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Journal Journey ~魔王罪として処刑する~  作者: 柚須 佳
第九章 年輪の仮面(真歴一四九八年二月)
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11.思惑

 マスケスの考察はこうだ。


 大幻導師イソダムに予言の力があったとは思えない。それは、今日に至るまで、あらゆる書物を紐解いても、そのような事実は一つも確認されていない。であるのならば、幻導力の実験で、イソダム自身が未来を見ていたという可能性もあるが、これにも疑問が残る。なぜなら、この本が書かれて以来数百年が経つが、その間に起こった半島での飢饉や災害などについては一言も触れられていないからである。

 預言者、もしくは未来を見る目があったとするならば、もっと多くの預言めいたものを記載したはずなのである。


 逆に考えて、彼の元に未来からの使者がやってきた、とすると腑に落ちる部分がある。

 そうであれば、ある一時期の技術や記載が多いことにも頷ける。

 ただし、未来から使者がやってくるなど、これも突拍子が無さすぎて現実的ではないのかもしれない。


 しかし、どうしても解せないのは、レインボーガンの記述部分である。

 先ほどの『市庁舎の爆発』の数ページ後に、図解を交えて、その原理と仕組みが詳細に書かれている部分があった。

 原理自体はイソダムが発見したとしても、なんら不思議ではないが、その図解が精密すぎることと、何より、この小型のレインボーガンが製造できるようになったのは、まだほんの十数年前のことだからである。


 鉄の鋳造技術、矢羽根の水筒のガラス加工技術など、これらの精密な技術を生み出すのに、イソダムの時代から数えても五百年かかったのである。

 その間には、同じ原理を利用した爆弾や大砲のようなものは作られてきた。

 しかし、この手持ちのレインボーガンより大きなものしか作れなかったのである。

 であれば、なぜイソダムは、この爆弾や大砲の原理には触れなかったのだろうか?

 大砲より作成が難しい小型のレインボーガンの仕組みを、突然に閃いたとは、どうしても思えなかった。


 この点に至り、マスケスは、原理は不明だが、現在の、いやもう少し先の未来かもしれないある一時期の情報が、どういうわけだかイソダムに伝わり、それを元にこの『イソダムの所業』の一部分が書かれたのではないかと思うようになった。

 そして、この情報がイソダムに渡らなければ、現在のオークの技術力はなかったのではないかとも思うようにさえなっていた。


 オークの技術力がなければ、オコイを併合することも叶わない。

 オコイを併合できなければ、オボステム市に侵攻したユガレスを防ぐことも叶わない。

 そして、この書目が示す『市庁舎の爆発』が意味することは……、今、この時、オボステム市の市庁舎はユガレスの中枢だ。それを壊滅する意味とは……、やはり、ユガレスの崩壊だ。

 さすれば、残りはヴォーアム一つ。

 長年祭事長として身を寄せ、王国の内部を知ってしまえば、今のオークにこの国を落とすことは容易いと分かる。


 この天災の絶えぬ半島を救うには、人々が一つにならなければならない。

 そのためには半島を統一し、一つの国民として団結せねばならないのだ。

 それを可能にするのは、今やオーク王国しかないと信じている。


 必然! そう、マスケスにとっても、イソダムにとっても、この『イソダムの所業』という書物が正しく完成されることが必然なのである。

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