15.国を治めるとは
部屋を出ると、廊下を右手に進んだ。
途中、兵士とすれ違ったが、王が小さな声で何かを言って制した。
廊下の突き当たりまで来ると扉を開けて部屋に入った。
が、そこは部屋ではなく市庁舎のホールを見下ろせるバルコニーになっていた。
フッカ王はバルコニーの手すりにもたれ掛かり、静まりかえったホールを眺めている。
「見えるか? あれが?」
フッカ王はホールのそこかしこで眠っている兵士たちを指した。
「兵士ですか?」王子も釣られて崖下の兵士たちを見た。
「そうじゃ。ここにもこれだけの兵士がおる。国にはこの何倍もの兵士や漁民がおる。ここの兵士を守ってやることも重要じゃが、国を守ることはそれ以上に重要なのじゃよ」
フッカ王はこちらに向き直り手すりに寄りかかった。そして一息ついて続けた。
「四年前、オークがオコイを併合した。なぜだか分かるか?」
「オークの侵略でしょうか」王子が答える。
「違うな。あれはオコイへの救済じゃよ。オコイの名を残し、国を併合したのもそのためじゃ。気候変動で疲弊していたオコイを救うために、オークはオコイを併合した。そのかいあって今ではオークの技術力のおかげで少しずつではあるが回復しておる。だが、やはりまだそれでも足りんのじゃよ。国民全体を救うには、まだ足りんのじゃ。儂には分かる。儂と同様オーク王クリニカも同じ思いなのじゃろう。だからじゃよ、あの時、儂がここを抑えなければ、オークによってここも併合されていたはずじゃ」
そう言うとフッカ王はゆっくり目を瞑って軽く頷いた。
「オボステム市がオークに併合? それの何がいけないのでしょう? 戦争になるよりかは良いのではないでしょうか?」王子が素直な疑問をぶつける。
「お主の国が滅んでもか?」フッカ王が王子の目を見て続ける。
「オボステム市がオークオコイ連合王国の手に落ちれば、半島全体の物資の流通が滞る、そうなればどうなるかくらいお主でも想像がつくじゃろう。オボステム市との貿易がなければ、もはやどの国も生き残れん。自国の国力だけで国民全体を賄える国など、今の時代には存在しないのじゃよ。だからじゃ、どんな犠牲を払ってでも、ここをどこかの一国に渡すわけにはいかんのじゃよ。それが分かっておるからこそ、お主の父エレファンもここに兵をよこしたのであろう。オボステム市民には申し訳ないとは思っておるが、このまま三国で分断されていることが一番良いのかもしれん。儂はそう思っておる」フッカ王は静かにそう言った。
「そんな……、そんな犠牲を払わなくても陛下ならなんとかできたのでは? そんな戦争の上に成り立つ国なんて……」王子の口調に悔しさが滲む。
フッカ王はそんな王子の顔を愛おしく思った。
「そうじゃな、その信念を持って、お主がヴォーアムの王に……」
そこまで言いかけると、ふっとフッカ王の目から光が消え、前のめりに倒れかけた。
王子はすかさず、フッカ王を抱きかかえた。