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赴任先は無くなるわ、国が滅ぶわ

「……マジで?」

 王宮陥落の報を聞いた私の感想。語彙力がない

 というかレン様は?


「……情けないと言ってください。僕は、皆を守ることなく、真っ先に逃げたのです……」

 ヤン様が悲痛な顔で言う。


「ヤン様。それが正解だったのです。現に遅れた皆様は捕らえられました。無事だったのは奇跡です」

 ヤン様を激励するお供の人。


 その一方でダオと領主は悲痛な顔で話あっていた。


「順賊の奴らめ!!!」

「なんとぉぉっ!!! 我ら、どぉすればぁぁっっ!!!」


 王宮を落としたのは「順賊」と呼ばれる農民反乱の方だった。


「順賊はあくまでも農民反乱。王族にはそこまで酷いことはしないでしょうし、この南方まで攻める余力もない。問題は満賊。彼等がこの混乱を見て攻めてきたら防ぎきれません……」


 頭が混乱する。

 レン様やピヨは無事なのだろうか。

 酷いことをしないと言われたところで、今までと同じ生活なんて出来るわけもない。


 特にピヨみたいな女官なんて真っ先に……


「なんとか救えませんか?」

 私はイヤだよ。陰険だろうが敵兵に犯される女官なんてみたくないし、ピヨにいたっては幸せに過ごして欲しいのである。


 あの陰険ランドで唯一私にちゃんと本心で話をしてくれた人なんだから。


 あとなんといってもレン様。

 婚約破棄されようが関係ない。なんとか救いたい。

 でも


「お嬢様、ショウサ市はご覧のように、人口より動物の方が多い有り様です。兵士の数など……」

 まあ、そら分かるわ。


「まもるにわぁ、さいてきですがぁ、せめるにはぁ、むきませぇん」

 なに言ってるか相変わらず分かりにくい領主さん。


「近辺の兵士達を集めて……」

「この近辺でそんなに兵士が余っていたら、リョウンにいる賊軍に攻め込んでいます……」

 ですよねー。


 リョウン近いわけだし。

「とにかくヤン様を匿いましょう。ここは守りならば容易い」



 王宮陥落。

 その噂は段々と伝えられたが、噂は混乱していた。


 領主さんは懸命に情報を集め続けわたしとヤン様に説明してくれる。


 相変わらず聞き取りにくいので、私がヤン様に代わりに伝える。


 その内容は

「順賊は非道の限りを尽くしました。王族は残虐に殺されました」

 事前の予想とは真逆の内容。


「民衆にも略奪を行い、順賊は人望を失いました。その情報を掴んだ満賊が一気に攻め込み王宮にいた順賊は滅びました」


 つまり、王宮に攻め込んだ順賊は、満賊によって滅んだ。


 問題は

「王族は王宮以外にもおります。既に各地にいる3人の王族が『我こそが王の後継である』と名乗り、互いを攻めあっているのです」

 なにやってんの。


「それを見て満賊は一気に南下しています。現状、ミィンジャオ国の残兵では全く歯がたちません。連戦連敗です」


 言ってて情けなくて倒れそうになる。


 ヤン様も絶望的な顔してる。


 そして、もう一つやばい話が


「リョウンですが、とんでもないことが起こっているようです……」


 リョウン。


 南方の僻地とは言え大都市ではある。

 王国の南方の中心地。


 ここに西軍という賊軍が入り込み占領していた。


「満賊は順賊を滅ぼした兵でそのままリョウンにいる西軍にも攻めいったようです。ところが、それ以降全く進軍をしておらず、そのまま引き上げた、と。それだけならばともかく、リョウンからの人の流れが完全に無くなったそうです」


 人の流れが絶えた。

 一体なにが起こっているのか。


 そんな謎は、当事者から直接語られる事になる。



 ヤン様が逃げ込んで来られてから3ヶ月。

 この平和なショウサ市に、賊軍が来た。


「満賊だ!!!」

「平地に展開してるぞ!!!」

 街が大騒ぎになる。


 旗には「大清」と描かれている。


「賊は大清を名乗っております。間違いない……しかし、もうここまで……?」

 ダオが震えている。


「しゃ、シャオっ!」

 ヤン様が抱きついてくる。

 まだ10歳だ。皆を捨て逃げてきたトラウマなのか、いつも私のそばにいて抱きついてくる。


 人の温かさに飢えているヤン様。


「大丈夫です。ヤン様。この街は天然の要塞。塔に行きましょう。あそこならより安全です」


 街にある塔。見張り塔もかねている。

 森の先まで見れるのだ。


 籠城できるような設備もある。


 ヤン様とダオを連れ塔に昇る。

 自分で分かる。足が震える。


 このまま、私は賊軍に殺されるか犯されるか。


 とにかくヤン様だけでも逃がさないといけない。

 だがすぐではない。この街ならば多少は持ちこたえられるはずだ。


 長い階段を登りきり、塔から見下ろした風景を見て絶句した。


「な、な、なんにん、いるの……?」

 圧倒的な大軍。


 満賊、大清にはこれだけの兵士がいるのか。

 平地を埋め尽くす人間の数。


 私の考えが甘かった。これは無理。

 この人数ではどうしようもない。


 振り向いてヤン様を逃がそうと決断した時に

 聞いたことがない音がした。


『WIIIIIIIIIIIIRYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!!!!!!!!!!!!』


