表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Journal Journey ~魔王罪として処刑する~  作者: 柚須 佳
おまけ 沈没する車輪 真暦1500年1月~真暦1505年9月
110/110

6.神父

「お友達と一緒に行かなくて良かったんですか? 丘の上、眺めも良いですよ」

 アイソレシアの前を歩く、神父が聞いてきた。

「いいのよ、シンクフォイルのお墓には、あまり興味がなくてね」

「そうなんですか? って、あれ? シンクフォイル? なんか、どこかで聞いたことがありますね」

 神父が首を捻っている。

「聞き間違いじゃないかしら? シンクフォイルは、それほど有名ではなくってよ」

「そうなんですか?」

「そうよ、それより、セダリ氏族のお墓はどこかしら?」

「ええ、すぐそこですよ。ほら、柵の端っこ」

 神父が小川の向こうを指差した。

「ああ、あれね」

 つられて、アイソレシアも、猫の手で指差した。

 すると、神父は、一瞬だけ驚いた顔をすると、すぐに、「申し訳なかった」と謝った。

「そんな、謝らなくていいわよ。コレ、別に気にしてないから」

 そう言って、アイソレシアは、猫の手で、Vサインを作った。

「ヴォーアムのV! なんてのは、どうかしら?」

 珍しく、アイソレシアは機嫌が良かった。

「ハハハ、ヴォーアムですか、懐かしいですね。実は私、昔ヴォーアムに住んでいたことがあるんですよ」

「あら、そうなの? どのあたりかしら? 私もヴォーアム出身なのよ」

「えっ! そうなんですか! 奇遇ですね。えっと……あれ? どこだったかな……」

 神父は、なんだか気まずそうに頭を掻いていた。

「ところで、なんで、セダリ氏族のお墓なんです?」

「友達なのよ。知ってるかしら? ハルセダリ・レープリさん。この村の出身なのよ」

「あー、ハル君ですね。知ってますよ。そう言えば、最近は、全然帰ってきませんね。これは、説教が必要ですね」

「あっ、神父だけに! なんて、つまらないこと、言わせないわよ」

 アイソレシアが、先回りすると、神父は、また気まずそうに頭を掻いていた。


「あら? これって……」

 アイソレシアが、墓石に顔を近づけると、神父が説明してくれた。

「うん? あぁ、そうですよ。中は空っぽなんですけどね。一応形だけでもって、ことらしいですよ」

「そうなの? そうすると、リカちゃんって、やっぱり……」

 アイソレシアは、猫の手を顎先に当てた。

「リカちゃん? ルリリカさんのことですか?」

「ええ、あの娘って、本当にこの村の出身なのかしら?」

「そのはずですよ? って、あっ! なんか、こっち見てますよ」

 神父の言葉につられて、アイソレシアが、丘の上を見遣ると、ルリリカと目が合った。

「あら、本当ね。あの娘、うさぎ耳なのかしら?」

 アイソレシアの何気ない言葉に、神父が笑いだした。

「どうしたの?」

「いや、うさぎ耳って! どこの言葉です?」

「えっ? 言わないかしら?」

「言いませんよ」

「いや、言うわよ」

「いえ、言いません!」

 そんな、くだらない水掛け論に、二人して笑ってしまった。

「それにしても、暑いですね。そろそろ引き上げませんか?」

 照り付ける太陽に、神父が音を上げ始めた。

「もう少し下流にですね。麦茶を冷やしてあるんですよ」

「麦茶? 何かしら?」

「えーとですね。これは、その昔、私がユガレスを旅している時に教えてもらったんですけどね……」

 神父が、意気揚々と昔の旅の思い出を語り出した。

 普段なら、あまり積極的に聞きたいとは思わない話だが、なぜだか、この時は、楽しく聞いていることができた。

「へー、面白いわね」

「あっ、じゃあ、人魚、見たことあります? 実はですね……」

 アイソレシアが、興味を示す度に、神父は、楽しそうに、自分の思い出を語り出した。

 それは、どこか、子供じみていて、他人から見れば、なんでもないことなのかもしれないけれど、確かに、この神父にとっては、大切な思い出なのだろう。

 そして、一つ一つの思い出を胸に、これからも生きて行けるのなら、それは、楽しいことの積み重ねになるのだろうな。

 きっと、この神父は、今までもそうやって生きてきたし、これからもそうするのだろう。

 なんだか、アイソレシアまでも、楽しい気分になっていた。

「ねえ、あなた、面白いわね? 名前はなんて言うのかしら?」

「えっ? 名前? オークっぽくないので、少し恥ずかしいのですが……」

「そんなの関係ないわよ。私だって変な名前よ。アイソレシアですもの」

「アイソレシア? いい名前ですね」

「そう、ありがとう。で、あなたは?」

「私は……私は、フロトホイルです」

「へー、すごく良い名前じゃない! これからは、恥ずかしがる必要なんて、ないと思うわよ」

 言った後に、アイソレシアは、ちょっと生意気だったかな? と反省した。

「そうですか? じゃあ、これからは、そうします」

 神父は、なんだか嬉しそうに頭を掻いた。

「では、行きましょうか? 皆さんも呼んで、お茶の時間にしましょう!」

 そう言うと、神父は丘の上へ向かって、大きく手を振った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