6.神父
「お友達と一緒に行かなくて良かったんですか? 丘の上、眺めも良いですよ」
アイソレシアの前を歩く、神父が聞いてきた。
「いいのよ、シンクフォイルのお墓には、あまり興味がなくてね」
「そうなんですか? って、あれ? シンクフォイル? なんか、どこかで聞いたことがありますね」
神父が首を捻っている。
「聞き間違いじゃないかしら? シンクフォイルは、それほど有名ではなくってよ」
「そうなんですか?」
「そうよ、それより、セダリ氏族のお墓はどこかしら?」
「ええ、すぐそこですよ。ほら、柵の端っこ」
神父が小川の向こうを指差した。
「ああ、あれね」
つられて、アイソレシアも、猫の手で指差した。
すると、神父は、一瞬だけ驚いた顔をすると、すぐに、「申し訳なかった」と謝った。
「そんな、謝らなくていいわよ。コレ、別に気にしてないから」
そう言って、アイソレシアは、猫の手で、Vサインを作った。
「ヴォーアムのV! なんてのは、どうかしら?」
珍しく、アイソレシアは機嫌が良かった。
「ハハハ、ヴォーアムですか、懐かしいですね。実は私、昔ヴォーアムに住んでいたことがあるんですよ」
「あら、そうなの? どのあたりかしら? 私もヴォーアム出身なのよ」
「えっ! そうなんですか! 奇遇ですね。えっと……あれ? どこだったかな……」
神父は、なんだか気まずそうに頭を掻いていた。
「ところで、なんで、セダリ氏族のお墓なんです?」
「友達なのよ。知ってるかしら? ハルセダリ・レープリさん。この村の出身なのよ」
「あー、ハル君ですね。知ってますよ。そう言えば、最近は、全然帰ってきませんね。これは、説教が必要ですね」
「あっ、神父だけに! なんて、つまらないこと、言わせないわよ」
アイソレシアが、先回りすると、神父は、また気まずそうに頭を掻いていた。
「あら? これって……」
アイソレシアが、墓石に顔を近づけると、神父が説明してくれた。
「うん? あぁ、そうですよ。中は空っぽなんですけどね。一応形だけでもって、ことらしいですよ」
「そうなの? そうすると、リカちゃんって、やっぱり……」
アイソレシアは、猫の手を顎先に当てた。
「リカちゃん? ルリリカさんのことですか?」
「ええ、あの娘って、本当にこの村の出身なのかしら?」
「そのはずですよ? って、あっ! なんか、こっち見てますよ」
神父の言葉につられて、アイソレシアが、丘の上を見遣ると、ルリリカと目が合った。
「あら、本当ね。あの娘、うさぎ耳なのかしら?」
アイソレシアの何気ない言葉に、神父が笑いだした。
「どうしたの?」
「いや、うさぎ耳って! どこの言葉です?」
「えっ? 言わないかしら?」
「言いませんよ」
「いや、言うわよ」
「いえ、言いません!」
そんな、くだらない水掛け論に、二人して笑ってしまった。
「それにしても、暑いですね。そろそろ引き上げませんか?」
照り付ける太陽に、神父が音を上げ始めた。
「もう少し下流にですね。麦茶を冷やしてあるんですよ」
「麦茶? 何かしら?」
「えーとですね。これは、その昔、私がユガレスを旅している時に教えてもらったんですけどね……」
神父が、意気揚々と昔の旅の思い出を語り出した。
普段なら、あまり積極的に聞きたいとは思わない話だが、なぜだか、この時は、楽しく聞いていることができた。
「へー、面白いわね」
「あっ、じゃあ、人魚、見たことあります? 実はですね……」
アイソレシアが、興味を示す度に、神父は、楽しそうに、自分の思い出を語り出した。
それは、どこか、子供じみていて、他人から見れば、なんでもないことなのかもしれないけれど、確かに、この神父にとっては、大切な思い出なのだろう。
そして、一つ一つの思い出を胸に、これからも生きて行けるのなら、それは、楽しいことの積み重ねになるのだろうな。
きっと、この神父は、今までもそうやって生きてきたし、これからもそうするのだろう。
なんだか、アイソレシアまでも、楽しい気分になっていた。
「ねえ、あなた、面白いわね? 名前はなんて言うのかしら?」
「えっ? 名前? オークっぽくないので、少し恥ずかしいのですが……」
「そんなの関係ないわよ。私だって変な名前よ。アイソレシアですもの」
「アイソレシア? いい名前ですね」
「そう、ありがとう。で、あなたは?」
「私は……私は、フロトホイルです」
「へー、すごく良い名前じゃない! これからは、恥ずかしがる必要なんて、ないと思うわよ」
言った後に、アイソレシアは、ちょっと生意気だったかな? と反省した。
「そうですか? じゃあ、これからは、そうします」
神父は、なんだか嬉しそうに頭を掻いた。
「では、行きましょうか? 皆さんも呼んで、お茶の時間にしましょう!」
そう言うと、神父は丘の上へ向かって、大きく手を振った。




