レンの妻だった少女
「誰それ?」
ハオラ。
ピヨから言われデッカいハテナが乱舞する。
「レン様の正妻だった方、と今お伝えしましたが」
ピヨが、レン様の正妻だったが満賊に殺されたハオラ様について、と語りはじめたのだが、途中で遮って聞いたのである。
「私が婚約破棄されて、そのハオラって娘が妻になった。それは全然いいんだけど、ハオラなんてレン様の周囲にいなかったよ」
王族には后だけでなく妾も出来る。
后候補は当然妾となる人達も一緒に過ごす。
だから私もピヨ達と仲が良かったわけだが。
「ハオラさんは順賊の頭領、フレンジャの三女です。フレンジャは王族を殺して回る一方で、求心力を高める為に自分の娘をミィンジャオの王族と結婚させたりしたのです。レン様は先王との血のつながりは薄いですし、王位継承権は高い。そういう都合の良さもあって押し付けられたのですが、ハオラさん自体はとても可憐で優しい人でした」
ほうほう。
「レン様のお父様が殺されたのも、レン様が厳しい環境で監禁されたのも、フレンジャとの関係が故です。満賊は旧ミィンジャオの王族は許しましたが、順賊は許さなかった。レン様もお父様も、先王の猜疑心の強さに苦しんでいましたし、順賊に滅ぼされたのも失政が理由なのは理解していたのです。レン様のお父様が満賊に殺された理由は、順賊であるフレンジャの娘達を殺すことに強硬に反対したからです。これ以上の殺し合いは不要だと……」
「……」
さすがヤン様のお父様。
「当のハオラさんは堂々とされていました。ただ、ハオラさんは本当に優しい方で、レン様も大切にされていたのです。僅か3ヶ月にも関わらず、あの人はレン様のお心に深く残っているのでしょう……」
なるほど。
でも
「だとすると、なんかおかしい……」
殺された妻。両親の仇。
そんな簡単にゆるせるものだろうか?
「そこからが本題です。レン様の本意は休戦じゃない。ではなぜそんなことを言っているのか? それはシャオ。あなたが軍のことを隠していると疑っているのですよ」
軍のこと。
疑われてる。
「……あーーー。あー。うん。」
確かにレン様に言ってないね。
そっかー。そら疑うよねー。
「……正直に話して貰えませんか? 私は探れと言われましたが、シャオは悪気があって黙ってる訳ではないと思います。多分言いにくい事だろうとレン様も言われています。それがどんな事でも私は受け止めます。私達がレン様を守るためになにをしたのかもご存知でしょう? どのような内容でも……」
あー、なるほど。ピヨは多分「もしかして身体で軍を言いなりにさせてる?」とかも含めて疑ってるのかな?
「……えーっと。なにから話ましょうかね……」
とりあえずお父様、もとい父ちゃんの話。
大西軍の残党は、父ライディラの遺言に従って動いている。
そしてその遺言の内容。
それを伝えると
「はあ!?」
ピヨの絶叫。
まあ分かりますよ。私も叫びましたからね。
「……私がレン様に言わない理由分かった……?」
「いや……それにしても……理由が意味が分かりませんわ。」
「……ピヨはウェインさん見てなかったっけ? 顔中にお経書いてる人」
「……ああ……確かに怖い人はいましたわ……なるほど。そういう……」
「私達には理解出来ないけど、あの人達はそう信じている。そして問題は父ライディラはどこまで考えていたのかが分からない。休戦の話はハッタリだったそうだけど、軍は聞く気ないわ。父ライディラの策は、私の言いなりになるという話じゃない」
「……レン様に話しましょう。それでご相談すれば良いのですわ」
レン様に話。でもなぁ。
「……するのは良いけど、多分」
ロクなこと言われない気がする。
うん。
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ピヨとシャオの報告を黙って聞くレンとヤン。
「よく分かった。シャオ、休戦の話は無しだ。軍に暴れるように伝えてくれ」
「かしこまりました」
二人は出て行く。
そして残ったヤンに
「お主はどう思う?」
いつものようにヤンに考えさせる。
ヤンは困ったようにするが
「……その。信じがたい話です……。そんなこと、本当に信じているのか……? と」
「南西部の反乱の原因はあれだった。トハン出身もいるとなると納得もする。それよりも重大なのはライディラがなにを考えていたかだ。ライディラはミィンジャオ国の幾末を心から案じていた。だが最終的になにを考えていたのか……。そしてなによりも」
レンは大きく息をつき
「ライディラは本当に死んだのか?」




