北で大暴れする動物軍団
動物軍団は北に真っ直ぐ向かいました。
でも東北地域は敵地の本拠地近くです。
当然すぐに見つかりました。
兵士達に止められそうになりました。ところが
『アワワワワワワワワッッ!!!!!!』
奇声をあげながら動物軍団は真っ正面から突破。
止めに入った兵達を吹き飛ばして前進。
本当に吹き飛ばすのだ。
私の乗ってる象という生き物は30頭ほどいるのだが、それが先頭で踏み飛ばし、吹き飛ばす。
追いかけるにしても動物軍団はやたらに早い。
一気に引き離して目的のハルバイアに到着。
しかし
「……な!? なんなんですか!? ここ」
なにもない荒野。
こんなとこにいらっしゃるの?
騙されたか? と疑ったが
「シャオ様! 兵士が殺到してきます! こんな荒野にこれだけ兵士がいる以上、王族を捕らえているのは間違いありません! すぐにでも探して救出を!!!」
兵士の方の叫びに私は急いで象を降りる。
降りるなりウェインさんがそばに来てくれる。
護衛だろう。
そしてウェインさんは虎を指差す。
?
あ、
「と、虎に乗れと?」
うんうんと頷くウェインさん。
恐る恐るウェインさんの後ろに腰掛けると
『GAAAAARURUUUUUUUUU!!!!!』
虎の叫び声と共に一気に加速
「わーーーーーーーっっっ!!!!!」
思わずウェインさんにしがみつく。
速い! 速すぎますからーーー!!!!
虎が目指す場所。
それは大きな柵で囲まれた区域。
そこに向かって大きくジャンプ。
うん。ジャンプ
「キャアアアアアアアアアッッ!!!!!!」
跳ぶなぁぁあ!!!!
落ちるぅぅっっ!!!!!
ウェインさんが片手で押さえつけてくれる。
でもそのまま
『ドンッッ!!』
「いたぁぁぁいっっっ!!!!」
お尻がそのまま地面に叩きつけられる。
痛い痛い。
そのまま涙目で見上げると
「……は?」
そこには、ピヨがいた。
いきなり見つけたのがピヨ。
なんとラッキー。
「ぴよぴよっ! レン様連れて逃げるよ! レン様はどこ!?」
ピヨは呆然として動かない。
まあ虎に乗って飛び込んでくればそらビックリはするわな。
それでも時間がない。
「急いで! ぴよぴよも一緒に行くんだよ! 他に誰がいるの!?」
私の言葉に
「だからぴよぴよじゃないって言ってるでしょうが!!!???」
おお、いつものピヨだ。
「レン様どっち!?」
「こっちよ!!! でも歩けない!」
歩けない? レン様怪我されてるの?
「他の王族は? 女官は? 何人いるの?」
「王族はレン様だけよ。ここにはレン様とそれをお世話する女官達が閉じこめられている。……生き残ったのは4人だけ……」
生き残った?
「殺されたの?」
「……まあ、そうね……シャオ、あなたは? 大丈夫だったの?」
「ヤン様が私の追放先に逃げ込んできたの。ヤン様のいる街は平和よ。勇猛な兵士も大勢いる。レン様と女官達もとりあえずそこに逃げましょう」
「……逃げる……歩けないのよ? レン様。見れば分かるわ……」
見れば分かる。
分かりました。
「……な、なんという……」
逃げないように。でしょうね。
王族の。この優しい方を……
「レン様、シャオです。ここからお連れします」
「……? シャオ? 幻か……?」
レン様は青白い顔で言われる。
足の先が破壊されていた。これでは歩けない。
蛮族ども……
私は半泣きになりながら
「逃げましょう。ヤン様がお待ちしております」
レン様を私とピヨで引きずるように移動させる。
そこには虎が三匹きていた。
ピヨは走り出し他の女官も呼び出す。
「掴まってください! 一気に逃げます! 象に乗り換えれば快適ですから! それまでは我慢してください!!!」
殺到してきた兵士をウェインさんの部下は蹴散らしていた。いや、兵ではなくてですね、動物が蹴散らしてまして。
象さん大暴れ。
「引き上げますよ!!!」
「おらぁぁぁっっっ!!! 引き上げじゃぁぁぁああああっっっ!!!」
私達は象の籠に移動する。
籠は大きい。6人でも入った。
レン様は横になってもらった。
そしてピヨから聞いた話。
それは
「ぴよぴよーーー!!!」
思わず泣き出してしまう。
想像より悲惨だった。
ぴよぴよは、文字通り身体を張ってレン様を守り通した。
あの柵からは出られない。
食糧もなにもないのだ。
ではどうするか?
