ウェインの妹
トハンへの移動。
「山がー」
馬車が通れません。
なので歩いて移動。
リョウン地方から距離は大したことがないのだが山が険しくて移動が大変。
「シャオ様、大丈夫ですか?」
リジンジョウさんが心配してくれる。
「……私に合わせると遅くなります。とは言え私はこの山道に耐えられません。なにかいい乗り物ないですかね?」
少し悩むリジンジョウさん。
「……そうですね。このスピードでは何日かかるか……」
地図を見てトハンのほうが近いかなぁ? と思ったのだが、こんな狭い道だとは思わなかった。しかもめっちゃ角度のある坂道。転んだらそのまま落ちそう。
「そういえばシャオ様はウェインの部隊で虎に乗られたんでしたっけ?」
虎。うん。
「そうですね。一瞬ですが」
「あれはウェインなどのトハンの民でないと乗りこなせないのですが……」
ですよね。あんなの無理です。
「虎ぐらいしかこの山道を素早く移動できません。とはいえ私も虎には乗れないもので……」
うむ。歩くか。
そう思って覚悟を決めると。
「……メガミ、サマ」
上から声がした。
見上げると鳥。見たことがないでかい鳥が羽ばたいている。
「はい?」
鳥が喋ってるの?
と見ていると
「メガミサマ、オムカエ二、キマシタ」
少女の声。よくみると上に人らしきものが見える。
「誰だ! トハンの民か!?」
リジンジョウさんの大声に
『クエーーーー!!!』
あっ、鳥さんが逃げた。
またしばらくたつと戻ってくる。
「オオゴエ、ダサナイデ」
片言な少女。
「ワタシ、レイン。ウェインのイモウト」
ウェインさんの妹らしい。顔は見えないが。
「……ああ、聞いたことがある。そうか。シャオ様を迎えに来たのか?」
「メガミサマ、ムカエニキマシタ キンニク、ムリ。アルケ」
鳥は大きいけど、確かに男性二人が乗れるようには見えない。
「ああ、我らは歩こう。シャオ様を頼んだ」
待って。
「と、鳥に乗るんですか!?」
簡単に言わないで。落ちたらどーすんの?
「メガミサマ、ヘイキ。メガミサマ、オチテモシナナイ」
全然平気じゃない件。
鳥がそのまま降りてくる。
そこには
「……なんです?その仮面?」
なんか大きな仮面を付けていた。
「メガミサマ、ジュンバン、アル」
女神様、順番がある。
意味が分からない。
「トリアエズ、ドウゾ」
よくみると少女(多分)は鳥の上に籠をつけ乗っていた。ちゃんと私の分のスペースまである。
「……ええっと、踏んで大丈夫?」
鳥さんを踏みながら上に登る。
横に座ると
「シガミツイテ」
一言。
その瞬間
『バサァァァァ!!!』
「キャアアアアアアアアアア!!!!!」
凄い勢いで鳥が羽ばたき飛び上がった。
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「ピヨさん、伸ばせませんか? 薬草のスープは何度試しても日持ちしません。何より問題なのは、この薬草を煎じる時です。移動しながら作るのは相当酷です」
ピヨ達とショウサの人々はレンの薬草造りに困り果てていた。
何度試しても日持ちが出来ない。
4日で腐る。
移動しながら煎じて造ることが出来ないのが致命的だった。
「薬草の酒造りですが、漬け置きで何日かかるか……現実的ではないです。現状ではどんな工夫をしても6日です」
頭を抱えるピヨ。
「……薬草のスープの効果は絶大です。逆を言えばこれが無いと、ゼンウラに往復した時のようにお身体が……」
「この薬草のスープ。煎じる手間を出来るだけ工夫します。それでも研究に20日はください」
「……はい。私達にはなにもできません。どうかよろしくお願いします」
20日。
ピヨ達は暗い顔をする。
先日、遂にリンアンから使者が来たのだ。
儀式の準備が整いつつある。今から出発してもらえればちょうど間に合うぐらいだと。
それを聞いてレンはすぐに出発しようとしていた。
「……とにかく説得しましょう……出来る限り」
ピヨ達は深刻な顔でレンの元に行くが
「なんだ! その姿勢は!? 立ち上がることも出来ぬのか!?」
「ご、ごめんなさい!」
レンとヤンの声。
ピヨ達が見ると、レンがヤンを叱っていた。
「王位継承の儀だぞ!? みっともない姿を臣下に見せる訳にはいかぬ! 基本的には立って座るだけだ! なんでそんなにみっともなく立ち上がるのだ!!!」
レンは王位継承の儀の練習をヤンにやらせたのだが、その動作があまりにもみっともなく激高していた。
「……立って、座るだけだから問題無いと思っていた俺がアホだった……練習するぞ。椅子に座って、立つなどは馬車では無理だ……早く出来るようになれ。出来次第出発だ」
その言葉にピヨ達は安心したように微笑む。
実際、この訓練は長引くことになった。
「違う! もっと時間をかけて立ち上がれ!!!」
「は、はい!」
あれから10日。まだダメだった。
見守っているピヨにはなんとなく分かっていた。
ヤンは物覚えが悪い上に、厳しく言われるとパニックになる。
シャオのように、優しく丁寧に教えないとちゃんと憶えない。
だが
(ヤン様、申し訳ありません……)
この足止めは幸いだった。
レンは大声を上げながら怒っているが、これが出来るぐらいに体調が回復している。
薬草のスープの効果は確実に出ていた。
そしてその日持ち問題も
「薬草の日干し期間を伸ばすことで、日持ちも伸びるようです! 今大量に日干ししていますから!」
ショウサの人々はなんとか日持ちする方法を編み出していた。
あともう少し。
祈るようにピヨ達は祈ったいた。
たが、それと同時に
(……ヤン様で、新しいミィンジャオは大丈夫なの?)
そんな不安も心によぎっていた。




