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父との対話

「……ええっと……?」

 誰ですか? この筋肉。


「……念のためいいますが、ライディラ様です……」

 リジンジョウさん。


「私の父は髪ちゃんとありましたし、こんな筋肉どころか、やや太り気味のおじさんだったのですが?」

 でもなぁ。なんとなくわかる。


 目の前の筋肉は父である。

 声がそうだし、目もそうだ。

 顔は大分引き締まって面影はなくなりつつあるけれど。


「……軍と移動するうちに、筋肉をつける楽しさに目覚めてしまってな……」

 めっちゃ人生エンジョイしてますね、親父。


「んで? まあ父なのは分かりますよ? 親子ですから。偽者つかませるならもっとそれっぽい人用意するでしょうし」


 とりあえず小屋の中に入る。


「……あのさぁ……」

 中には筋肉を鍛える為のような道具が満載。


「座れ」

「座るとこないじゃないですか……」

 仕方なく椅子みたいなのにすわる。が


「いたーい!!!」

 座った途端にお腹を締め付けるように椅子が動くのだ。


「それは腹筋を鍛える椅子だ」

「めっちゃ人生楽しそうですね!!!」


 なんでこんなもん作ってるんだよ。


「そこに座れ」

 道具に囲まれたちょっとした隙間に埋もれるように座る。


「んで? お話をどうぞ」

「……なにから話すべきか……。そもそもは先王の疑心暗鬼が国に混乱をもたらした。ミィンジャオ国はここ数十年、王がまともに治世を行わなかった為乱れていた。という事になってはいたが、実際言うほど乱れてはおらん。家臣に任せてやっていた時代の方が上手くいっておったのだ……。先王は国を立て直そうと努力をした。だがその努力は報われなかったのだ。それが、家臣が逆らっている、家臣が手を抜いていると疑うようになった。今までの怠けていた王よりも、努力している自分の治世が上手くいかないなど信じられなかったのだ……」


 父は溜め息をつき

「その疑心暗鬼が国を滅ぼした。順と西の反乱は農民からの税金の取り過ぎが理由だった。王が自ら定めた新たな税は、農民に対して取りすぎになったのだ。当然反対したが、財政難を理由に強行した。その結果反乱が起こったが、王は『自分の政策を批判するために家臣が裏で反乱を煽っている』と疑心暗鬼を強めただけだった。そしてなによりも問題だったのは北東で満賊と戦っていたラムダの追放だ。ラムダは軍人として、北東の満賊の押さえ込みに成功していた。だがハッキリと言う性格だったからな。ハッキリと王に言ったのだ。『あのバカみたいな税制で農民が逃げて戦いにならない。今すぐ止めてくれ』と」


 ラムダは敵の満賊の将軍として戦っている。かつてはミィンジャオの将軍。それが満賊に従い戦っているのだ。

 その理由は


「それに激怒した王はラムダを放逐した。将軍職を取り上げ、一兵士として北部中央に移動させた。これがまずかった。ラムダという名将を取り上げられた北東軍は一気に満賊に攻め込まれ、王都間近まで戦線を下げたのだ。これにまた王は疑心暗鬼を深めた。軍がラムダ放逐を不満に思い、わざと戦線を下げたのでは? とな」


「……あの? 聞いていると先王って相当……」

 疑心暗鬼って言っているけど、単に自分の失敗認めない人ってだけでは?


「もう完全にお手上げだ。なにを言っても聞いてはくれない。このままではミィンジャオは滅びる。それはもう仕方ない。だが、満賊も、農民反乱の順賊も、とてもこの大陸を治める器ではない。だから初代ミィンジャオの復活を描いたのだ。女神信仰を利用すれば、リョウン地方とトハンとリャン族が味方になる」


「ですが、なにもこんなバカ正直に殺して回る必要がどこに? 他はともかく王族を殺して回る必要など……」


「あったのだ。それを説明しよう。まずヤン様とアレンとコウルの三人は初代の血だと儂はダオに説明した」

「ええ。私もそう聞きました」

「だが、初代の血と簡単に言うがな。血は様々な形で繋がりあっておる。そらヤン様の母上は初代の血筋だが、レン様の祖母だって初代の血筋だぞ? 誰がどこまでというのは実際に難しい。その上でこの三人には実は共通点がある。それは初代の血筋という事ではない。現在のミィンジャオ王家の血筋を引いていないということだ」


 ??? え?

「ヤン様もアレンもコウルも、初代の血筋は引いてはいるが、現王家の血筋はない。この三人は不義の子なのだ。ヤン様に王位継承権がいかなかった理由はフワン様ではない。不義の子だったからだ。アレンもコウルも。母が不倫をして出来た子だ」


 ……はい?


「女神信仰は正しいのだ、シャオ。俺が死なないが故に女神が降臨していないだけだ。死ねば発動しよう。信じるに値することが起きたのだよ。王の血筋のない三人が国を守りきったのだ。全て女神信仰の通り」


 面影がなくなっていたから気付くのが遅れた。

 目の前の父は、狂っていた。


「俺の死によって女神は降臨する」

「……人に言い過ぎて、自らも信じましたか……それはともかく、ヤン様が不義の子?」


「俺は大臣だった。そのあたりは知っているさ。アレンとコウル……本人に聞けば怒りながら答えるだろうよ。『そのような噂は不敬だぞ』と。噂は常にあった。だから家柄で王位継承権は上位でも地方にとばされていたんだ。だが、この二人は最後まで抗った……女神信仰は正しい。トハンの民の対策も終わっている。シャオが涼の血筋ならば、ヤン様との子は古き血だ」


「子供とか簡単に言わないでください。ヤン様はまだ幼い」

「女神がヤン様と婚姻する。そして子をなす。それが重要なのだ。まだ生き延びていたのはそのトハンの説得を見届けようとしたからだ。さあ、ジョウ。これをトハンの民に見せるのだ」


 そう言ってリジンジョウさんに本を渡す。


「これは女神信仰の教義を改めて書き直したものだ。シャオに都合がいいように書き換えている」

 おい。


「これをトハンの民に見せろ……これで俺の使命は終わりだ……」


「……死ぬとか、終わりとか、簡単に言うな。自分のしでかしたことは、命ある限り償いなさい。死んで終わりなんて単なる逃げよ」


 まだ聞きたいことは山ほどある。

 そもそも偽の宗教本作って終わりって。


「逃げか。そうだな。これは逃げだ。俺は疲れ果てた。主を裏切り、妻を裏切り、娘を裏切った。ミィンジャオは残ったがこれがなにになろうか。ヤン様が王になる。ヤン様はそれが幸福なのだろうか? ヤン様には王の資質があるとは思えぬ。民は本当に幸せになるのだろうか? ……だが、もう俺のやるべきことは終わった……」


「勝手に終わらせるな! 戦え!

 それでもライディラか!!! 名臣と呼ばれた父か! やることやったのであとは知りません。って、そんなの認めてたまるか!!!」


 私の激高にも父は弱々しく首を振り

「もう俺は終わりだ。もうなにも策はない。思い付かないんだよ。全ての才は投げ出した。もう俺にはなにも残ってはないんだよ」

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