表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Journal Journey ~魔王罪として処刑する~  作者: 柚須 佳
第4章 王宮書記官の旅2 真暦1497年12月
PR
25/110

6.真王の証

 夕闇迫る頃、ジャニィは玉座の間へと続く長い廊下を歩いていた。

 コツコツと書記官用の真新しいブーツの踵は、やけに大きな音を響かせていた。


「失礼します!」


 ジャニィは大声で一声かけると、玉座の間の大きな扉をノックした。

「入れ」

 扉の奥から、弱々しいが威厳のある声が響いた。

「はっ」

 ジャニィは重たい扉を押し開けて玉座の間に入っていった。


 玉座の間は広々としており、大理石の床からは、この時期特有の冷気が立ち込めていた。

 普段なら王付きの侍女が数名いるはずなのだが、どうやら今日は誰一人としていないらしい。

 この広い空間に、今は王とジャニィしか存在していなかった。


 一段高い場所に置かれた玉座に座る王は酷く小さく見えた。

 頬はコケ、顔色は青みがかっている。

 赤いマントの傍らから覗く腕は枯れ枝のように細かった。


 病気と噂されていたが、あながち嘘ではないようだ。

 ジャニィは王の前まで、ゆっくりと歩いていくと、片膝をついて俯いた。

「ジャニィ・E・ジャンセンです。『魔王の証』の件で参りました」

「うむ、面を上げい」

 見た目とは裏腹に、王の声は太く大きかった。


 ジャニィは片膝をついたまま、顔だけを上げた。

「あらかたの説明は聞いておるだろうが、改めて任命する」

 王はそこで一呼吸おいて続けた。

「ジャニィ・E・ジャンセン、本日付けでヴォーアム王国の王子付き専任書記官とする」

 そう言うと、王は懐から小さな任命書とヴォーアム王国の紋章の入った手帳を取り出した。

「これを」

 王は静かに手渡す。

「はっ」

 ジャニィは短く返事をすると立ち上がり、王から任命書と手帳を受け取った。


「まあ、堅苦しい話はここまでとしよう。見てのとおり、侍女や書記官は全て外させた。今は儂とお主だけじゃ。楽にしてよいぞ」

 王の声から少しだけ威厳のようなものがなくなった。

「はっ、ありがとうございます。では、三つほどお伺いしてもよろしいでしょうか?」

「うん? 構わん、何じゃ?」


 ジャニィは、祭事長からこの話を聞いて、いくつか疑問に思っていたことがあった。


「はい、では一つ目です。なぜ私なのでしょうか? もっと適任の者がいるのではないでしょうか?」

「そのことか」

 王は小さく頷くと、ゆっくりと続けた。

「お主のことは息子から良く聞いておる。それに息子も随分お主のことを尊敬しておるようでな。

なんでも普通の騎士とは違い、幻導力を使いこなして戦うそうじゃな。護衛と言っても表だって守ることはできん。ならば騎士の剣術より、お主の戦法の方が適任だと思った訳じゃ。

それに、お主の出自のこともあった。ジェニスのことは今でも覚えておるぞ。その息子なら、書記官としての才能もあるだろうて」

 父の才能……物書きとしての才能がどれほどのものだったのか、ジャニィには分からないことだったが、いまでも王の脳裏に父という存在があるのなら、もしかしたら父は物書きとしても立派だったのかもしれない。

「そうですか、王子が……分かりました。ただ、物書きの才能は私には……」

「構わん。思った通りに書いてもらって構わんよ。公文書ではないのでな。王としてではなく、一人の親としての願いなのじゃからな」

 王は和やかな顔つきでジャニィを見た。


「わっ、分かりました。では二つ目をよろしいでしょうか?」

「なんだ?」

「はい、『魔王の証』とはなんでしょうか? 魔王だなんて物騒な……」

 ジャニィが怪訝な顔で言うと、王は一度不思議そうな顔になり、その後、大きな声で笑いだした。

 そして、ひとしきり笑い終わると、王はジャニィに説明した。

「マオウの意味を取り違えておるな。マモノの王ではなく、マコトの王で『真王』じゃ。ボアム半島の正当な王として、我がヴォーアム王国は『真王』の称号を冠しておる」

「なっ、なるほど、そういうことでしたか……勘違いしておりました」

 ジャニィは恥ずかしくなり下を向いた。

「まあ、よい。ヴォーアム以外では通用せぬからな」

 王は機嫌を損ねるでもなく言った。


「では、最後に……その『真王の証』とは、どこにあるものでしょうか? 旅というからには遠方ということでしょうか?」

 ジャニィが真面目に質問すると、またしても王は大きな声で笑った。

「ハッハッハ、お主は本当に何も知らんようじゃな」

「申し訳ございません」ジャニィは恐縮した。

「構わん、素直に疑問をぶつけられることは美徳じゃよ」王は少し嬉しそうだ。

「『真王の証』は物ではない。簡単に言ってしまえば、王となる際の所信表明みたいなものじゃ。

旅先で得た経験をもとに、王としての誓いを言葉として刻むことじゃ。

なので、すぐに終わるかもしれんし、数年かかることもある。まあ、本人の意思によるところが大きいな」

 王は言い終えると、自身の王冠の額の部分にある紋章に手をやった。

 そして、少し力を入れて紋章をひねり、それを外して見せた。

「強いて言うなら、これじゃな。この紋章の裏に言葉が刻んである。儂の場合は、『隣人を受け入れよ』じゃ。若かりし儂が旅で得た言葉じゃよ。今もこの信念は変えてないつもりじゃが、お主にはどう映る?」

 王は紋章の裏面を懐かしむように眺めている。


「はい、私のような者が、この国で今までやってこれた理由が分かったような気がします」

 ジャニィは意外なところで真実を知ったような気になった。また、あの頃、父がヴォーアム行きを勧めた理由が分かったような気もした。

 しかし、『真王の証』が、そんなものだとは思いもよらなかった。


「うむ、伝わっていたのなら儂も嬉しく思うぞ」

 王はゆっくりと目を瞑った。


「さて、少し疲れてきた。他に何かあるか?」

 ジャニィは少し考えたが、これといって何も浮かばなかった。

「いえ、ありがとうございました」

 そう言って、ジャニィは深々と一礼した。


「うむ、では、息子を頼んだぞ、ジャンセン君」

 王は最後にそう言うと、深々と玉座に沈み込んでいった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