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Journal Journey ~魔王罪として処刑する~  作者: 柚須 佳
第六章 王宮書記官の旅3(真歴一四九九年五月)
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1.柊の森

 アイソレシアはゆっくりと猫の手の表面に幻導力を流し込んだ。

 すると猫の手は青白く発光し、表面を覆う毛が逆立ち始めた。

 アイソレシアはそれを確認すると、手のひらを上に向け、今度は肉球の部分に意識を集中した。そして、その肉球の部分だけ、幻導力が薄くなるイメージを頭の中で描いた。


 猫の手がゆっくりと握られていく。


「そっか、やっぱ押すイメージじゃなくて、引くイメージなんだ」

 アイソレシアは、今やグーとなった猫の手を満足そうに見つめていた。


 アイソレシアが猫の手と呼んでいるものは、正確には猫の手を模した手袋のようなものだ。

 本来の使い道は手袋ではなく、木の実や乾燥した豆類などを中に入れて持ち運ぶためのものだが、小柄なアイソレシアは、これを手袋のように使っていた。


 失われた左手を、アイソレシア自身は隠すことに無頓着だったが、旅先の村々で奇異な目を向けられることに、ジャニィが哀れんだようだ。

 そんな折、旅のキャラバン隊から買い付けてきたようだが、その時のことは、今でも覚えている。

 猫の手を高々と掲げ、「いいものがあったぞ!」と笑顔で駆け寄るジャニィが木の根に躓き、大きく転んだのが、可笑しくてたまらなかった。

 あの村での出来事以来、初めて心から笑えた出来事だった。


 アイソレシアが猫の手の訓練を終え、ふっと顔を上げると、森の木々の向こう、オボステム市の上空が明るくなっていることに気が付いた。

 まだ、日が昇る前だというのに、オボステム市の上空に綺麗な虹がかかっていた。


 アイソレシアが、虹を眺めていると、背後から声がした。

「もう起きてんのか?」

 焚火の向こうで横になっていたジャニィが、体を起こし眠そうな目でこちらを見ている。

「あれ」

 アイソレシアは猫の手で虹を指した。

 それにつられて、ジャニィも寝ぼけた目で猫の手の先を眺めた。


 二人が、ボーっと虹を見ていると、その虹はみるみるうちに膨らんでいった。


「何か、おかしいぞ……」

 背後でジャニィが呟くと、一瞬の後、雷のような地響きが柊の森を包み込んだ。


「アイソレシア馬車に乗れ!」

 ジャニィが慌てて御者を叩き起こしに行った。

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