16.白虹の盾
「陛下!」
王子が声をかけると同時にフッカ王の肩口にもう一本矢が突き刺さった。
「矢よ! 狙撃だわ!」ジェニーが声を上げる。
王子は左腕の盾に幻導力を送り込み、七色のバリアを展開させた。
「ジェニー、盾の中に入れ! ジェニー!」
王子は辺りを見まわしていたジェニーに呼びかける。
「何よこれ?」
ジェニーが七色に光る薄いベールの中に身を屈めながらつぶやいた。
「シールドだ。私の幻導力だとこれくらいしか展開できんが」
王子が説明しながらフッカ王をジェニーに託した。
「ジェニー、陛下を頼む」
王子はそう言って、盾を体の前に展開させつつ、矢の飛んできた方向を探った。
どこからだ? 王子は目を凝らして、東棟の方を見た。
その時、東棟のバルコニーの辺りが一瞬虹色に光を発したか思うと王子の盾に衝撃が走った。
矢が盾に当たり弾け飛ぶ。
「うっ、あそこだ! ジェニー、反対のバルコニーに誰かいるぞ!」
「見えないわ。どこ?」
「立つな!」王子は立ち上がろうとするジェニーを制して続けた。
「ジェニー、レインボーガンを貸してくれ」
王子は左手で盾を展開しつつ、右手でバトンを受けるように、後方のジェニーに要求した。
「無理よ! 素人が簡単に扱えるものじゃないわ。ホロランタンも点けられなかったくせに」
ジェニーが拒絶する。
「大丈夫だ。いいから貸せ。早く」王子がなおも要求する。
「無理なのよ。この距離だと届かないわ!」ジェニーも負けていない。
その時またヒュンと音を立てて、ジェニーの顔に矢がかすった。
「きゃあぁぁ」ジェニーが悲鳴を上げる。
「盾から出るな!」王子が振り向きジェニーの様子を伺った。
「なにぃ?」
そこには、先ほどジェニーをかすめた矢が扉に刺さっており、矢から煙のようなものが立ち込め始めていた。ふと足元を見ると、フッカ王に突き刺さる矢からも同様に煙が出ていた。
王子たちがあっけにとられていると、煙はみるみると辺りに充満していき、あっと言う間に王子たちを包み込んだ。
「何よ、これ? 幻導力かしら?」煙の中、ジェニーの声が聞こえる。
幻導力? 王子がそう思うと、左腕の盾に力が宿るのを感じた。
ブーンと唸り声のような低い音を立てて七色のベールが大きく展開されていく。
それに伴い辺りを覆っていた煙が少しずつ引いていく。
「なんだ? 盾が吸っているのか?」王子の疑問が声に出ていた。
「ジェニー、どうなっているんだ?」
王子は答えなど分かるはずもないと知っていたが、聞かずにはいられなかった。
「おい、ジェニー!」
その間も王子を中心として七色のドームがぐんぐん膨れ上がっていく。
「虹のドーム……」
すっかり座り込んだ状態で、ドームを仰ぎ見るジェニー。
「ジェニー、盾が!」王子が叫ぶ。
盾の力はもはや王子の意思とは関係なく、王子を中心に膨れ上がり、何層ものドームを積み上げていった。それは、市庁舎の時計塔も遥かに超え、市庁舎全体を閉じ込めた美しいシャボン玉のようだった。
「綺麗ね……」
ジェニーがそうつぶやいた瞬間、シャボン玉は弾け、もの凄い轟音と共に辺りは白一色に包まれた。