6.オボステムタイムズ社
オボステムタイムズ社の一階は印刷室になっていた。
大型の輪転機が鎮座し、その周辺のテーブルには大量の紙が散乱していた。
部屋の壁沿いの棚にはインク缶が置かれ、新聞社の独特の匂いを漂わせていた。
「話しってなに? 妙なまねしたら、こいつを打ち込むわよ」と女性は王子に向かって不機嫌そうに言うと、右手の真っ赤なレインボーガンを王子に向けた。
「うん? レインボーガンか? 近頃の記者は物騒なものを持っているんだな」王子は銃口を見つめながら言った。
「近頃の記者じゃないわ。私限定でね。で、話しって?」女性は警戒を解こうとはしない。
「まずは、それを下ろしてくれないか? 私も剣を置こう」王子は腰のベルトから剣を外して女性の前へ投げた。
女性は、銃口を王子に向けたまま、中腰になると王子の剣を拾い上げた。
「いいわ、じゃあ上へ行きましょう。ほら、先に行って」と言って王子を二階へ上がるよう促した。
背中に銃口を突きつけられたまま王子は階段を上がる。
二階は事務所なのかたくさんの机が並べられていた。
それぞれの机もまた紙だらけだ。いや机だけじゃない、床のあちこちにも紙が散乱している。
新聞社とはこういうものなのだろうか?
「そっちよ。窓際の一番奥の机まで行って」女性が指示をする。
王子は言われた通り、窓際の一番奥の机まで行くと、ゆっくりと振り返った。
「いいわ」そう言うと、女性はレインボーガンを降ろした。
「珍しい武器なのに随分と手慣れているな?」王子はレインボーガンを見ながら言った。
「悪い?」女性はそっけない。
「そう言うな、だが心配の必要はなかったみたいだな」
「そうね。まあ少し走り疲れたけど」と言って女性は肩をすくめた。
「そのことだが、なぜ逃げていた?」王子が慎重に尋ねた。
「言う必要があるかしら?」相変わらず尖った口調だ。
「ないな、だが良かったら聞かせて欲しい。あの時キミは市庁舎の方から走ってきた。もしかしたらだが、キミは市庁舎の中に入ったのでは?」
「……」女性は何も言わない。
「入ったことをどうこう言うつもりはない。ただ、どうやって入ったのかを知りたい。実は私もあそこに入りたくてね」王子は真剣にそう言った。
「市庁舎に入りたいですって? 何のために?」女性は少し驚いたようだ。
「フッカ王に会いたくてね」王子は正直に言った。
女性はそれに驚き目を丸くしている。そして呆れた口調で続けた。
「あなた大丈夫? 王に会うですって? そんなこと出来るわけないじゃない。王族でもあるまいし」
「大丈夫だ。こう見えても私も王族でね」
と王子は意地悪そうに微笑むと、懐から王家の紋章を取り出した。
「きゃぁー、何これ? 初めて見たわ!」
女性はさっきまでの険しい顔尽きが嘘のように、ぱっと明るい表情になり、王家の紋章を王子の手から奪い取った。