愚かな潰し合いはまだ終わらない
「……シャオ。私は皆に合わせる顔がない……」
レン様。
今籠には私とレン様二人きり。
他の象に急拵えの籠が用意され、ピヨと3人はそちらに移動した。
なんで?
と聞く前に、ピヨからの強い目の前になにも言い出せなかった。
「レン様。お心を強くされてください。失った命もありますが、ピヨ達はレン様の為に命を懸け生き延びたのです。レン様がご無事であることが、彼女達に対する最大の褒美です」
青白い顔。かなり痩せられている。
ロクな食べ物を与えられてない。
兵士達は女には多めの食事をその場で与えていたが、レン様に持ち帰る食糧はかなり少なかったらしい。
今は籠に用意されていた保存食を多めに出している。
「……シャオ。ヤンが待っていると言った。ヤンは無事なのか……?」
「はい。真っ先にこちらに向かわれたのが幸いでした。ショウサの街は安全です。そこでレン様も養生されてください」
「……養生よりも、国をどうするか、だ。俺はこの身体では執務できぬ。我が家はヤンに託す。それがいい。問題は他の王族だ。シャオ。現状を伝えてくれ」
現状と言っても私が知ってることはだ。
「……アレン様は負けっぱなしで南の沿岸部にいます。コウル様は順族の兵士を取り込んで南東部を占拠しましたが、今は南東部を手放し、アレン様の近くにいます。二勢力とも、豊かな南西部のヤン様の勢力範囲を狙っている現状です」
レン様は暫く黙る。
「……あとは?」
「他には抵抗している王族は聞きません……」
「南西部は? どことどこを占拠している?」
「はい。まず最初にリョウンなのですが、ここは西軍により完全に壊滅しています。人が残っていません。ジュウレンからは男だけ連れ去られています。実質ショウサが中心地。ですが西軍の生き残りが我等に味方しています。そのおかげで南西部一帯の占拠は順調に進んでいます。と言っても南西部は……まあ辺境ですから。ただ、ケイリン市が味方になりそうです。そうなると兵士は充実するかと……」
ケイリン市は南西部と言うよりも南部中央部。
二王の勢力に近いが、こちらに使者が来たのだ。
理由は
「他の二王は評判が悪すぎます……。コウル様は配下の順賊を制御出来ません。勝手に略奪しているようです……。アレン様はかなり贅沢をされているようで……」
本当になにやってんだろうね、この人達。
滅ぶか、滅ばないか、の時に身内同士で殺し合って、治世もろくでもない。
「……そうか……。アレンとコウルは王位継承権はあったが、とても王の器ではない。……俺もだがな。ヤンに賭けよう。その為に俺は生き長らえたのだ。シャオ、苦労をかけるが、ヤンの為に尽くしてくれ」
「はい! 無論です!」
動物軍団はかなり急いで帰ってくれた。
そのせいか追手もなし。
「お兄様!!!」
ヤン様が街の外で待っててくれていた。
「……ヤン、久しいな。元気そうでなによりだ」
「……お、お兄様……そ、その身体……」
ヤン様が青ざめた顔をされている。
そう、レン様は一人では歩けない。
痩せこけて細い身体。
かつてのレン様の面影はない。
「レン様、まずは移動しましょう。積もる話は後で……」
「シャオ様。お帰りなさい。ご無事でなによりです。早速ですがご相談が……」
ダオと領主さんに呼び出されてそのまま会議。
いや、水浴びしたいんですけど。
「ケイリンは正式にこちらにつきました。その北にあるムリョウもです。これにより、完全に二王と勢力が接しています」
「レンさまがぁ いらっしゃったぁいじょう、もう、二王をどうするかぁ考えるべきかとぉぉぉ」
いや、あのですね。
「わ、私は単なる女官ですよ? そんな話をされましても……」
なんか気がつけば司令官みたいになってません?私。
「ヤン様はまだ幼いです。とてもこの難局を判断できるような年では……それに私も単なるお供についてきた下人です」
「わたしもぉ、たんなるぅ、いちりょうしゅにすぎませぇぇん」
つまりみんなそんな立場でも、判断できる年でもないと。
「レン様とヤン様にご相談してきますから」
レン様のお世話はピヨ達がやってくれていた。
最初は遠慮しようとしていたのだが
「ピヨ達がいなかったらレン様死んでたんだよ!? 他に誰がお世話出来るのさ!?」
と説得。
「……で、でも。私達は……」
「そんなん、負けた王族が悪いんだから仕方ないじゃない!!! そうでもしないと生き残れなくした王族達が悪い! でもそんな中でもレン様は生き残った! それを守りきったピヨ達が申し訳がってどうするのさ!!!」
こんな非常時に、貞操なんてなんの関係があるのか。
私はピヨにではなく、そんなことを当たり前のように言っていた過去のしきたりにキレていた。
ピヨ達がレン様をお世話しているお屋敷。
ここは元々ヤン様の為に作ってもらった家。
かなり質素で申し訳ないのだが、そこにレン様も住んでもらっている。
部屋に入るなり
「ヤン、泣くな。お前は泣いてる暇もない。俺の代わりに政を行うのだ」
「そ、そんな。お兄様……」
「今は国難だ。それも国の存亡がかかっている。俺の全てをお前に託す。いいか、時間が惜しい。俺の一語一句も聞き逃すな」
レン様がヤン様に教育していた。
それもなんかスパルタ気味。なんか鞭持ってるし。
「……し、失礼します。レン様、ヤン様。あのご報告が……」
一通り話を聞くと
「ヤン、どう考える?」
「……え? ええっと……」
レン様の問いかけに考え込むヤン様。
「考え込むな!」
「す、すみません……」
怖い。でもレン様はきっと時間が無いと焦ってるんだと思う。急いでヤン様に伝えようとしている。
「シャオ、お前はどう思う?」
私に振られる。いや、なんで皆さん私に?
