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シャウサへの帰還

 とりあえず「内密に」と言うことで父は来ることになった。


 その間も私のいる洞窟には代わる代わるお経を唱えにくるのである。なんの嫌がらせだ。


「ヤン様元気かなー」

 割と日が経ってしまった。

 そろそろ帰りたいのに。そう思っていると


「お待たせしました」

「……なんですか? それ?」

 リジンジョウさんがデカい袋を引きずっている。


「見られるとマズいということで、袋に入って頂いております。このままお話を」

 お話をって


 とりあえず袋から覗くと確かに父だ。うずくまっている。


「とりあえずこの教典に書いてあることはなんですか? 涼の復興とか書いているらしいですけど、まだなんか仕出かそうとしているんですか?」

 私の問いかけに

「……教義を変えたと言っても一から十まで変えたものが受け入れられるわけがない。基本的な教義はそのままだ。涼の復興にいたる道筋も変えられないのだ。そこを弄れば疑われる。あくまでも教義通り。ただしシャオの子が涼の復興になると思わせる教義にする必要があった。つまり女神の子こそが涼の王である。その国号がなんだろうが別に構わん。ミィンジャオだろうが、別の国だろうがな」


 つまりだ

「破壊の女神は旧国を滅ぼし、涼を復興させる。そのことに変わりは無いけれども、涼の復興とは私の子が王になることだと」

「その通りだ」

 ああ、だからかぁ。あのお経の意味が分かってきたぞ。


「リジンジョウさん、あの人達の言葉分かりますよね?」

「私はそこまでは……まあ知らないわけではないですが」

「フェイティバ、アルバと繰り返し言っています。これは『我々から夫を選んでください』みたいな意味なんじゃないですか?」


 なんかね、お経唱えてんなーとたまに見に行くと、筋肉ムキムキの若い人達がポージングやってるのである。

 どんな儀式やねん。と不思議に思っていたのだが、父の話を聞いて繋がった。

 あれお経じゃなくて求婚のプロポーズなんだ。


「はい。ニュアンスは違いますが、意味は似たようなものです」

 うむ。


「じゃあ早く帰りましょう。ああ、あと儀式はまだだ、と長老さんが言ってました。なにやるんですか?」

「……長老は具体的な話をしていなかったのか。まあしていたらもっと怒り狂っていただろうしな」

 怒り狂う?


「子を為す姿を皆に見せながら教を唱えるのだ」

 ……?

 ……………?????


「はあ!????」

 つまり?


「……房事を皆の前でやるのです。皆と言っても、選ばれた人間だけですが……」


「もうミィンジャオは戦争しませんし、もうトハンとかどうでもいいから帰りましょう。トハンの方への詫びはあなたが腹を切るなりお好きにしてください」


 そんなことしてられるか。帰る帰る。


「おまちください、シャオ様。お怒りはもっともですが、治世としてトハンの反乱はマズいのです。我々もソンケワンを失います。ウェインはトハンの民です。私一人では守りきれません。ザンリも信頼できませんし……」

