7.雪の中芯
王子は昨夜イソダムに教えられた西の岩場を彷徨っていた。
まったく、雪の精霊はどこだ?
王子が辺りを見回すと、巨大な雪玉のようなものが歩くとも転がるとも言えぬ動作でうろついていた。
あれか? どんくさいな。
王子は幻真の剣を抜き、正面なのか背中なのか分からない雪玉を斬りつけた。
そして、幻真の剣が当たると、それは溶けるように消え去り、後には六角形の氷のようなものだけが残った。
これが雪の中芯だな。
王子はそれを拾い上げ、一度だけじっくりと観察した。
「綺麗なもんだな。ジェニーが見たら、またスケッチとか言い出すか?」
王子が、そんなことを思いながら、辺りを見回すと、そこには無数の雪玉が転がっていた。
「なるほど、雪の中芯は簡単に集まりそうだな」
王子は、二匹目の雪玉に斬りかかっていった。
王子がイソダムの家に戻ると、イソダムがジェニーを軒先から引っ張りだしているところだった。
「イソダム、何をしているんだ?」王子は歩きながらイソダムに声を掛けた。
イソダムはちらりと振り向くと、そのまま声だけで続けた。
「おや、ちょうど良かったですね。そろそろ戻る頃だと思いジェニーさんを連れていく準備をしていました」
「連れていく? どこにだ?」王子がイソダムの前まで来て言った。
「元いた場所ですよ。魂が来るとすればきっと同じ場所でしょうからね。そこに氷のドームを作ります」
「元いた場所だと?」王子が怪訝な顔つきで声を上げた。
「ええ」と、イソダムは平然と答える。
「では、昨日、ジェニーをここへ連れてきた意味はなんだ? ゴーレムから取り返すのに、どれだけ苦労したことか!」
「ああ、ゴーレムを倒したんですね! それは良かった!」イソダムの顔が、ぱっと明るくなった。
「実は……あれ、我がダム氏族の恥の塊でしてね」
「祖父が作り出してしまった失敗作でして……」
「ちょうど今日みたいに、冬の晴れた日のことだったようです」
「祖父が実験で土塊に幻導力を流し込んで、幻子に回転を与えようとしたところ、偶然に陽だまりの一端が混入してしまって……」
イソダムがまた、教授の顔になり、語り出しそうになったので、王子は、すかさず割って入った。
「いや、分かった。それは、また今度聞くとしよう」
「そうですか?」イソダムは少しだけ残念そうな顔つきになった。
「それより、この後はどうするんだ?」王子がそんなイソダムを無視して尋ねた。
すると、イソダムは思い出したように元の顔に戻った。
「ああ、そうでした。王子、雪の中芯は取れましたか?」
イソダムに問われ、王子は、先ほど取ってきた雪の中芯をイソダムに手渡した。
すると「綺麗なもんですね」と言いながら、イソダムは雪の中芯を掲げて、太陽光を透かして見ていた。
「しかし、雪の中芯といいながら、こいつ自体は冷たくないのだから不思議ですよね?」
イソダムは、独り言のようにそう続けて、雪の中芯を懐にしまった。
「さて、では行きましょうか。ジェニーさんをソリに乗せるので、手伝ってください」
イソダムにそう言われると、王子はジェニーの身体をソリに乗せ、昨日野良ゴーレムと戦った場所へと向かって行った。