でも
「もう二王とか滅ぼした方がいいんじゃないかな? って」
いや、これ以上身内で殺し合ってどうするんだ。
というのはあるんですが。
「殺す必要は全くなく。でも勢力は一つにしたほうがいいかと」
それに頷くレン様。
「他に手は無いのだ、ヤン。勢力はまず一つにする。今一番大きな勢力が取り込むのが早い。話し合いが可能ならすべきだが、あの二人は無駄だ。問答無用で攻める。話し合いにしてもその後だ」
レン様はそのままヤン様への御勉強タイムに突入。
その旨を皆さんにお伝えする。
そのための大会議。
リジンジョウさんとウェインさんもいる。
「一気に攻めます」
「……」
大西軍はあっさり承諾。
そして、今回はジュウレンとケイリンからわざわざ代表者が来てくれていた。
「南部だけでも勢力を固めてくだされば安心します」ケイリンの人
「少しずつ男達が帰ってきました……ですがまだ守備兵もいない。そういう点でもとにかく勢力範囲を確定していただいて、安定して頂きたいです」ジュウレンの人
双方賛成でした。
反対されると思ったのに。
「レン様は病気により立てません。代わりにヤン様からお話があります」
ヤン様。
なんか早くも半泣き。
大丈夫ですか、ヤン様。
「……戦争は嫌です。出来ればしたくはない。王族同士。兄弟のようなものです……」
おや?
「ですが、このままでは滅びます。二王は人心を失っている。このままでは滅ぼされる。だからこそ、私は二王の勢力を一つにします。そして南部をまずは解放する。それにより、皆さんの街を平和にします。北方の野蛮な行為は明らかです! お兄様は足を砕かれ! 両親は殺された! 民衆にもその被害は聞こえている! 我々は! 皆さんに今までと変わらない生活を与えます! どうか、ご協力頂きたい!」
ヤン様っ
「はい! このシャオ! 頑張ります!」
思わずハシャぐ。ヤン様、凄い。
他の領主達も
「かしこまりました」「精一杯努力します」と賛意。
南西部から、南部中央部に打って出る。
この愚かな殺し合いはなにも変わらない。
それでも
「レン様の無念と! ピヨの屈辱は必ず返す!!!」
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「まあ無理ですよ、無理。とっとと諦めることをお勧めしまっす。今なら連合軍として勢力を確保できるっすからねぇ」
二王のうち、コウルの宮殿。
ここで、元は順賊と呼ばれた兵達の敗残兵を取りまとめている将軍の一人、ザンリが明るい声で喋っていた。
「な、なにを言っておる! 満賊相手ならともかく! 相手は西賊の敗残兵だろう!?」
「敗残兵言うても、あいつらマトモじゃないっすよ。満賊もあいつらに負けっぱなし。西が滅んだのは自滅っすからね。今あいつらをまともに運用出来てるヤンとやらはすげーっすよ。西軍をまんまこっちに取り込んだら、やることは味方同士の殺し合い。俺らですら言うこと聞かないのに、ここに西軍なんて入れたら終わりっすよ」
「やかましい! また戦わないつもりか!? 南東部もそうだった! おまえ等は信用ならん!!!」
怒り狂うコウルに、頭も下げず退出するザンリ。
「兄貴、どうするんで?」
一緒に退出した部下が聞くと
「決まってらぁ。俺らはな。兄貴の仇をうつんだよ。あの満賊のクソヤロウ共はまた北の荒野に追い出してやる。その為にもここで西軍とぶつかる訳にはいかねえ」
「……つまり?」
「俺らは全員南西軍に降る。戦争になる前に降るんだ。急げ」
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二王の一人アレン。
アレンは南部中央部で一番豊かな沿岸の街にいた。
ここが最後の勢力範囲。
だが、アレンは真っ先に宮殿作りを進めさせた。
自分が快適に過ごす環境を最優先させていた。
アレンに付き添った兵士達もその建設に駆り出される。
だが不満が限界だった。
「これで三カ所目だぞ!?」
「作っては追い出されて、作っては追い出されて……宮殿なんぞ後だろうが!!!」
兵隊の不満。
アレンは逃げ延びた先ですぐに宮殿を作る。
宮殿建設に多額の金を使い、作ってる最中に攻め込まれるの繰り返し。
「ここだって、いつまでいれるか……南西軍の噂は聞いたか?」
「……南西軍だが、なんでもレン様を救い出したそうだぞ……」
「レン様……アレン様より継承権が上位ではないか……」
兵達の忠誠心はかなり低くなっていたところに、より正当性のあるレンの擁立。
「……ここにいても満賊とまともに戦えることはない。レン様がいるならば、南西軍へ……」
「そうだ! こんなところにいても仇なんて討てるか!? 南西軍に行こうではないか!!!」