トハンヘの寄り道
結局嫌がる父を連れてショウサに帰ることになりました。
トハンの民にバレたらまずい。
そもそも、まずは私がトハンに行くべきとか色々言われましたが
「とりあえずレン様に詫びろ。話はそれからだ」
と聞く耳持たず出発。
「大体娘の私ですら見分けがまともに付かないんですよ? バレるわけ無いじゃないですか」
「分かるやつは分かる。特にトハンの女神信仰は異質だ。外見を変えても分かる」
まあそれは良いとして
「それはともかくリジンジョウさん? なんで私がトハンに行かないと行けないんです?」
この父はあまりそこらへんを喋らない。
でも明らかに「とりあえずトハンに行ってくれ」という圧はかけてくる。
「ライディラ様がトハンとの協力を得るときに『女神はまずはトハンを訪れる』としたのです。まあすぐに行かなくてもいいかな? とは思っていたのですが、流石に先にリャン族と接触したとなると話は変わりまして」
なるほど。
「結局この親父が適当なこと言ったから大変になっただけじゃないですか……」溜め息。
とりあえずレン様のところに父を置いてトハン。ああ、違う。その前にリンアン行かないと。
って、あ。
「……まずいな。リジンジョウさん。私がショウサ帰ったらリンアンへ移動しないといけません」
「……リンアンで王位継承の儀式をするからか」
父が答える。
「ええ。先延ばしにしていましたが、流石に儀式の準備も、もう終わった頃でしょう。そこから私だけトハンという訳には行きません」
青ざめるリジンジョウさん。
「……偶発的なリャン族との遭遇は誤魔化しようがありますが、流石に大々的な儀式をやってもまだ来ないというのは流石に……」
それに頷く父。
「まずいな。先にトハンだ」
「先にトハンだ。じゃねーんじゃ」
あーあ。どーしましょ。
まだリョウン地方。どっちが近いと言えば
「まあトハンに行くしかないんでしょーねー」
溜め息をつきながら
「とりあえずレン様にお手紙書きます」
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ソンケワンとそれを慕う300人の突撃。
ただ、戦場で死ぬためだけを目的とした突撃は、敵の陣を突破し、王宮の入口にまで到達していた。
「王よ、ここは一度退くべきです!」
「敵はもう入口におります!」
臣下達の騒ぎにも王は騒がず
「南方は諦めた。だがこことチュウレイは死守せねばならぬ。一度退けば挽回は不可能だ。敵は寡兵。ここを退くわけには行かぬわ」
「しっ! しかし!!!」
そうこうしているうちに
『ドカンッ!!!』
凄まじい大きな音が響く。
「突破された!!!」
「道を塞げ!!! 王を守れぇぇ!!!」
しばらく剣戟と大声が響き渡る。
「もう敵は来ます!!!」
「お逃げください!!!」
臣下達の声にも清の王は動かない。
そして
「やあ! あなたが王様かい?」
血まみれの少年が王の待つ間に辿り着いた。
「そうだ。儂が大清の初代となる王だ。名を聞こうか」
「大西の敗残兵、三柱の一人ソンケワン」
「ふむ。名は聞いておる。それで? 他の兵はどうした?」
「女神の元に消えた。後は僕一人だね」
ソンケワンの右腕は既に切り刻まれて動いてなかった。
足も左脚を引きずり満身創痍の状態。
「もう戦えまい。トドメが必要か?」
「いや? 最後まで戦えるさ。最後に王相手に戦って女神の元に行くのもいい」
そこに
「悪いなソンケワン。相手は王ではない。格が落ちて申し訳ないが」
後ろから声が響く。
「ラムダ様!?」
「なぜここに!?」
王を囲うように守っていた兵たちが驚き叫ぶ。
「もう南軍はゼンウラに引き上げた。俺だけ急いで戻ってきたんだよ。間に合った扱いかな? これは」
剣を引き抜きソンケワンに突きつける。
「ソンケワンは素手でも強い。顎の力で人間の喉元を噛み切る。片腕、片足だろうが相当強い。間に合って良かったよ。さあ、女神とやらに送り込んでやる」
そのラムダの言葉に
「全て教義通りだよ、ラムダ。知恵も祝福もない、我等、大西の敗残兵は、女神の祝福と共に神の軍団となる。僕は若々しいまま、敵の大将軍に殺され、伝説となる」
そのまま、ソンケワンはラムダの剣に向かい走る。
撃退しようと構えるラムダだったが、そのまま
『ザシュッッ!!!』
「なっ!?」
構えた剣にソンケワンはそのまま突撃した。
「これで、終わりだ……」
血をはきながら
「……これで、我らは……女神に……」
そのまま、ソンケワンは笑顔で息絶えた。
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シャオからの手紙がショウサに届いた。
軍は王都に攻めあがっていること。
リジンジョウと合流し、チュウレイを攻めていた軍はゼンウラに引き上げたこと。
父ライディラが生きていたこと。
その父がした約束を果たすためトハンに向かっていること。
それまでショウサで待っていて欲しいとの内容だった。
「……トハンか……遠いな」
「レン様。未だにリンアンから全て準備が終わった連絡もありません。そして幸いなことに薬草がかなり効いています。このまま治療を続ければ必ずやよくなります。もうしばらくの辛抱ですから……」
ピヨがレンを宥める。
実際にシャオが旅立ってからレンの調子はかなり良くなっていた。
ショウサの女達がレンの為に新しく調合し直した薬草のスープが効いていたのだ。
「この薬草のスープは日持ちしますか?」
ピヨは女達に聞くが
「4日程度なら……問題は原料のこの薬草です。日干しが何日も必要ですし……」
「酒に出来ないのかな? と今開発しているところです。酒にしてしまえば持ち運びも、日持ちの問題も解決しますし……」
状況を一通り聞くが
「現状では持ち運べない。シャオが帰ってくる前に。このスープの持ち運び問題を絶対に解決しましょう」
女官達は頷く。
「とは言え私達に薬草の知識はない。ショウサの皆さんの努力を祈るしかありません……」
実際ショウサの街はレン達に好意的だった。
王であるにも関わらず、気さくに対応するからだ。特にシャオは人気だったのだが
「シャオーーー」
一人で泣いているヤン。
シャオがおらず、女官達はレンの世話で精一杯。
なので街の人間が交代でヤンに食事を持ってくるのだが
「これ、美味しいのに」
ポリポリとトンボを食べながら、ヤンに昆虫を勧める少女にヤンはどん引きしていた。
なにかあると食事に虫が混ざってくるのだ。
ショウサの人々にとって、森と同化した昆虫を食するのは当たり前だった。
「早く帰ってきてーーー」
ヤンの叫び声が街に響いた。




