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敵のスパイと滅んだ王の話

 レン様の呼び出し。

 訓練を切り上げて急いでいく。


 そこには使者に行った人と見知らぬおじさんがいた。


「シャオ。至急軍と相談だ。ゼンウラは我々の保護を求めている。難しいと聞いているがゼンウラの解放と保護は可能かどうか? と確認してくれ」

 軍と相談。それで呼び出されたらしいのですが、なんで私に?


「軍は会議以外はシャオに聞け以外マトモな返事をせんからな」

 なにそれー。



 とりあえずリジンジョウさんと相談。

 当然渋い顔をされる。


「はっきり言いますが我々は守るのは不得意です。暴れてるだけです。やれるのはザンリの軍ですが、あちらもそうです。守る民を略奪してたような連中ですからね」

 なんという説得力。


「今までは攻められる前に攻め込んでいたのです。それに対してゼンウラ地方は南以外は敵地と接しています。守るとしたら南軍の中でも、元々ミィンジャオ国の守備兵としていた兵でしょう。ですが、それらはびっくりするほど弱かったわけで。攻められれば耐えきれないかと」

 いちいちごもっともです。


「でもゼンウラはこちらの保護を求めています。この状態で無視するのは……」

 リジンジョウさんは少し考えたあと

「少し相談してきます」



 誰に相談してきたかは分からないのですが

「両面作戦で行きましょう。ウェイン率いるトハンに籠もる残兵とこちらの兵7000でリョウンを占拠。私は本来はリョウンから北へ一気に攻めあがる予定でしたが、ソンケワンと共にゼンウラに行きます。リョウンとゼンウラの間にある都市、カンレイを攻め落とせば、南と西は確保出来ますから大分違うかと」

 二手に別れると


「問題は南の守備です。我等は全て攻めあがりますし、ザンリもカンレイ攻略で使います。南軍の中の旧ミィンジャオ勢でどこまで守れるか……大河を挟むわけですから有利ではありますが」


 南西と南部中央から攻めあがるから、南東部のみ守るだけになるとは言え、それも不安と。


「分かりました。それでレン様にお伝えします」



 =====================

「軍はシャオという娘の言うことしか聞きません。父親のライディラ殿がなにかを伝えていたそうですが詳細は分かりません。ただ西賊だけでなく順賊までが従っておりますから……」


 オウコモラは丁寧な言葉で目の前の男に話しかける。


「ライディラ、という男はミィンジャオの重臣だったが失脚したと聞いた。その男がなにかをしたと言うことか?」


「シャオは私を警戒しているようで詳しくは語りません。内政を任されておったそうですが、その引き継ぎもまともにしない。各領主に聞けとしか言わない。ライディラ殿は私の警戒も含めて伝えているのかもしれない。ライディラ殿はミィンジャオ国を最後まで守ろうとした忠臣。猜疑心の強い王により追放されましたが、それが全ての間違いだったのです。ライディラ殿を失ったミィンジャオ国は一気に崩壊しました。ライディラ殿を追放さえしなければ、少なくとも順賊に滅ばされることはなかった……」


 オウコモラは一気に喋り溜め息をつく。


「逆を言えばライディラがいれば再興が出来るかもしれない。それほどの才能ですよ。姿は見ていませんが、ライディラ殿は生きていて、シャオになにかを伝えているとしか思えません」


「……であれば、ライディラとシャオを失えば南軍は崩壊するかもしれぬと?」

「はい。特に軍はシャオの話しか聞きません。シャオを失えば崩壊する。それは間違いないかと。ただ、ライディラの存在が心配です。ライディラがもし生きていれば同じ事でしょうから」


 オウコモラの目の前にいた男は清の家臣。

 オウコモラはスパイとして送り込まれた。

 だが、シャオは「私は内政の面倒など見ていない」と引き継ぎを拒絶。


 実際に内政を見ている自覚が無かっただけなのだが、オウコモラから見ると「シャオは自分を警戒している」ととらえていた。


 その為、スパイらしい行動が取れない。

 清から密偵が送られてきて報告していたのだが


「ライディラが生きているならば、私がなにをしようと無駄です。彼の才能は私の万倍に値します」


 =====================


 まだミィンジャオ国があった頃。

 ライディラは涙を流しながら王に直言していた。


「順賊とは言え、彼らを赦すべきです! 彼等は我等の失政で飢えたから逆らった! 満賊の脅威はもはや座視できませぬ! 順賊を赦し、満賊と対抗させるべきです!」


 そのライディラの言葉に目をつり上げる王。


「なにを申しておるのだ!!! 賊を許す? その賊はまた逆らうに決まっておる! 満賊も順賊も滅ぼせば良いだけだろうが! それもこれも! お主達家臣がまともに動かぬからだ! 敵は内部におる! 満賊や順賊などマトモに戦えば勝てる! 順賊は農民、満賊は遊牧民ではないか!」


 その王の叱責にも応えず


「この国の兵の惰弱ぶりは目を覆うものです。王。この国はもう全てが崩壊状態なのです。一から全てを作り直す気概でいなければ間違い無く滅びます」


「そんなことお主に言われるまでもない! 朕はこの国の腐ったものをすべて作り直そうとしているのだ! 国を立て直す! 賊も滅ぼす!」


 その言葉にライディラは頭を垂れ

「……王……今が最後のチャンスです。ここを逃せば我等は滅ぶ。臣の意見をここで採用されなければ王の信託に応えられる自信はありません。処分も放逐も、覚悟しております……」


 そのライディラの言葉にも

「ならば去るのだ! ええい! この国にまともな家臣はおらんのか!!!」

 王はこの国が崩壊状態になっているのは分かっていた。だからなんとか立て直そうとしていた。


 しかし家臣達は殆ど使い物にならない。

 ライディラだけがマトモだったが、そのライディラからの「賊を許せ」という言葉は受け入れられなかった。


「こうなれば朕一人で立て直す! 会議は毎日行うぞ!」




 ライディラをリョウンに追放して僅か一年。

 一年も経たず、ミィンジャオは崩壊した。


 兵士は連戦連敗。

 警戒していた満賊より前に順賊に攻められ王宮は陥落寸前だった。


「なぜだ!!! なぜ誰も分からぬ!!!」

 王の叫び。

 国を立て直そうと懸命に頑張った。


 ここ数代の王はマトモに政務もしておらず家臣に任せきりだった。

 だから国はボロボロになった。


 それを今の王は、毎日執務をし、会議をし、懸命に国を立て直そうとしていたが


「何故みな! 朕の言うことがわからぬのだ!!!」

 猜疑心が強過ぎた。

 誰も信頼せず、有能な家臣を次から次へと放逐した。


 軍ではラムダ。大臣ではライディラ。

 この二人の放逐は致命的だった。


 一人では限界がある。

 その限界。王にはそれが最後まで分からなかった。


 自分が悪いのではない。

 自分の考えを理解しない家臣達が悪いと。


 泣き叫ぶ王にオウコモラが言う。


「王。こうなれば王座に堂々と座り、賊と相対しましょう。王の威厳を見せ、王族をお守りください……」

 その意見にも聞かず


「賊など信頼できるか!!! 朕はここで散る!!!」

 絶叫。


「何故だ! 何故こうなったのだ!!! 天よ! 答えよ!!! なぜ努力した俺の代で滅ぶのだ!!!!!」

 王の絶叫には誰も答えなかった。

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