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Journal Journey ~魔王罪として処刑する~  作者: 柚須 佳
第一章 幻真の剣(真歴一四九八年八月)
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5.納屋での幻争

 王子は幻導師の忠告を無視して、納屋に忍び込んだ。

 納屋の中は薄暗く、埃の匂いにまじり血の匂いが立ち込めていた。


 扉の正面の壁には鍬や熊手などの農機具が吊るされている。

 右側の奥には、高く積まれた干し草が無造作に散乱していた。

 その干し草の前に、青白い光を放ち揺らめく死体があった。


 その死に顔は恐怖に満ち溢れ、口から流れでた血は凝固している。

 胸の辺りは黒一色で、ここからではよく分からなかった。


 王子は恐る恐る死体に近づき、その傍で立膝をついた。

 近くで見ると胸の黒いものは肉の塊と血と衣服が混じりあったものだった。ぐちゃぐちゃだ。

 左肩から右の腰あたりに掛けて引っ掻かれていた。一撃だな。

「やはりライカンか?」王子がそう呟いた瞬間、死体の揺らめきが大きくなり、その勢いで死体が立ち上がった。素早く反応した王子はバックステップを踏み、攻撃に備えると同時に腰の剣に手をかけた。


 死体はあやつり人形のようにふらふらとしている。

 目には光もなく、死体そのものに意志があるようには思えない。

 死体が纏う幻導力のみに支えられ動いているようだ。


 確かに危険だが、害はなさそうだぞ、と王子が思った瞬間、死体の上半身が回転し、遠心力に任せて腕を打ち付けてきた。王子は成す術もなく腕の振りに打たれ、納屋の入り口付近まで吹き飛ばされた。吹き飛んだ衝撃で、農機具が壁からバタバタと落ちる音が聞こえる。

 左肩に激痛が走る。

 が、致命傷ではないようだ。

 王子は、剣を抜き、痛みをこらえて左手を剣に添えた。

 間合いをとり、次の攻撃に備えた。


 一、二分経っただろうか、死体は干し草の前でフラフラとしているだけで動く気配がない。

 王子は少しずつ距離を縮め、剣が届く位置まで近づいた。

 反応はない。

 王子は意を決して死体に切りかかった。


 その瞬間、バチンッ、と衝撃が剣を伝わり身体中に広がった。

 王子はまるで雷にでも打たれたかのような感覚を味わった。

 体がしびれて動かない。そう思った直後、回転腕が眼前に迫るのが見えた。


 ――


 ボールのように転がる王子の頭が、熊手に刺さって止まった。

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