ヒロイン不在
どうして。
どうしてこうなった?
今宵は、私の通う学園の、私の卒業パーティ。
学園に通う者の身分は上下関係なく、知力学力のみの上下関係で構成される。
その上下関係は身分に関係なく卒業後の進路にも大きくかかわるため、学園に通う者すべてが己を研磨するためだけに費やす5年間。
平民から王族まで、全ての上下関係が意味をなさないこの学園は、実力主義の塊である。
だから。
平民のヒロインは皇子に求婚されるし、ヒロインはそのたゆまぬ努力で王妃にもなれる。
だからこそ、この学園でのヒロインは光り輝き全国民に愛される。
なのに。
なのに、なぜ。皇子の隣には、私がいるのか。
わからない。どこで路を誤った?
‐―――――――――
皇子の婚約者候補となったのは、皇子が5歳の時。私が8歳の時だった。
家柄も身分も容姿も問題ない数いた婚約者候補の一人だった私は年齢差のこともあり、自分が最後まで残るとは思っていなかった。家族も「数合わせのためだから。万が一にも婚約者になったらいいねえ」とのんきに構えていた。
1年が過ぎ、皇子の婚約者候補は半分に減った。王妃教育が過酷なのもあり、根性の無いコドモはそうそうに婚約者候補から外されていった。
2年が過ぎ、さらに半分減った。
3年が過ぎ、残された婚約者候補は5人となった。私も残っていた。
4年目は一人の脱落者も迎えずに過ぎた。
ここまで残り、苦しみを分かち合い切磋琢磨し己を磨きあげたという同志的意識がお互いの中に芽生え始め、友情を感じ始めた5年目。
他の候補者よりも3歳年上な私は、一足先に学園に通うことになった。
5年目で候補者脱落か、長かったな~と思っていたら、他の候補者からの強い要望で「保留」扱いとなった。皆様の熱い友情に感激しながら学園の長期休暇には戻ることを約束し全寮制の学園へと旅立った。
まあ、3年もすれば皆様も同じ学園に入学されるのですけれどね。
私が入学し、何事もつつがなく1年が過ぎようとしたある日。何もなく平凡なその日に。
いつもと同じ朝を迎えたはずが。
私は前世を思い出していた。
‐―――――――――
この国の名前、この国の名所、この学園の名前、どれを取っても前世でプレイした「ラブなハートに狙い撃ち~あなたのハートをバキュンとしちゃうわ~」というネットの乙女ゲームの世界です。タイトルからもわかるような、いわゆるク○ゲーでした、はい。
内容は「ヒロインが学園に入学し攻略対象と呼ばれる男性にアタックして恋人同志になる」という単純なもの。単純な上に攻略も簡単、ヒロインにどこまでも甘くご都合的な展開でプレイヤーにも単純で簡単な物でした。
しかし。
豪華人気声優メンバーに加え、「神絵師」と崇め奉られていた豪華イラストレーターが加わったこのゲームは、テストプレイヤー募集には応募が殺到し、選ばれたプレイヤーだけでプレイさせるも何度も鯖落ちさせるという神話まで生まれた。
そうなると、一般プレイヤーもそんなにも面白いのかと気になるわけで。お目当ての声優さんも出ることだし、と一般配信が始まった直後にネットゲームを始めるわけで。鯖落ち伝説再び~な事を繰り返し。ク○ゲーな内容でも伝説のネットゲームとなったのです。
なぜ豪華人気声優陣に神絵師が参加したのかは、今世紀最大の謎とまで言われるほのどのク○ゲー。
ク○ゲーなのにプレイヤーを熱中させたのは神絵師の豪華すぎるスチル。その数把握できないほど。なんせ、攻略対象の好感度10%刻みで表情が変わる・背景も変わる・声質も変わる・いちいちスチルとなってモニタ全面に表示される。それが、朝昼晩の時間帯にも全て変わる・・もう、こうなったらコンプリートしたくなるのが職人ですよ!
豪華声優陣と神絵師で予算を使い果たしてストーリーまで予算が回らなかったという憶測。
そう、ストーリー。物語が全くもってない。無さ過ぎて逆に裏ルートがあるのではないかと憶測が憶測を呼び考察サイトで情報合戦、何週もプレイするネット廃人続出したわね。私もその一人ですが、何か?
さて。困った。このまま進むと3年後の私の高等部進学に伴い、皇子やその婚約者候補者が学園に入学してくる。そして平民のヒロインも入学してくる。
ヒロインがどの攻略対象者を狙ってくるのかはわからない。
どの攻略対象者を狙っても、必ず悪役令嬢とその取り巻きがヒロインをいじめる。
・・・悪役令嬢。それは、今世の私。
平民であるヒロインを身分と権力と取り巻きの力を使い苛め抜く。それが悪役令嬢の、今世の私。
悪役令嬢の末路は、国外追放・お家断絶・追放先での死亡などバラエティ豊富。ヒロインの悪役令嬢への好感度で変わる。
そう、そうね。ならヒロインの好感度を下げないように行動すればいいのかしら。
ヒロインがどの攻略対象を選ぶのかはわからないけど。皇子以外を攻略対象にするのだったら、応援するスタンスで。
・・皇子だったらどうしましょうかね。他の婚約者候補が私の撮り巻きの位置になるのは確定ですね。今度の学園の長期休暇時に、私が婚約者候補から婚約者確定になるのは、ストーリー的に必須ですし。
他の候補者に悪役令嬢を押し付け、破滅するのを見ているのも後味悪いですしねえ。
まあ、どこまでやれるか。ゲームの世界だとして強制力がどう働くのか働かないのか、いろいろ考察してみましょうか。
皇子とヒロインが出会うまで、まずは考察と行動ですわね。
‐―――――――――
今宵は、私の通う学園の、私の卒業パーティ。
このパーティ会場で断罪される私。
のはずだった。
私の隣でにこにことご機嫌な皇子。
その後ろには、元婚約者候補のご令嬢たちと、攻略対象者だったご子息たち。
ヒロインは・・ヒロインはどこにいるの???