 うーむ。それはまあ。


 そもそもトハンまで来た理由がこれだったのだ。

 トハンの皆さんに協力して貰えれば国も治まる。

 でも

「それこそ教義書き換えなさいな! そんな儀式絶対しませんからね!」


「いきなり改訂版が出たら流石に疑われるだろうが」

「なーーんで、そこは変えなかったんですか!?」

「さっきも言ったろうが。突然全部変えれば疑われるわ」


 このバカ親父め。


「そもそもヤン様はここに来ませんよ。儀式をここでやるというのは諦めてもらわないと」

「……そこは色々悩ましいところなのですが……」

 リジンジョウさんが困った顔のまま


「とりあえず今する必要はありませんから、今回はそのまま帰られたらどうでしょう? ただ、いずれは……」

 いずれと言われても


「まあそうしましょう。今回は帰る。儀式はいずれやると言うことで」



 とりあえず一回帰ります。

 と言ったら囲まれました。


「私達になにか落ち度が!?」

 なんか長老たちが泣いてる。


「いえ、まだやることがあるのです。誠意は分かりましたので」

「儀式はこちらで行われるのでしょうか!?」

「既に答えたと思いますが」

 最初に聞かれたんだよね、それ。どんな罠だ。


 その答えに少しホッとした顔を見せる。

「また来ますから」


 その言葉にようやく囲みが解けると

「ウェイン!」

 嬉しそうなリジンジョウさんの顔。


 虎に跨がったウェインさんがそこにいた。



 さあ、ウェインさんの虎に跨がってショウサに帰るぞ! と思ったのだが、なんか二人で揉めていた。


 いや、揉めると言っても言い合いなんてしてない。ふて腐れる無言のウェインさんに、リジンジョウさんが一方的に説明しているだけである。


「だから、そもそもヤン様がいないのだから仕方ないだろう?」

「……」


 無言なのに意志疎通出来ているリジンジョウさんは凄いなぁと感心するのだが


「メガミサマ、ギシキ、ナンデシナイノ?」

 そこにウェインさんの妹さんも来る。


 まだこの娘は喋るから意志疎通できるが


「相手がショウサにいるのです」

「ギシキ、アイテキテナイ。アニキ、スグツレテコイ」


 妹さんの声にウェインさんは首を傾げる。


「アニキ、バカダカラギシキシラナイ。アイテトイナイト、ギシキデキナイ。ツレテコイ」


 その言葉になんかウェインさんが、納得したように頷いた。


「……納得したのか?」

 リジンジョウさんが微妙な顔をするが


「大地が揺れ、儀式が発動したのはヤン様とショウサで房事をされたからか。そして正式な女神降臨の儀式は全て片付いてからヤン様とこちらで行うと。済まない、やっと分かった」


 …………

「え? 今のウェインさんが言ったんですか?」


 めっちゃ渋い声。しかもいきなりベラベラ喋ったからビックリした。


「……無口なだけで、喋れない訳ではありませんから」

 妹さんが片言だし、なんかそういうのでもあるのかな? と思ってたんですが


「それとシャオ様。先程のウェインの話で進めましょう。大地鳴動したのはヤン様との房事が理由。女神降臨の儀式はトハンで行う。そうすれば皆納得します」


 房事、房事って、君たちね。


 まあ、とりあえず納得はされた。

 ウェイン兄妹が私達をショウサに送ってくれる事になったのだが



「キャアアアアアアアアアアッッッ!!!!」

「メガミサマ、アバレナイデ」

 私は虎で帰る。と主張したのだが、鳥になりました。

 鳥はリジンジョウさんの重みに耐えられないそうです。


 でも

「こわいぃぃぃっっっ!!!!!」

「モウチョットデツキマス」

 絶対嘘だ

 だってまだ山しか見えないし。



 結局声が枯れるまで叫び続けた後、ようやくついた。


 ショウサにである。

 速かった。物凄い速かった。


「シャオ!?」

 デッカい鳥にショウサの人達が集まってきたのだが、そこにピヨがくる。


「ぴよー。もう鳥はこりごりだー」

「遅かったですわ。でもおかげでレン様の体調は回復しました。すぐにリンアンに向かいます。大丈夫ですか?」


「えーーー。……まあ、分かったよ」

 ちょっとは休ませてほしい。


「すぐと言っても明日です。今日はゆっくり休まれてください」



 ゆっくり休まれてください。

 私はそう言われたんですが。


「しゃおーーー、しゃおーーーー」

 ヤン様がずーーーーーっとべったり。


「ヤン様、あの。とりあえず水浴びを……」

 何しろトハンは寒くて水浴びもろくに出来なかった。とりあえず身体を清めたいのですが。


「しゃおぉ……」

 ヤン様は真っ赤な顔をしたまま

「……あの……」




 翌朝。


「ぴよぴよ。わたし寝れてない、出発は明日がいい」

「……あのですね、声は響いてたので知ってはいますが、やり過ぎでは?」

 まだレン様とヤン様は同じ家にいる。

 だからそら分かるのだ。


 わたしもレン様とピヨ達の逢瀬の声聞こえたりしてたからね。


「眠い」

 だってヤン様収まんないんだもん。


「馬車でお眠りくださいな。さあレン様が待ちわびています。出発しますよ」


次回最終回です

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