2.篝火
村の家々の前に灯る篝火が太陽に思えた。
白夜特有の風習なのか、この地方では当たり前なのかは分からないが、村中の家の軒先に篝火が焚かれているようだ。
ゆらゆらと揺らめく炎は数十にも及び、どれも消えることなく燃え盛っている。
そのオレンジの炎は、レンガ作りの家々に反射し、村全体を柔和な色に染めていた。
男は一番近くにあった篝火に手を伸ばし、感覚の薄くなった指先を温めた。
じんわりと広がる温もりに、冷え切った体が解れていくのを感じた。
男はさらなる暖かさを求め、一歩踏み出した。
が、溶けだした雪に足を取られ、篝火に向かって前のめりによろけてしまった。
よりどころなく腕は炎を掴み、そのまま篝火を抱き抱える形で倒れこんだ。
またたく間に炎が男の体を包み、冷え切った体を焼いていく。
男は声も出せず、その場で、のた打ち回ることしかできなかった。
ジタバタと手足を振るい、体を雪に擦りつけ、必死で動き回ったが、いよいよ体力も限界に近づいた。
もうダメだ、と諦めた瞬間、男の体から青白い光が発すると、突然炎が姿を消した。
何がなんだか、訳もわからず茫然としていると、頭上から声が聞こえた。
「大丈夫ですか?」
男が顔を上げると、そこには、少し怯えた目で男を見下ろす銀髪の少女が立っていた。
「ジェ……ニ……?」
弱々しい声で、そこまで発すると、いよいよ男は力尽きた。
「おばあちゃん! 大変、人が倒れてる! 家に入れるから手伝って……」
男は少女の声が遠ざかっていくのを感じた。