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Journal Journey ~魔王罪として処刑する~  作者: 柚須 佳
第五章 白虹の盾(真歴一四九九年五月)
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9.レインボーガン

「先日のフッカ王の暗殺未遂事件は知っているでしょう? あれの取材をしたくて、市庁舎を訪ねたの。最初は正面からお願いしたわ。でもなんだかバタバタしていて取り次いでもくれなかったわ」

「それはそうだろう。それで」王子が続きを促す。

「なんていうのかしら? そのバタバタ感が普通じゃないっていうか、中庭にだけ人が集まっているのよ。なんだかそれがとても気になってね。記者の感ってやつかしら」

「うん」王子が相槌を打つ。

「それで中庭の見える市庁舎の裏手に回ってみたの。もちろん裏手の門は閉まっていたから中には入れなかったわ。でもそこで観察していたら気になることがあったのよ。市庁舎の塔は分かるわね?」

「ああ、時計塔の部分だろう」王子が答える。

「そう、その時計がある一つ下の階って言えばいいのかしら? そこの窓がね、何枚か割れていたのよ。でもね、中庭にはその割れた窓ガラスが落ちた後がないの。あれだけの高さから落ちれば、芝や石畳に何かの跡が残っているはずじゃない? でもね、それがまったく見当たらないの。不思議だと思わない?」

「そうだな、外側から割れば……」王子がつぶやく。

「そう、たぶん正解よ。王子のくせにやるわね」

 ジェニーは人差し指を立てて正解のポーズで続けた。


「でも、そうすると新たな疑問が湧くわ。あの高さよ。どうやったら外側から窓ガラスを割れると思う?」

 第二問という意味なのか、ジェニーが指を二本立てた。

「確かにな、疑問だな」

 王子が考えていると、ジェニーが胸の内ポケットから小さな矢を取り出した。

「これよ。分かるかしら?」

「矢か?」

「ええ、でもただの矢ではないわ」

 そう言うと、ジェニーは腰の辺りから先ほどのレインボーガンを抜くと、机の上にガチャンと大きな音を立てて置いた。

「こいつ、レインボーガンの矢よ。矢羽の付け根のところに小さなガラスが付いているのが分かるかしら?」

 王子は矢を手に取って矢羽の付け根を調べた。

 そこにはガラスの水筒が付いていた。

「それは虹が爆発するところよ。レインボーガンの仕組みは知っているわね?」

「すまない、オークの技術に関してはそれほど詳しくない」王子は素直に答えた。

「そう、じゃあ簡単に説明するわね。まず幻導の力で虹を反転させると爆発することは知っている?」

 ジェニーは一つ一つ確認するかのように訊ねた。

「ああ、それは知っている。虹幻子消滅だな。イソダムの」王子が答えた。

「イソダムはオーロラよ。でも大体は合っているわ。レインボーガンは矢羽の付け根部分にガラスの水筒を付けて、その中に極小の虹を発生させるの。その発生させた虹に幻導力を送り込み、小さな虹幻子消滅を起こさせて爆発させる。そうすると矢はその爆発の勢いで発射されるわ」

 ジェニーは自分のレインボーガンと矢を使いながら王子に説明した。


「なるほど。良くできているな」

 王子はジェニーのレインボーガンを手に取り眺めている。

「で、問題の矢がこれよ」

 そう言ってジェニーは、奥の戸棚からもう一本の矢を持ってきて王子に手渡した。

「長いな?」王子が先ほどのジェニーのレインボウガンの矢と見比べて言った。

「そうなの、この中庭で拾った方の矢はかなり長いわ」

「ちょっと待て、中庭で拾った? そういうことか。そのために市庁舎へ侵入したのか」

 王子が顔を上げる。

「結果的にはね。裏門からでは見えにくい部分を調べるだけのつもりだったのよ」

 そう言うとジェニーは少しおどけて見せた。

「顔に似合わず無鉄砲だな」王子はまじまじとジェニーの顔を伺った。

「いいでしょ!」そう言ってジェニーは続けた。

「その長いのはきっと狙撃用のレインボーガンの矢よ」

「狙撃用? そんなものまであるのか?」王子は矢を再び確認しながら言った。

「たぶんね。私も狙撃用のレインボーガンなんて見たことがないけど、オークの技術であれば出来ないことではないと思っているわ」ジェニーは少し表情を硬くした。

「オークの技術? まさか!」王子の表情を読み取ったのかジェニーが続けた。

「ええ、そのまさかよ。フッカ王の暗殺を企てたのはきっとオークオコイ連合王国よ」


 オークオコイがユガレスの王を暗殺するだと?

 そんなことになれば、また大きな戦争になるぞ?

 今度はこの街だけではすまない。きっと半島全体が戦争になる。

 王子の頭の中に黒いものがよぎる。


「王子……、王子!」ジェニーが呼びかける。

「どうしたの? 顔色が悪いわよ?」

「ああ、すまない」

 王子は、一刻も早くフッカ王に合わなければならないと思った。

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