 微笑むピヨの声もあんまり届かない。


「……ぴよぴよ!?、なんで私呼ばないの???」

 私元婚約者。寵愛なんて受けてません。


「……人の話聞いてた?」

「ヤン様っていくつだと思ってるの!? 10歳よ!10歳! 成人の儀まで5年もあるし!」


 成人の儀ってなに?というと、王族、貴族が子作りする年齢には制限があるのだ。


 精通はしても、早い段階での子種は不完全であることが多いと伝えられている。

 特に王家にとっての長男は跡継ぎを意味する。

 長男が不完全では困ることから、成人の儀は厳密に守られている。


 つまりだ。

「5年間お預けじゃん!?」

 簡単に人の事だからって色々決めんな!?

 私そのころ20だぞ!?


 ピヨは冷たい目でこちらを見ながら

「あのですね……王の后ですよ? お預けとか言わないで頂けますか……?」

「ピヨは寵愛頂いたからいいかもしんねーけど!?」

 いや、これあんまり言うとダメだ。でも


「その頃には20だよ私!? そんなのヤン様が15の頃には正妻交代まっしぐらだよ!?」

 そら今までも年上の后はいたが、基本は年下なのである。

 私だってレン様の5つ下ですからね。


「……あー……まあ、大丈夫でしょう? だってそもそも貴族の娘全滅してると思うわよ?」

「いや! それがね! アレンとかコウルとか! 側室連れて逃げてたんだよ!?」


 そう。二王の勢力を取り込んでビックリしたのだが、この二人、こんなヤバい時期なのに后やら側室やら50人ぐらいいたのだ。

 そら二人か三人ならそうなんだと思うけど。


 それも現地で側室増やしてんの。なにやってんのさ。


 んで、現地で側室増やしてた。つまりだ。この乱世では女の家柄など問わないという話。


 アレンとコウルがそうだった以上、ヤン様だってそうなりかねない。


「あんなに慕われてるし、大丈夫よ」

「あれは男女仲とかではないですからーーー」

 でもこういう会話は楽しい。


 私はずっと男達の間に挟まれて延々と戦争の話をされていた。

 本来はこういう風に恋の話とかで盛り上がるわけですよ。女官ですからね。


 ピヨも笑顔で話をしてくれる。

 久しぶりに心の底から笑った気がした。



 そんな楽しい時間が終わるとまた会議。

「……あの。レン様がいる以上、わたしはもう不要では?」

 恐る恐る手を上げると

「今日はその議題です」


 今回は各街の代表者とリジンジョウさん、ザンリ、レン様とヤン様がいる。

 もうダオは出席しない。

 だったら私もいいだろ? と聞いたのだが


「我が軍はヤン様をお守りすると集結しました。ひいてはヤン様を擁護したシャオ殿に忠誠を誓っています。シャオ殿抜きでは規律が保てません」

 リジンジョウさんは真顔で話をする。


 なにそれ?


「順軍も西軍と同じっす」ザンリが手をあげる。

 君たち、なに言ってるの?


「……軍がこうなのです。シャオ殿には引き続きいてもらえないと……」

 司会をしている南部中央部最大の街、ホンリオの領主さんは戸惑ったように言った。



 今回の会議は速攻だった。


「話し合う必要もなく。攻め込んでもらうしかないのでは?」

 南東部はまだ向こうは占拠したばかりで混乱は収まってないらしい。


 わざわざ時間を与える必要もない。

「同感です。悩む時間すら惜しい。南方を完全に解放すれば守りやすくなる」

「そうそう。はやくあの満賊どもを北に追放してやろーよ」


 威勢はいいんですが、勝てるか勝てないか。

「……しかし、勝てますか?」

 領主さん達はやっぱりそこが心配。でも


「今は勝てます。中央軍が来れば断言は出来なくなりますが」

「中央軍とどこでぶつかるか? が大事っす。出来れば河は挟みたいっすね」


 軍は当たり前のような答える。

 なんでこんなに負け続けてここにいるのに、こんなに断言できるのか。それは多分


「我々の最大の敵は仲間割れですから」



 =====================

 大清の宮殿では議論が収まらなかった。


「だから南東を守りたきゃ全軍率いて南下すべきですって。そうでないならとっとと5万の兵士に食糧と財宝積んで引き上げさせるべきです」

 大清の将軍ラムダは飄々と語る。


「なにを言っておるのだ!? 相手は烏合の衆三万だぞ!? その為に100万動かせ? 守るだけなら五万で十分! 北方もまだ落ち着いておらんのだ!」

 みなの反対を聞きながら


「いや、賭けてもいいですけどね。我々は貴重な五万の兵士と食糧と財宝を奪われ青い顔しますよ。100万? 実数は30万だ。兵の数もそうですが、南の食糧失って飢えるつもりですか? よりによって南部中央と南西部討伐の為にこちらから食糧も運んでるじゃないですか?」


 ラムダの言葉にずっと黙っていた大清の王が訪ねる。

「ラムダ。分からぬ事が一つある。それだけ強力な軍がいるならば、なぜ我々はこれだけ急拡大できたのだ? 南方も後少しだったではないか?」


 王の言葉に

「そら、あいつらは仲間割れしてお互いを殺し合っていたからです。今回それをまとめあげる男が出てきた。だから厄介だし対策を練りましょうという話をしております。王、私が考えますに、真っ当からぶつかるのは得策ではない。南方の富を引き上げ、河で対峙し、数年に渡る持久戦をやるべきです。その間に旗頭を暗殺すれば奴らはまた殺し合いに戻りますから」


 =====================


 レンとヤンは二人でいつものように講義をしていた。

「ヤン、何故軍はシャオを引き続き会議に出させろ、と言っているか分かるか?」

 レンの問いかけにヤンは戸惑ったように答える


「……西軍を受けいれたのがシャオだったからですか?」

「違う。ならば順賊はどうなる? あれはシャオは判断しておらん」

 兄の問いかけ。毎日こういう形で

「なぜこうなのか?」を問いかけ続けられていた。


「まず一つ目が、お前がまともに喋らんからだ。会議で殆ど発言しない。王としてはそれはむしろ美徳でもある。王は多弁である必要はない。問題は決断を下さないということだ。軍に纏わる重大な決断は全てシャオの口から出ておる。軍はあれを見て『司令塔はシャオだ』と思っている。これがひとつ。もう一つが重大だ。シャオは軍の拡大に積極的だ。一つたりとも拡大路線に異議を述べていない。また軍の支出も口出ししておらん。知らぬだけだと思うが、軍から見れば『動きやすい』と映る。特に二王の決断の時に『降るか死ぬかどっちだ?』と迫った話は兵達にも流れた。そのような司令官は兵から見れば好ましい。だから軍は『シャオを外すな』と言っているのだ。分かるか?」


「は! はい!」

「お前自身が変わる必要はある。しっかり会議でも決断しろ。この国難の時期は決断できるリーダーが求められている。いいか、シャオは俺を助け出すために兵と共に敵地に乗り込みに行ったぐらいだぞ? 兵達に無理を言ったら、自ら従軍してその責任をとるのだ。乱世の王はそれぐらいの覚悟が必要だ」


「はい! 見習います!」

 ヤンを見ながらレンは


「……シャオはお主の后とする。そうすれば兵達の求心力も増そう。とにかく覚悟を決めるのだ。わかったか」


 レンの言葉に、ヤンは顔を真っ赤にした。

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