5.姉さん
港の周辺は被害もなく、建物はしっかりしていたが、やはりここも人でごった返していた。
船で街を離れる人も多いのか、桟橋には人の列ができていた。
「船で逃げるったって、どこに行くんだ?」
ジャニィはそんな事を口走りながら、オボステムタイムズの扉を開けた。
「ジェニー! 良かった。無事だったんだな!」
そう言って白髪のオコイ人が飛びついてきた。
「うわっ、ちょっと待て!」
ジャニィはいきなりの出来事にたじろぎ、そのオコイ人を突き飛ばした。
「おい、俺はジェニーじゃないぞ。よく見ろ!」
ジャニィはペンを拾いながら言った。
突き飛ばされ、尻もちをついたオコイ人は、目をパチパチさせて、ジャニィの顔を見つめている。
「ジェニーは俺の姉だ。姉さんを知ってるのか?」
ジャニィは、今だ無言で尻もちをついているオコイ人に向かって言った。
何かに気づいたのか、オコイ人は、ゆっくりと立ち上がって、もう一度まじまじとジャニィの顔を眺めた。
「いやあ、それにしても似ているな。そうか……」
オコイ人はゆっくりとそう言って続けた。
「ジェニーから聞いているよ。双子の弟がいるって。俺はガウスだ。ジェニーの同僚だな」
そう言ってガウスは握手を求めてきた。
ジャニィは握手をしながら、ガウスに尋ねた。
「姉さんは無事なのか? どこにいる?」
「それが、分からない。俺もさっきここに戻ってきたばかりだ。それにしてもいったい何が起こっているんだ?」
「それはこっちが聞きたいよ。爆発があったとき、どこにいたの?」
ジャニィは辺りを見まわしながら尋ねた。
「俺は……、牢屋だ。市庁舎の牢屋だな」
「本当か? 市庁舎にいたのか? それにしては、よくあの爆発で死ななかったな」
ジャニィはびっくりしている。
「ああ、牢屋が地下にあって助かった」
「しかしなんで牢屋なんかにいたんだ?」ジャニィが質問した。
「まあ、それがな、昨日ジェニーと一緒に市庁舎に取材に行ったんだ。その帰りにジェニーとはぐれちまってな。運悪くユガレスの兵に捕まっちまった」
「取材? そうか、市庁舎に侵入したってのは、お前らなのか?」ジャニィは手帳をめくる。
「まあ、言い方によっちゃ、そうだな」ガウスは少し申し訳なさそうだ。
「何やってるんだ? それで、姉さんは?」
「ジェニーとはそれっきりだ。ここで落ち合う手筈だったんだが、俺が捕まっちまってたからな」
ガウスはボリボリと頭を掻いている。
「そうか、じゃあ家の方か?」
「いや、どうかな? さっき上でジェニーの机を調べたらこんなものがあった」
そう言ってガウスは何かの紙切れを手渡してきた。
「それ、ヴォーアムの紋章だろう?」ガウスが続ける。
「ジェニーが描いたみたいなんだが、裏にも王子がどうたらこうたらと記事になっててよ」
ジャニィはさっと記事に目を通した。
「そうらしいな。どうやら王子と姉さんがここにいたみたいだな」
「だろう! やっぱりそうか」
ガウスは何か思い当たる事があるみたいだ。
「じゃあ、きっとジェニーは今も王子と一緒だろう。それなら安心だ」
ガウスはそう言ってちょっとホッとした顔つきになった。が、逆にジャニィの顔からは血の気が引いた。
「どうした?」ガウスが尋ねる。
「王子と一緒? それはまずいぞ」ジャニィが小さな声で言った。
「ガウス、市庁舎にはどうやって侵入する? まさか下水道か?」
「そうだよ。なんで知ってるんだ?」ガウスが疑問を口にする。
「王子とジェニーが爆発前に下水道にいたって証言があるんだよ」
「そんな! 確かか?」ガウスも青ざめている。
「おい、じゃあなんだ? ジェニーがヴォーアムの王子と市庁舎を爆破したのか? おい? ヴォーアムにそんな計画があったのか? おい! どうなんだ? お前もヴォーアムなんだろ? おい、聞いてるか? ジャニィ! こんなテロ紛いの事をジェニーにやらせたのか?」
ガウスが喚き散らしているがジャニィの耳には届かなかった。
「姉さん……、なんで王子なんかと?」
ジャニィの心に不安の波が押し寄せてきた。




