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婚約破棄されるわ、追放されるわ

三話までは連続で更新されます

「シャオ、ごめんな」

 目の前にいる方のすまなそうな顔。

 私は茫然とその顔を見つめていた。


 横から響くいかついおっさんの

「本日付けをもって、シャオ・カーレンは任を解かれ、リョウンへの赴任を命ずる」

 重々しい声もロクに耳に入ってこなかった。



 ごめんな。って言った方は私の婚約者で、ミィンジャオ国の王位継承7位のレン・プファイ様。

 私はそれなりな家柄の貴族の娘で、幼い頃からレン様と婚約が決まっていたのだ。


 それが唐突の婚約破棄&僻地に行ってこい。


「なんで婚約破棄されたんですか?」→親が権力争いに負けて僻地に飛ばされるからです!


 家柄での婚約なので、家の後ろ盾が無くなったらこんな扱いですよ。

 あー。あんなに愛してるとか言ってたのになー。

 ごめんな、言われても半分笑ってたじゃん。


 用意されている寝室で大の字になって寝込んでいると


「アハハハハハハハハ!!! 無様ね! 無様ね! シャオ!!!」

 高笑いしてくる女。

 長髪ウェーブに、つり上がった目。意識の高そうな顔してる。

 こいつは私と家柄があんまり変わらないライバルキャラ。名前は「ピヨ」

 いや、そういう名前なんですよ。本当に


「ぴよぴよーーー!!! 私、かなしいーー!!!」

「ぴよぴよって呼ぶなって!? 何回言ったらわかるんですか!?」


 ひよこの鳴き声みたいで可愛いではないか。

 ライバルキャラでしょっちゅうこうやって絡んでは来るのだが、本質的には優しい娘。

 でなければ、煽りだろうがなんだろうが、婚約破棄されて、追放される女の所になんて来ない。


「ぴよぴよーーー! 私はいなくなるけど、レン様をよろしくねーーー」

 別にレン様に恨みなどない。愛してくれたのは本当だろう。そもそも権力争いに負けた親が悪い。

 そして他の陰険丸出し女に比べたらピヨは物凄いマトモなのである。

 こうやってわざわざちゃんと、目の前に来て煽りにくるとか。


 他の女は影でこそこそ動くのだ。笑顔で私に接した顔で、裏では私に対する悪口を平然とする。


 裏表が全くないピヨは私の癒やしだったりする。


「……わたしも、それを言いに来たのですけれども……」

「リョウンなんて遠過ぎだよ。しばらくどころか、もう会えなくなるかもね。でもピヨ。私はピヨと一緒に過ごせて楽しかったし、レン様のご無事を祈ってるよ。元気でね」


 すると、ピヨは突然泣きそうな顔をして

「……な、なんで……あなたは……いつも、そんなに優しく……」


 あーあ。泣かしちゃった。

「だって私はレン様好きだし、ピヨも好きだよ。私の代わりにあなたがレン様を支えてね。頑張って」

 婚約破棄されて、追放されて。


 なのだがいちいち泣いてもられない。

 そもそも私の取り柄は「気にしない」である。

 レン様からも「シャオは強いな」といつも言われていた。


 そう、私は強いのだ!

 婚約破棄がなんだ! 追放がなんだ!

 そこで楽しく生きてやる!


 =====================


 リョウン市に向かいました。

 そこまで3ヶ月ほどの旅です。長いね。


 親は先にリョウン市に向かっていた。

 私とお供数人の旅。まあ馬車だから疲れはしませんが、お尻痛い。


「……シャオ様、その申し上げにくいことが……」

 お供の人達はとても良い人。

 貴族の娘なんて宿の手配からなにからなにまで出来ない。

 そういうのを文句も言わずにやってくれていた。

 なので「少しは自分でもなんかやれよ!」かな?と思ったのだが


「はい。どうしました?」

「リョウン市が大変な事になっているようです……その、賊が反乱を起こしていると」


 賊。

 最近北方で賊が暴れているという話は聞いていた。

 でもリョウン市はむしろ南というか、西である。

 全然離れてる。


「北方の賊ですか? リョウン市にも同じようなモノがいると?」

「……シャオ様は『順賊』はご存知ですか……?」

 順賊?


