特別室
「ユリウス殿下」
低く、少し硬い声が降ってくる。
斜め後ろの銀の瞳を見つめると軽く頷くベルク。
「すまないね。時間のようだ、有意義な時間をありがとう。」
軽く微笑み、すぐさまクラスメイトに背を向ける。
たった二年で一体何人の仲間を増やせると言うんだ父上は。
ここに縛られている間に各方面への推薦されてきた者の視察が滞る。
迷惑ではあるが、、平民からの引抜くにはこの場が一番楽だと言うのも事実。
悪いが彼らに頼むしかないだろう。
「待たせたね。」
「いえ、ご存分に。」
ユーリに近づけば堅苦しくも恭しく頭を下げる。
片手で制してもコイツはいつもやるんだ。もう構わん。
「ユリウス様、このあとは何をするのですか?」
中性的な顔立ちのせいか幼く見え、弟のように思ってしまうがシグナは優秀な暗部。
ここにいる誰よりも魔法の扱いは長けているかもしれない。15という年で他の青騎士暗部を纏めているのは流石だと言えよう。
「殿下とりあえず、特別室に参りましょう。」
「そうしようか。」
案内するかのように淡々とユーリが斜め前を歩く。
右手には冷たい表情をしたベルク、左手には微笑みの仮面をつけたリナリー。そして後ろにはニコニコと笑うシグナ。
幼なじみ二人は別として、この者たちは今日が初対面。
連携を取れなくては力を十二分に発揮できないこともあるだろう。
さて、どうしたものか。
特別室は青騎士と殿下のみが入室を許可されている特別な部屋。
流石はユーリ、場所なんて把握済みなのね。
ふと、ゾワリとする感覚が走る。
これはやばい!微笑みを携え、何事もないかのように歩みを揃えたまま視線を横にすれば、機嫌の良さそうな殿下。
そんな様子を見ていた私とユーリの目が重なった。
ユーリも確信した事でしょう、いやみんな思ったかもしれない。
なんか無茶振りしてきそうだこの人って、、
あぁもう特別室についてしまったみたい。
重々しい茶色の扉を開け放つユーリ。
さっと中の安全を確認しつつ扉を押さえ向かい入れる私の反対側の彼。
殿下に選ばれるだけあって良い身のこなし。
是非手合わせ願いたい。
殿下に続いて中へ足を進める。
広々とした部屋はアンティークな家具でまとめられていて、歴史を感じさせながらも美しい作り。
ここが特別室か。
全員が部屋へ入ったのを確認すると殿下が軽く頷く。
中央にある円卓の前に立ち、付属された椅子になんて座らず軽くその机に腰をかけ楽しそうに笑う。
あぁーー、
「時間が惜しい、早速今後の話をしようか。」
コクンと生唾を飲む。
知らぬ人が見ればなんと魅力的な微笑みだというでしょう。
キラリと輝く金の髪をかき上げながら笑うこの姿は、良からぬ命令だと警笛音が聞こえる。