12.光と幻争
鉄格子には、ちょうど人が一人通り抜けられるくらいの隙間があった。
自然にできたものではなさそうだ。きっとジェニー達の仕業だろう。
その隙間をジェニーがするすると通り抜けた。
王子も続いて狭い隙間を通り抜けた。
下水道は思った以上に暗かった。
中に入ると、自分の手も見えないくらいの闇が広がっていた。
「ジェニー、何も見えないぞ。こんなんで……」
と言っている間に辺りが仄かに明るくなった。
「小型のホロランタンよ。はい王子の分」
と言って、ジェニーは小さなガラス玉のようなものを手渡してきた。
王子はガラス玉を受け取ったが、どうしていいかわからない。
「王子のくせに点けられないの?」ジェニーは少し呆れているようだ。
「幻導力か? 少しは操れるが光を灯したことはないな」
「簡単よ。光ってると思えばいいだけよ」
王子はガラス玉に集中した。
「難しいな」王子のガラス玉には光が灯らない。
「考えるからよ。そこにあると思えばあるのよ。誰かが言ってたでしょ? お・も・う・の」
ジェニーが最後の思うのに合わせて自分のホロランタンを点滅させている。
――
「こうか?」王子の周囲が微かに明るくなる。
「そうよ、やったわね。センスが良いのかしら?」ジェニーが褒める。
「王子だからな」王子は照れ隠しに言った。
「そうかもね。先を急ぎましょう」
ジェニーは少しだけ笑顔になると先を急いだ。
王子達は下水道をさまよった。
何度が下水道に巣食うネズミの群れに出会ったが、その度に王子は剣でなぎ払い、ジェニーはレインボーガンで撃ち抜いた。
「ここよ」
ジェニーはそう言って梯子を登り始めた。
王子はジェニーに続いて梯子を登り、市庁舎の中庭に出た。
王子たちが中庭に出ると、裏門の辺りに人影が見えた。
王子たちは、裏門の人影が気になり、慎重に近づいて行った。
「ユガレスの番兵かしら?」耳元でジェニーが囁く。
「ユガレスの番兵は三叉の槍だろ? あいつは何も持ってないぞ」
王子がそう言うと、人影の手元が少しだけ虹色に光った。
そして、ヒュンと耳元を何かがかすめると、後ろで倒れる音が聞こえた。
王子が振り返ると、ジェニーが額に矢を突き立てて倒れていた。
狙撃用の矢か? 王子がそう思った瞬間、頭に衝撃が走り、世界が闇で閉ざされた。
――
「王子! 王子! なにボーっとしてるのよ!」
ジェニーが王子の腕を掴んでいる。
「ジェニー? 大丈夫なのか?」
「はぁ? 大丈夫って何よ? どうしたの? 急に?」
「いや、今、矢で打ち抜かれただろ?」
「矢で? 何を言ってるのよ! 早く、見つかる前に隠れましょう」
ジェニーは市庁舎の扉を開けて中に入っていった。
王子は混乱する頭でジェニーに続いた。