14.フッカ王
「うん? 誰じゃ? こんな時間に」
暗闇の中、王子とジェニーの背後から声が響いた。
王子とジェニーは驚き同時に振り返った。
そこには、ベッドから起き上がり、眠たそうな目付きでこちらを見つめている老人の姿があった。
「うん? もしやフッカ王でありますか?」
王子はそこに幼い日に見たフッカ王の顔を思い出していた。
「何者じゃ? また儂を殺しに来たのか?」
フッカ王はベッドから上半身を起こしたままの姿勢で言った。
王の貫禄なのか、寝込みを襲われても焦るそぶりはまったくない。
「陛下、ヴォーアムの王子です。これを」
王子は素早く片膝をつき、懐から王家の紋章を取りだし、フッカ王の前に差し出した。
「ヴォーアムの?」
フッカ王は王家の紋章を受け取ると、じっくりと紋章を調べた。
「本物だな。こりゃたまげた。ということは、お前があのヴォーアムの坊主か?」
フッカ王の顔が少し緩んだ。
「はい、覚えて頂けているとは光栄です」王子は俯いたまま言った。
「覚えているとも! ガリ城で馬をやったことは忘れられん。しかし、あのやんちゃ坊主が大きくなったのう。顔を上げてよく見せてくれ」
フッカ王は数年ぶりに帰郷した我が子でも見るかのような優しい目つきになっていた。
「はっ」王子は立ち上がり、フッカ王の側に寄った。
「おお、まさしく坊主の頃の面影があるのう」フッカ王は王子の頭を撫でながら続けた。
「ところで、こんな時間に何故にお前さんがこんなとこにおる?」
「ご無礼だとは思いましたが。どうしても陛下にお話ししたいことがありまして、この市庁舎に侵入しました。お許し下さい」
「どうしても話したいこと? まあ良い、それよりも、そちらのお嬢さんは?」
そう言ってフッカ王はジェニーを見た。
「オボステムタイムズで記者をやっているジェニーと申します」
ジェニーは王子に習い、片膝をついてフッカ王に頭を垂れた。
「オボステムタイムズ? そういえば夕刻に部下が記者を捕らえたと言っていたな」
フッカ王は顎髭を撫でながら言った。
「陛下、単刀直入に申します。私はその記者を助けに参りました。捕らえられているのであれば、是非解放して頂きたいのです」ジェニーは顔を上げ、フッカ王の目を見て言った。
「うむ、それは容易い。ヴォーアムの坊主と一緒に来たお嬢さんだ。嘘はないと信じよう。ただ、直ぐにとはいかん。明日身元の確認が取れ次第解放すると約束しよう」
「ありがとうございます」
ジェニーは感謝の言葉を述べると立ち上がり、一歩後ろへ下がった。
「さて、坊主」フッカ王は立ち上がり水色のナイトローブを羽織りながら続けた。
「話しとはなんじゃ?」
「はい、命を狙われたとか? なぜです?」
「儂にも分からん。ただ、こんな前線にいれば、そういうこともあるだろう。」フッカ王は平然と言った。
「前線、そのこともお聞きしたかったのです。四年前、なぜオボステム市に侵攻したのです。陛下の侵攻がなければ、街が戦火に包まれることもありませんでした」
王子がそう言うと、少しだけフッカ王は悲しげな表情になった。
「坊主、国を治めるとはそう簡単なことではない。ついてきなさい」
フッカ王はそう言うと歩きだした。
王子とジェニーは王の後を追った。
「あなた、本当に王子だったのね? びっくりしたじゃない!」
ジェニーは真横を歩く王子を軽く小突いた。
「新聞社で言っただろう」王子は素っ気なく返した。
「それは、そうだけど……」
「まあいい、予定通りではないが、こうしてフッか王に会えた。君の行動力のおかげだな」
王子は、ジェニーの肩に手を置いた。