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Journal Journey ~魔王罪として処刑する~  作者: 柚須 佳
第九章 年輪の仮面(真歴一四九八年二月)
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8.思い出

 夢?


 シンクフォイルは目の前に広がる景色を見回していた。

 どこかの城の中のようだが、ヴォーアムの王宮ともまた違うように思える。

 晩餐会か? ザワザワと大勢のざわめきが遠くで聞こえる。それに混じって、男の声も聞こえた。

「どうだ、坊主! 儂の馬は早いだろう!」

 シンクフォイルは大きな背中に跨り、どうやらお馬さんごっこをしているようだ。

 私は……、笑っているのか?

 シンクフォイルは駆け回る大きな背中の馬に必死でしがみつき、振り落とされまいとバランスを取っていた。

「なかなかやりおるな! このぶんだとヴォーアムは安泰だな!」

 馬はそこで大きく笑うと、嘶くように立ち上がり、シンクフォイルを振り落とした。

 シンクフォイルは小さな自分が、跳ねるように舞い上がり、そして、青を基調としたフカフカの絨毯の上へ転がり落ちるのを感じた。

「もうー、いたいよー」

 小さな自分は両手でおでこを押さえて不満を漏らしていた。

 すると、周囲からいっそうの笑い声が響き、目の前の馬の大男が笑顔で近づいてきた。

「うむ、これは、すまんことをしたな」

 大男が、そう言って、シンクフォイルの頭をクシャクシャと撫でた。

 シンクフォイルは、大きな手に首が持って行かれるのをこらえながら、上目遣いで大男の顔を見ていた。嫌な気分はしない……、自然に笑顔がこぼれ、暖かな気持ちになった。

 そこで、シンクフォイルが言葉を発しようとすると、突然目の前が暗くなり、次の瞬間には別の場所にいた。


「これは?」

 シンクフォイルが疑問を漏らすと、目の前でマスケスの声が聞こえた。


「シンクフォイル殿、王子の記憶はいかがですかな?」

 マスケスが、シンクフォイルの顔を覗き込んでいた。


「マスケス先生? これはいったい?」

「王子の記憶ですぞ」

「王子の記憶? 今のは……、夢ではないのですか?」

「そうですぞ、記憶ですぞ……、受け取りなされ、そしてお忘れなされ……」

 そこで、マスケスの声が遠ざかっていった。


 すると、また突然場面が変わり、今度は見慣れたヴォーアム王宮の中庭に佇んでいた。

 少し離れたところに少年の日の自分がいる。

 それに、あれは? ジャニィさん?

 シンクフォイルが見つめていると、ジャニィが何か手の中から赤い物を出し、それを少年の自分に向かって投げつけていた。


「あっ! あれは……、あの時の?」


 シンクフォイルは王宮での鍛錬を思い出していた。

 あの時、ジャニィに負けた悔しい思い出。

 あの時、剣術の腕を上げようと決心した気持ち。


 しかし、心の中は羨望で満たされ、ジャニィに駆け寄りたい衝動でいっぱいになっていた。

 あの時の、王子の思い出? 記憶? なのか?


「どんな思い出ですかな?」

 空の上からマスケスの声が響いた。

「不思議だ……、私の記憶と王子の記憶が混ざり合っていくようだ」

 シンクフォイルが誰に言うでもなく、そう呟くとマスケスが答えた。

「そうですな。シンクフォイル殿は王子と近しい関係でしたからな。同じ場面であれば思い出は交じり合うかもしれませんな。それでいいですぞ。受け取りなされ、私からのプレゼントでもありますからな」


 空から響くマスケスの声が遠ざかると、再びシンクフォイルの視界が暗転し、今度はどこかの宝物庫らしい場所でうずくまっていた。

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