8.市庁舎
ジェニーは書き上げたスケッチを机の端に置くと、王子の前に座った。
「さて、市庁舎の件ね」やっとジェニーが本題に入った。
「ああ、どうしたら市庁舎に入れる?」王子が尋ねた。
「その前に一ついいかしら? なんでフッカ王に会おうとしているの?」
「戦争を起こした真意を聞きたくてね」
「それはまた興味深いわね。良い記事が書けそうじゃない」
「キミは根っからの記者だな」
「お褒めに頂きありがとう」ジェニーは憎たらしくお辞儀をしながら言った。
「で、入る方法は?」王子は再度訊ねた。
「難しいわよ。まず、市庁舎の番兵は夜でも持ち場を離れない。それにあの三叉橋よ。あの橋の袂には、それぞれの国の兵士がいるでしょ。ここを誰にも見られずに突破しなくてはならない」
「突破する? そんなことが可能なのか?」王子は質問した。
「まず無理よ」ジェニーはピシャリと言って続けた。
「なので、橋は渡らないの。川を利用するのよ。小舟で三叉橋くぐり抜けて、市庁舎前の下水道まで行く。そこからはその下水道を通って中庭に出る」
「詳しいな」王子は感心している。
「ええ、さっき行ったばかりですもの」
「さっき! それで追われていたのか?」王子はことの経緯を納得したが、疑問が一つ残る。
「なぜ、そんな危険をおかしてまで、市庁舎に入ったんだ?」
ジェニーは言うべきか言わないべきか悩んでいるようだ。
「記事のためか?」王子が問いかける。
「うーん、いいか」ジェニーは言うことに決めたらしい。
「そうね、記事のためね」
そこでジェニーは一息入れた。