柵の外にいる兵士達から貰う他にない。
そのためになにをしていたのか。
それでも
「私は、レン様を守るために……」
そう言ってぴよぴよも泣き出す。
他の女官も泣いていた。
もっと早くくれば。という思いが強い。
それでも
「レン様は生き延びた! 皆さんのおかげで生き延びたんです!」
泣きながら叫ぶ。
女官が死んだ理由は自殺。
これに耐えられなくなった。
もしここにいる女官が全員自殺したら、歩けなくなったレン様は餓死していた。
私は遅かったかもしれないが、間に合わなかった訳じゃない。
まだだ。
このクソッタレ共に必ず復讐する。
大切な人達を傷つけた人達を、絶対に許さない。
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清の王宮は大騒ぎになっていた。
「正気か?」
「ちゃんと調べなおしてから報告しろ。意味が分からん」
宮殿に報告に来た兵士。
だがそのあまりのぶっ飛んだ内容に宮殿にいた全員から責められていた。
「……し、しかし! 本当に虎と象の大群が襲いかかりまして! レン達が連れ去られたのです!!!」
「……虎と象が連れ去ったのか?」
「いえ、虎に跨がった兵がおりまして……」
失笑する男達。
「あのな。虎に跨がるなど不可能だ。もっとマトモな話を……」
「まあ、おちつけ。それで? 結論としてはレンと女官は逃げ出したと?」
「はい!」
「逃げられる訳がない。足は破壊しているのだぞ? 馬車か? だが馬車ならばすぐ見つかる」
「そ、それが。虎と象なのです」
「そんなのが通ったら流石に大騒ぎになるわ」
結局、レン達を見張っていながら逃げられた兵士達は一旦全員投獄されることになった。
まだミィンジャオに心を寄せる人間は多い。
それもそうなのだろう。ぐらいに思われていた。
ワザと逃がした。そう思われていたのだが
「……南東からの撤退?」
同時に南方に展開していた軍から報告が来た。
一度南方からは完全に引き上げるべき。
大河であるリニュバ河で撃退すれば相手は勝手に自滅すると。
「……自滅もなにも。既にしておるではないか? あとは滅ぼすだけなのに何故わざわざ南東を手放す必要がある?」
「この報告からは意味が読み取れませんな。手を抜いているようにしか思えません」
「中央軍と交代させた方がいいかもしれませんぞ。このような報告を送ってくるようなところです。信頼出来ません」
清の王宮で議論の最中、ひとりの将軍、ラムダは一人考え続けていた。
(……レンを連れ出した。南方はどうも苦戦しているようだ。つまり、どういうことだ……)
王宮の議論を聞き流しひたすら考える。
(南方は三勢力。それぞれが潰し合っている。相手は連戦連敗。それがここに来て変わった? 誰かを旗印に決めたのか。いや、そうじゃない。恐らく)
「南西には動物を使った軍隊がいると聞いたことがあります」
ラムダは喋り始める。
皆は唐突に喋り始めたラムダをビックリした目で見るが
「恐らく南西に勢力を持つ西賊の残党でしょう。奴らがレンを攫った。レンは王位継承権では上位。レンを旗印に戦うつもりだ。意味が分かりますか?」
みなは黙って聞く。
「親も、妻も目の前で殺された男が、復讐のために戦う。しかも相手は西賊だ。ひた隠しにしているようですが、中央軍が西賊に半数殺されたのは知られていますよ? まあろくでもない事態ですな。とりあえず一旦南東からも引き上げるというのは採用したほうがいいのでは?」