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Journal Journey ~魔王罪として処刑する~  作者: 柚須 佳
第九章 年輪の仮面(真歴一四九八年二月)
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3.シュラバリー邸

 シュラバリー邸に到着したのは日付が変わる頃であった。

 冬の透き通る空には大きな満月が浮かび、荒れ地の高い台に佇むシュラバリー邸を怪しく浮かび上がらせていた。

 マスケスは馬車を門柱の前に止めると、仮面を付けてスヤスヤと眠る王子を横目に馬車を下りた。そして、邸宅の玄関へと繋がる庭園内の細い道を、月明かりを頼りに歩いていった。

 空気は静まり夜の闇に息を潜めている。一歩進む毎にジャリジャリと響く自身の足音だけが辺りに響いていた。


 マスケスは玄関前のポーチまで来ると、そこにある玄関灯が点いていないことを確認した。

 そして、口元をニヤリとさせると、今来た小道を引き返していった。


 馬車まで戻ると、マスケスは眠る王子を担ぎ上げ、今度は玄関前まで行くと、そのまま左に曲がり、邸宅の西側に向かって歩きだした。

「しかし、大きくなりましたな」

 マスケスは担ぐ王子の体重に骨を下りながら、シュラバリー邸の別邸までやってきた。

 別邸は執事用の住まいで、その佇まいは小屋のようであった。

 マスケスは別邸の扉を開け、その中へ入っていった。

 窓から差し込む僅かな月明かりを頼りに、ベッドを探し当てると、王子をそこに寝かせた。


 マスケスは仮面の王子を一度見下ろすと、片膝をついた。

 そして、仮面の額の部分に人差し指を当て、一言二言呪文のようなものを呟いた。

 すると、王子を包み込んでいた仮面の根の部分がシュルシュルと縮んでいき、最後には仮面が王子の顔から外れ、コトリと枕元に落ちた。

 マスケスはそれを拾い上げると、別邸を後にした。


 王子を担いでいたからか、来るときには気付かなかったが、別邸の脇には、こんもりとした土の塊の上に小さな十字架が二つ並んで立っていることが分かった。

「ダウリカ殿の墓ですかな?」

 マスケスはこの別邸の主の名を口にすると、シュラバリー邸の玄関へ向っていった。


 シュラバリー邸の玄関まで戻ると、マスケスは懐から小さなガラス玉のようなものを取り出した。そして、そのまま少しの幻導力を流し込むと、ガラス玉は仄かに光り出した。

「小さな灯台ですな」

 マスケスは一人呟くと、玄関を開け邸宅の中へと入っていった。


 邸宅内は灯りがなく静まり返っていた。

 その広いエントランスの正面には大きな胸像があるはずだが、今は暗くてよく見えなかった。

 マスケスは、幻導力灯を両手で包み込み、前方部分だけに明かりが灯るようにした。

 浮かび上がる胸像は初代のシュラバリーで随分いかつい顔をしていた。

 暗がりで見る胸像は普段目にするものとは違うもののように思えた。


 マスケスはその胸像を左手に見ながら、邸宅の二階へと続く階段を目指した。

 エントランスの壁沿いをつづら折りに上る階段の幅は広く、エントランス側の手すりを掴みながら、マスケスは暗がりの中ゆっくりと二階へ上がっていった。


 シュラバリー邸の二階は寝室が並んでおり、まっすぐな廊下の左側には四つの扉があった。そして、その扉の正面には、上方がアーチ型の出窓が並んでおり、そこから月明かりが差し込んでいた。

 マスケスは幻導力灯を懐へしまうと、扉の下から灯りが漏れる、二つ目の扉を目指した。


 二つ目の扉の前まで来ると、部屋の中から人の気配を感じた。

 マスケスは軽くノックをすると、返事を待たず、その部屋の中へと入っていった。

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