「ごめんなさい。わかりません」

「北方の賊は満賊という東北に住んでいる蛮族です。それとは別に『順賊』という賊がおります。これは農民の反乱軍です」

 まあ、我が国反乱軍だらけ。王宮では全然言われて無かったなぁ。


「恥ずかしい話知りませんでした。有名な話なのですか?」

「順賊は最近の話です。また農民反乱は流言飛語の対象ですから、噂にはなりにくいのです……」

 そうなんだよね。王宮で反乱云々の話なんてしたら捕まりますよ。北方の賊は別の国のお話扱いだから許されてたけど。


「それで、リョウン市にいるのはその『順賊』なのですか?」

「はい。ただ、これがまた分かりにくい話でして。リョウン市にいるモノは順賊で仲間割れした連中のようです。また別です。なんでも「西軍」と名乗っているようで……」

 ややこしい。しかしだ


「そんなに反乱だらけで、我が国大丈夫なの……?」

「……一応、賊はその3つだけです。国軍が反乱をそのうち鎮圧しましょう。ですので、真っ直ぐリョウンに向かわず、その付近で比較的安全なショウサ市に向かおうかと」


「お任せしますわ。わざわざ反乱軍が暴れているところにいくこともないです」


 私はこの時「優秀なお供の人達で助かるなー」ぐらいの呑気な感想だった。

 でもすぐに気付けば良かったのだ。


「賊は3つしかない」のに

「比較的安全なショウサ市に行こう」と言ったことを、深く考えるべきだった。



 ショウサ市に到着。

 なのだが

「なんですか!? ここ!!!」

 着く前から嫌な予感はしてた。

 なにしろ森がね。どんどん森がある方向に進んで行ったのですよ。

 見知らぬ動物、昆虫盛り沢山になってからの、ようこそ!ショウサ市!


