9.更なる魔物
その時、納屋の外から女の叫び声が聞こえた。
「きゃー、魔物よー」
王子は慌てて納屋の外に飛び出した。
畦道の奥、畑の方からこちらに向かって、一目散に走ってくる女がいる。
みるみるうちにこちらに近づいてくると、女は勢いよく王子に抱きついた。
「魔物よ。魔物が出たの。畑に。どうしよう。助けてちょうだい」
息を切らしながらそこまで言うと女は地面に座り込んだ。
「わかった、落ち着け」王子は屈み込んで女の目を見てこう言った。
「魔物が出たのはどのあたりだ?」
「畑よ、畑で収穫の準備をしていたら、茂みの中からこっちを見ている魔物がいたの。びっくりしてカゴを落としてしまったら、魔物が出てきたから、一目散に走って逃げてきたの」
「そうか、その後、魔物はどうした?」
「わからない、追ってこなかったから逃げたのかもしれないわ」
女は少し落ち着いたようだが涙目だ。
「そうか、私が見に行こう。ただ一つお願いを聞いてくれないか?」王子は立ち上がり、女の手を取って立つのを促した。
「納屋に幻導師がいる。昨日の犠牲者を見て困惑している。家まで連れて帰ってくれないか?」
王子はそうお願いすると、納屋の中の幻導師を覗き込んだ。
「わかったか? 家まで連れて行ってもらえ!」
「……」幻導師の返事はなかった。
王子は魔物が出たという畑へ向かった。
畦道の横には畑が続く。
かなりの距離を歩いたが、魔物の姿は見つからなかった。
途方に暮れてあたりを見回すと、遠くに橋が見えた。
橋か、川向こうの隣村があるとすれば、あの橋の向こうか。
王子は昨日幻導師から聞いた隣村のことを思い出していた。