7.疑念
「なあ、ちょっと聞いていいか?」
ジャニィは肩を落として俯く王子に問いかけた。
「その『王家の紋章』って、幾つあるんだ?」
「幾つって……、父のを除けば、一つしかないよ。失くしちゃったけど……」
相変わらず王子は落胆の表情だ。
「一つってことは、ある意味、お前専用の紋章だったってことか?」
「うーん……、ちょっと違うかな。僕専用じゃなくて、僕の代には一つなんだよ。僕が紋章に言葉を刻んで王になれば、そのときに僕の血を注ぎ込んで、次の代のために新しいのが作られるはずだよ」
なるほど! ジャニィは一つ納得して次の質問をした。
「じゃあさ、その紋章に言葉を刻む『真王の証』の儀式って、誰がやってもいいのか?」
「えっ? 誰がって? どういうこと?」
王子にはジャニィの言っていることが良く分からなかった。
「そうだな、例えば……、俺がお前から紋章を奪い取って、そこに言葉を刻むとか」
王子はそこで理解したのか、少し考える仕草をした。
「うーん……、それは無理なんじゃないかな?」
「なんでだ?」
「紋章に文字を刻めるのは、王族だけって聞いたことがあるよ」
「そうなのか! じゃあ、どうやって刻むんだよ?」
「幻導力で念を送る感じかな、刻むというより焼き付けるって言った方が近いかもね」
「なるほど! じゃあ、王族以外がやっても焼き付かないってことだよな」
「まあ、そういうことになるね。でも、なんで?」
王子が率直に疑問を投げかけた。
「ああ、ちょっと気になることがあってな」
ジャニィはそこで手帳を取り出すと、今までのやり取りを簡単に書き留めた。
「ちなみにだが、もしお前が紋章に言葉を刻む前に死んだ場合はどうなるんだ?」
「えー、何それー、変なこと言わないでよー」
王子が嫌な顔をして文句を垂れている。
「いや、真面目に聞いてるんだ。王位継承順ってどうなってるんだ? 俺はヴォーアムの出身じゃないから、その辺をあまり気にしたことがなかったからさ」
ジャニィが真剣な面持ちで質問すると、王子は渋々答えた。
「うーん……、僕は一人っ子だからね。たぶん僕が死んだら、今のところ年齢的にもシンクフォイルじゃないかな?」
やはり! ジャニィはそこで答えに辿り着いたような気がした。
「なあ、王子、ついでにもう一ついいか?」
王子は「うん」と頷いた。
「お前さ、民のために一刻も早く王になる。とか言ったことあるか?」
「えええー、ないよ! 僕なんてまだまだだから、父には元気でいて貰わないと、って思ってるくらいだよ」
王子は恥ずかしげもなく言った。
「だよな! 言わないよな!」
ジャニィは軽く笑い飛ばした。
「えー、なにそれー」
王子が頬を膨らませるのを尻目にジャニィは焼け跡の方へ歩いて行った。