表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Journal Journey ~魔王罪として処刑する~  作者: 柚須 佳
第二章 王宮書記官の旅1(真歴一四九八年一〇月)
15/87

1.片腕

「秋に差し掛かると言うのに、この暑さはたまらないな」

「この暑さには慣れないものでさぁ」

「お前に言ってないぞ。独り言だ。しかし、またその訛りか?」

 ジャニィはくすりと笑った。

「そりゃぁ、すんません」

「まあ、いいや、それよりダムイの村までは、あとどれくらいだ?」

 ジャニィは大きめな手帳を開きながら尋ねた。

「もうすぐそこでさぁ。見えますかぁ?」と御者は丘の向こうを指差した。

 ジャニィは馬車の窓から顔を出し、御者の差す方を眺めた。

 黒髪が頬をさする。

「王子の足取りが分かればいいがな……」

 生暖かい風がジャニィの呟きを絡め取って後方へ運んだ。


「よっと、ちょっと待っててくれ」

 村の近くまで来ると、ジャニィは馬車から軽やかに飛び降り、村の中へ入っていった。


 村はどんよりとしており、人の気配がしない。

「村、だよな?」ジャニィは首をキョロキョロさせながら歩いていた。

「寂れてるねえ、本当に人が住んでるのかねえ?」

 ジャニィは村の中心部にある井戸までやってきた。

「水は……あるのか? これ?」ジャニィは井戸を覗き込み「おーい、おー、響くねぇ」って、何やってるんだ? オレは。

「さて、廃村だね」

「えーと、真歴一四九八年一〇月、ダムイの村は廃村。王子の痕跡なし」

と、ジャニィがメモを書き込もうとすると、廃屋の影から一人の少女が現れた。


「うおっ!」突然のことにジャニィは危うくペンを落としそうになった。

「えーと、お嬢ちゃん、この村の人?」ジャニィは優しく尋ねた。

 コクンと小さく頷くと、少女は半歩後ろに下がった。

「あのー、少し話しを聞いてもいいかな? ほら武器とか何も持ってないからさ」

 ジャニィは両手をあげながら、少しずつ少女に近づいていった。

「いきなりだけど、その腕、どうしたの?」なるべくにこやかにジャニィは尋ねた。

 少女は、ちらっと失われた左腕を見た。

「その、何かあった? 村の人も少ないみたいだし」ジャニィは微笑みながら続けた。

「悪魔が来たの」少女は淡々と話しだした。

「悪魔? いつ来たの? もしかしてその悪魔に村をめちゃくちゃにされたとか?」

 ジャニィは感が良い。

「そう、夏に来た。夜。いきなり光る剣を持った悪魔がきた。お父さんを……」

「光る剣? 聞かせて」ジャニィはペンを走らせながら続きを聞いた。

「そう、光る剣で切られるの。みんな切られたの。私の手も切られたの」

「なんで、いきなり切られたのかな?」

「わからない、村のお祭りでやる、狼の魔法をみんなで練習してたの」

「狼の魔法?」

 ジャニィは、手帳をパラパラとめくり、この村に伝わる神事に目を通した。

「なるほど、神狼祭か。幻導の幻覚作用に、獣姿……」ジャニィは呟いた。

「そう、神狼祭。準備してたの。今年は食べ物が少ないから、みんなでやろうって。お肉もいっぱい無くなっちゃったから、みんなで頑張ろうって……毎日練習してたの……」

 そこまで言うと、少女はワンワンと泣き出した。


「そうか、辛かったね……」

 ジャニィはゆっくり少女を抱きしめた。


「みんな、死んじゃった。悪魔に殺されちゃった」

 少女は泣きながら、しばらくその言葉を繰り返していた。


「ねえ、最後に一つだけいいかな? その悪魔はどっちの方から来たのかな?」

 ジャニィは少女の目を見て尋ねた。

「あっち、川の方」と少女は残った右手で涙を拭きながら、御者を待たせている場所とは反対側の方向を指差した。

「そっかぁ、あっちか、よし、じゃあ一緒に行こう」

 ジャニィは無理やり少女の手を引いて御者の元へ歩いて行った。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