作られた女神
『クゲェェェエエエエ!!!!』
空に響き渡るデカい声。
森に住んでいるデカい鳥の鳴き声なのだがこれもなんか日常になりました。
「ヤン様の朝ご飯作らなきゃ……」
朝は鳥の卵を焼いたもの。
王宮でも食べられることもある高級品。
元々はショウサの方に住んでいる鳥なので、新鮮かつ美味しい。栄養ばっちり。また卵そのままなので毒の心配もそんなにしなくていい。
眠い目をこすって鳥のいる小屋に向かう。
そこに卵を産んでくれる鳥がいるのだが
「……ピヨピヨ?」
ピヨがいる。
レン様のお食事作るからいて当たり前なのだが気になることが。
顔色が悪い。
「……ま、マズい。……まさか?」
「マズい? 卵マズいの?」
この卵滅茶苦茶美味しいんですけどね。
「あ! シャオ! ヤン様は!? ヤン様のご体調は!?」
「……え? へ? 昨日も元気……だったけど」
色々元気。ヤン様最近夜に元気になるんだもん。
「私も含め、女官4人の体調が優れない! 毒を盛られているのかもしれない!」
「な!? なんですって!? いつから!?」
「夜ですわ! ということは……」
「食材を確認しましょう! ダオを呼ぶわ! ダオ!!! ダオ!!! 起きなさい!!!」
私と共にショウサまで来たダオ。
フワン様毒殺以降、彼に食材管理を任せていたのだ。
彼すら把握出来ずに毒を盛られたとなれば、もうこの街から出て行くしかない。
しかしそれは最悪の選択肢に近い。
ショウサは薬草が豊富で、安全な街だ。
だからレン様は無事だった。
こうなれば犯人探しをするしかない。
でもなんとなく気づいてる。
犯人。
それがやれそうな人間。
動機は分からないが、やれるとすれば。
「……ピヨ、ダオと話す。でもヤン様には決してこの事は伝えないように」
「……つまり? まさか?」
「当然信じてはいたわよ。だから任せた。でもこれで毒が混ぜられたならば、答えは一人」
ダオはどこまで考えていたかは分からないが。
私達は馬鹿ではない。
徹底的な対策はしていた。つまり。
「シャオ様! なにごとが!?」
慌てるダオ。
でも
「ダオ。改めて聞くわ。あなたお父様になにを託されたの?」
関係のない話を始めてピヨがキョトンとした顔をする。
「……は? な、なにを? それはあのお手紙の通り、お嬢様をお守りするよう……」
「ダオ。リジンジョウから聞いた話。そして今、報告が一切来なくなった軍の話。それらを総合して考えた。父は、ライディラは」
私は震える口で言葉を吐き出す。
「ミィンジャオも、順も、清も滅ぼして、自らの王朝を作ろうとしているんだ」
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ライディラがミィンジャオで失脚し、リョウンに追放される命令が出たとき、ライディラはダオを呼び出した。
「ご主人様、お呼びでしょうか?」
「……」
ライディラは憂鬱な顔をする。
「この度の件は誠に……ですが、このダオ。リョウンであろうと、どこまでもご主人様と共に……」
「ダオ、俺はもうお前の主人ではない」
「そんな! そのような事は言われないでください……このダオ、どこまでも……」
「お前の主人はシャオになる」
「……シャオ様……はい! お嬢様をお守りしろと! もちろんです!」
笑顔のダオに
「もうミィンジャオはダメだ。だが順も清も西もダメだ。どこが支配しようと民は不幸になる。民の為に私は修羅になろう。後世からどのような罵声を浴びようとも、私は民を守る。ダオ、シャオと共に行動しろ。そして」
ライディラは、静かな声で
「シャオがこの大陸すべてを支配するのだ」
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トハンは蛮族と呼ばれているが、実際はとても文明的だ。だがそれでも蛮族と呼ばれるには理由がある。それが宗教だった。
トハンの宗教は原始的だった。
女神信仰で、救世主の女神が現れる。そう信じている。
ミィンジャオから見ると野蛮な教えも多かったからなのだが、トハンに近いリョウンではその信仰は比較的盛ん。
これに目を付けたのが順から別れ、リョウンを占領したハイセンだった。
「女神信仰素晴らしいではないか! 我々はその信仰を認めるぞ!!!」
トハンの信仰はリョウンの太守からはよく見られず、度々弾圧されていた。
ハイセンはその宗教を擁護したのだ。
「大体! ミィンジャオは正しい宗教などしておらぬ! していたらこんなことになっておらん! 我は女神信仰だけではない! あらゆる信仰を認めよう! 信じる者は好きにしろ!!!」
ハイセンの方針は一時は民衆からの支持を得たが、邪教と呼ばれ弾圧されていた殺人儀式をする宗教なども一気に息を吹き返し国内は混乱した。
弾圧を緩めるだけではダメだったのだ。
そこからはハイセン達による邪教徒との戦い。
ハイセンは、リジンジョウの話とは全く違い、自らの政策で混乱を招き出た反乱を収める為に戦っていたのだ。
混乱があったとは言え、女神信仰を擁護し、自由を与えたハイセンの人気はまだまだあった。
そこに現れたのがライディラだった。
「女神信仰を最大限生かす?」
ライディラは赴任先である、まだリョウン地方でミィンジャオが抑えていた街ではなく、真っ直ぐにハイセンに会いに行った。
ハイセンは驚いたものの、そのまま会うことにしたのだ。ハイセンは強いが内政は失敗が多く困っていたのだ。
もしライディラが味方になれば国の運営はかなり楽になる。そんな思惑だった。
「はい。こうなれば女神信仰を第一とすれば良いのです。大西は宗教国家となる。無論方針は変えなくても良い。信仰は自由だが、大西としては女神信仰を根幹に政治をすると」
「それで上手くいくのか……?」
懐疑的なハイセンに
「まずトハンが完全に味方になるというのが一点。そして北方のリャン族も女神信仰です。西と北を抑えられるのは大きい。そしてなによりも女神信仰は都合がいいのです。教義はご存知ですかな?」
「教義……女神が現れ、世界を救う、と」
「その救い方です。それは女神信仰が野蛮とされた理由。女神が現れる時、世界は一度滅ぶ。そこから世界は蘇り、絶対的な幸福に満ちた世界が現れる……」
「おお! そんな教えなのか!」
「ミィンジャオは滅ぶ。そこから女神が現れる」
「素晴らしい! だが女神か。それは実在した人物でないと不都合があるのか? つまりだ、漠然と我が女神に守られた……というような……」
「はい。女神信仰の肝は、実在の女神の降臨です。ですがご心配なきよう。既に女神の候補はいる。その女神がハイセン殿をお守りする」
「誰だ! その女神とは!?」
ハイセンの叫びに対し、淡々と
「私の娘、シャオです」