 街の入口にはでっかい猫が牙を剥いて威嚇している。

 全体的に動物ランド。街なのか、これ。


「既に領主殿には手紙を送っています。まずはご挨拶しましょう」



 その領主さん。ものすごいデブだった。

「ふぁふぁふぁっ。このぉよぉうなぁ。うつくしぃひとにきてくださるとぉわぁ」

 音が籠もって聞き取りにくいです。はい。


「突然お邪魔し本当に申し訳ありません。赴任地が賊のせいで入れませんもので」

「どうぞぉ。ごゆっくりされてぇくださぁい。くににぃはぁ、わたくしからぁ、じじょうをせつめいしまぁす」


 この人から国に手紙を送ってくれるらしい。

 なんか不安だが、文句をつけてもね。


「よろしくお願いいたします」



 それからのショウサ市の生活は、まあワンダーランドだった。

 まず街に動物いすぎ。道を歩けば動物のウンコ。おしっこ。そしてなんだか分からない卵が転がっている。


 最初はその臭いに死にそうになった。

 私に用意された部屋はちゃんと豪華な部屋なのだが、窓を開けると死ぬ。


 ただし、動物達は危害は加えないし可愛い。

 ロバと呼ばれる動物は気に入った。


 それと街の人達。

「シャオ様! お勉強教えて!」

「シャオ様! 都のお話聞かせて!」

 物凄い懐かれた。


 都で貴族やってました。王族の婚約者でした。

 あたりで

「街に凄い人が来たぞ」扱い。

 みんな純粋で、そしてみんな優しい。


 赴任地でもなく、足止めくらった私にとてもよくしてくれていた。

 旅をして3ヶ月。ここに来て3ヶ月。あっという間に半年経っていた。


「シャオ様はどこに言っても人気者ですね」

 お供の人がにこにこしている。


「まあ、悪い気はしないけど」

 王宮では人気者だったかなぁ? 記憶にございません。ピヨピヨからの人気はあった。うん。


「……正直、しばらくここにいらっしゃった方が良いと思います。今リョウン市にいる旦那様達にこちらに来るように手紙を出しておりますから……」

 旦那様とはうちの両親。なのだが


「わたしは赴任と言っても単なる女官。いようがいまいが関係はありません。ですが父は……」

 左遷されて追放されたと言ったところで、責任はあるのである。


 本当は私も賊がいようが行かないといけないんだけど。


「……シャオ様、お心強くお聞きください」

 お供の人は深刻な顔をする。


「少なくともリョウンはもうダメです。国軍はリョウンに向けて軍すら向けていません」


 ……は?


「は? なんで?」

 賊が暴れているんでしょ?


「東北の賊、満賊の勢いが凄まじいのです。順賊と満賊、両方と戦っており、国軍に余力がありません」


 え?

「そ、そんなに危ない状況だったのですか?」

 王宮は呑気でしたよ?


「ここ一年で激変しました。お嬢様があのタイミングで王宮から離れたのはなにかの奇跡です。もしかしたら旦那様はワザと……」


 言われてみれば父の権力争いの突然の負けっぷりはすごかった。

 あれワザとだったの?


「ショウサは森に囲まれ、動物も多く大軍を向けられません。お嬢様はしばらくここでお過ごしください」



 それからしばらくして両親から手紙が帰ってきたそうな。

 それを一緒に読む。

 それは遺書だった。


『シャオ。愛しいシャオ。よく聞きなさい。この国はもうダメだ。私の持てる全てを尽くしてもダメだった。この無能さは命をもって償う。だがシャオ。君は生きなさい。生きて、生きて、生き抜きなさい。屈辱も、苦悩も、全て抱えて生き抜きなさい。リョウンには来てはいけない。私の命をすべてかけて、この国の延命に命を懸ける。だが君は生き抜くのだ。供にいるダオを信頼しなさい。そして、「ジョウ」という男がもし来たら、私の娘だと名乗りなさい。彼ならば助けてくれるはずだ』


「……お父様……」

 命をもって償う。つまり?


 お供のダオは手紙を読みながら泣いていた。

「……旦那様……っ! このダオ! 命を懸けてお嬢様をっ! 御守りします!」


「……ダオ、つまり、お父様は……」

「……私の避難の話を断った。元から死ぬつもりで赴任されたのだと思います……」

 お父様……


「お母様も……?」

「奥様ならば、必ずや旦那様とご一緒されるかと」

 確かに。そういう人だ。


「リョウンの情勢が悪くなれば、必ずショウサに行け。と旦那様に事前に言われていたのです……ショウサなら安全だと」


 なるほど。


 二人でその手紙を読んでいると外が騒がしい。

 なんだろうと、窓を開けると


「……は?」

 有り得ない顔。


 婚約者、レン様の末弟。ヤン様。

 まだ10歳のその幼い顔は黒く汚れていて、格好もボロボロだった。

 でもヤン様。

 なんで? こんなところに?


「ヤン様!? どうなされたのですか!?」

 慌てて駆けつける。

 すると、ヤン様は最初は私を認識できて無さそうだった。まあ現地の格好してますからね、私。


「……え? ま、まさか……?」

「ヤン様、シャオです! レン様の元婚約者だったシャオです!」


 その言葉に

「しゃ、シャオッッ!!!」

 ヤン様は私にしがみついて泣き出した。



 泣くヤン様を落ち着かせていると、領主さん、そしてお供のダオ、ヤン様のお供が青白い顔をして話あっていた。


「……つ、つまり……?」

「そ、そぉんなぁ! ばかなぁぁ!!!」

 ヤン様の、お供の、声が


「王宮は落ちました。ヤン様を除き、王宮にいた王族は全員捕らえられました」

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