 =====================


「この森の先がショウサか」

「はい。ここに王族がいると」

 大清軍はまずは各地に散らばったミィンジャオ国の王族を捕らえることを優先していた。

 独立し、争いあっている3人の王族達も大清軍に攻め込まれ滅ぶ寸前になっていた。


 それ以外の王族となると、王宮から逃げ出したヤンのみ。


 占領出来ていない土地も多いが、まずは王族を滅ぼそうと行動していた大清軍。


 その司令官のスレンはつまらなそうに言った。


「まずは森を焼け。そして降伏勧告しろ。その間絶対に逃がさないように、周囲に展開しろ。追いかけっこはうんざりだ」


 その命令に動く大清軍。

 すると


「将軍! 西より軍隊が!!!」

「軍? ミィンジャオの敗残兵か? それとも順賊の残兵か?」

「西に順賊の残兵がいたと。そのことかと」

「ふん。順賊など雑魚よ。捻り潰せ」

 薄ら笑いをして命令をくだすスレン。


 だが、報告したのとは違う部下が軍隊の旗を見て凍りつく。


 真っ赤な旗。

 血で染め上げたような、否、まさしく血で染め上げたその旗。


「ち!? ちがう!!! 順賊は順賊でも! やつらは違う!!! 西軍だ! 西軍がきたぞぉぉぉ!!!」


「な、なんだと!?」

「や、やつら! 出てきたのか!?」


 騒ぐ一部の部下達を不審気に見るスレン。


「西軍? 知ってるぞ。順賊の仲間割れした連中だろう? 所詮は順賊だ。我等の中央部隊の前に滅んだと報告されておる。その敗残兵がどうしたのだ?」


「スレン様! 違います! 中央部隊に私はおりました! 中央部隊は西軍と戦っておりません! 戦う前に!!! 奴らは滅んだんです! 否、初戦で半分の兵士が殺され、壊滅状態に陥った中央部隊はそのまま城に閉じこもっていると、奴らは勝手に滅ぼしあい、全てを殺し尽くしたのです! 身内も! 住民も! まさしく鬼です! 奴らは鬼神です! 戦うべきではありません! 引いて籠城しましょう!」


 スレンは不愉快そうに

「弱兵が! そのような報告はされておらん! 半分が壊滅? そんなわけあるか。それは全滅と呼ぶのだ。そんなことがあれば流石に報告が……」


「実質的には負け戦です。だから報告出来なかった。てすが……あ、ああああああっっ!!! き、きたぁぁぁ!!!」


『WIIIIIIIIIIIIRYYYYYYYYYYYYYYY!!!!!!!!!!!!!!!!』

 真っ赤な、赤く染まった軍隊が、叫びながら突撃してくる。


『UUUUUUUWAAAAAAAAAAAAA!!!!!!』

 叫び声。

 その絶叫に大清軍は足が止まる。


 旗に大きく『大西』と描かれた真っ赤な旗。


 全てが赤く染まったその軍隊は


「大西軍じゃぁぁああああああああっっ!!!!!!! 死にたくねーならどけぇぇぇっっ!!!」

「キャハハハハハハハハッッ!!! 血袋だぁぁぁぁあああああっっっ!!!」

「ころせぇっっ!!! ころせぇぇぇっっっ!!!」


 数では圧倒している大清軍だが、その西軍の勢いに呑まれ、戦いにならない。


「ちっ!? 立て直せ!!! こんな敗残兵に引くな!!!」

 スレンは叫ぶが、内心は

(なんだ、この化物共は???)


 死を恐れない。笑顔で死んでいく。

 そしてなにより強い。


「も、もうだめだ!」

「にげろっ!!!」

 兵が勝手に逃げていく。


 ミィンジャオ国も順賊も、敵無しで滅ぼした兵達が、恐れのあまり逃げ出す。


 スレンはその現実を受け止められないまま戦場に立っていると


「あっ! 美味しそうな獲物発見っ!♡♡♡」

 血塗れで笑顔の少年。

 異様なのはその格好。


 全裸だった。

 血で真っ赤に染めあがった全裸の少年。


 その非現実的な光景を呆然と見ながら


「僕は大西軍、三柱が一人ソンケワン。僕の血肉になることを誇りに思うんだね」


 スレンは無言で剣を握り切り捨てようとする。

 だが、口が。小柄で少年のような身体なのに、異常に大きな口が開き


「なっ!?」

 そのままスレンの喉元に噛みついた。


「ギャアアアアアアアアアアッッ!!!」



 スレンの戦死で大清軍は完全に崩壊した。

 逃げ出す兵士達。

 だが西軍は追いかけない。


「ソンケワン、ここで待っていろ」

「えー、なんで?」

「全裸は刺激が強すぎる」

「キャハハハハハハハハッッ!!! わかるー」


 一人の男がゆっくりと街に向かう。


 その入口にヤンとシャオがいた。


 その二人の姿をみると男は跪き叫んだ。


「我等、大西の敗残兵! これよりヤン様の護衛をするべく、馳せ参じました!」

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