1.ジャンセン家
「もう一か月か……」
ジャニィは壁に掛かる肖像画をぼんやりと眺めていた。
そこにはジャニィを含めた家族四人が幸せそうに並んでいた。
ジャニィがこの家を離れたのが、王宮に使えるようになった時だから、かれこれ六年前になる。
その間、一度だけ暇をもらい、夏の間だけこの家で過ごしたのが、姉との最後の思い出だ。
「この人だれ?」
ジャニィの後ろからアイソレシアが肖像画のジャニィを指差して言った。
「俺だよ。見て分からないのか?」
ジャニィは振り向くと自分の顔を指した。
アイソレシアはジャニィと肖像画を見比べて、今度はジェニーを指差して言った。
「じゃあ、こっちは? 二人目のジャニィ?」
「そっちは姉さんだよ。似てるだろ? まあ双子だからな」ジャニィは笑いながら言った。
「ふーん、前からちょっと思ってたんだけどさ。ジャニィって私のお母さんに似てるんだよね。この絵のお姉さんの方は雰囲気もそっくり」
アイソレシアはジェニーをまじまじと見ている。
「そうなのか? じゃあ、俺のことをお母さんって呼んでもいいぞ」ジャニィが冗談を言う。
「バカねぇ」アイソレシアが呆れている。
「でも、そうだな、ちょっとこれをかぶってみろ」
そう言ってジャニィは棚に置きっ放しになっていたジェニーのベレー帽をアイソレシアの頭に乗せた。
「おお! 確かに! 姉さんの子供の頃に良く似てるぞ! ちょっと待て、今スケッチしてやるから」
そう言いながらジャニィは手帳とペンを取り出した。
「こんな感じかしら?」
アイソレシアはツンと横を向いてポーズを取った。
ジャニィとアイソレシアがそんなやりとりをしていると、外がなんだか騒がしくなった。
耳を澄ましてみると。なんでも市庁舎跡にフッカ王が現れたと言っているように聞こえる。
「アイソレシア、聞いたか?」ジャニィはペンを止めた。
「フッカ王の……亡骸が……現れた?」
アイソレシアは首を傾げている。
「だよな? ちょっと行ってくる。お前はここで待っていろ!」
そう言うとジャニィは勢いよく通りに出て行った。
「待ってー、私も行くー」
アイソレシアも急いでジャニィの後を追った。




