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火曜日の少年  作者: 糸尾文伽
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エピローグ

「さっき、寝てたよね」

 閉館後、駅まで歩く道すがら。

 さりげなく言うと、晴也がぎくりと肩を震わせる。

「……バレた?」

「そりゃあ、図書委員ですから」

 しれっと答えたさつきに、「マジかよ、怖ぇー」という嘆きが返ってきた。




 あの後、さつきも晴也も、図書館へと戻った。

 さつきは当然図書委員の仕事が残っていたからだが、晴也はそのまま帰るのではないかと思っていただけに少々意外だった。不思議そうなさつきの顔を見て、晴也はけろりと笑ったものだ。

「せっかくだし、言われた通りにしてみようと思って」

 つまり、適当な本を一冊持ってくる、というさつきのアドバイスをそのまま実行したのである。素直というか、単純というか。

 しかし、それが彼の良いところなのかもしれない。

 書架の前に立って真剣な表情で本を選び、座席でページをめくる彼を、亡くなった幼馴染が見ていたら。きっと、とても喜んだだろう。


 ――結局、あの席でうとうとと舟を漕いでしまっていたけれど。


 いくらカウンターから死角でも、少し移動すれば見える場所である。

 もっとも、おとなしくカウンターに座っていなかったのは、さつきもまた眠気に襲われていたからなのだが。晴也はそこまで気が付かなかったようだ。

「何の本読んでたの?」

「うん? 何だったっけ、忘れた」

「えー?! そんな勿体ない」

「そう言われてもさー。ほんと適当に選んじまったし、最初の十ページくらいしか読めなかったんだって」

 本のタイトルさえも睡魔に攫われてしまったらしい。

 呆れたさつきに、晴也は「でもさ」と続けた。

「うたた寝して、良いこともあったよ」

「良いこと?」

「実は、夢に出てきたんだ。シュウが」

 さらりと言われ、思わず足が止まった。

 晴也の表情は変わらない。むしろ、どこかすっきりしているように見えた。

「あいつが亡くなってから、夢に出てきたのって初めてかも」

「そうなんだ……どんな夢?」

 問いかけに、晴也は視線を彷徨わせた。

 なぜか頬を掻きながら、言いよどむ。

 

「えーと……」

「うん」

「その…………覚えてない」


 嘘だ。

 咄嗟にさつきは思ったが、口には出さなかった。

 様子を見る限り、悪い夢ではなかったのだろう。なら、いい。その代わり。

「ねえ」

「ん?」


「図書館、これからも来る?」


 見上げた先で、少年が歯を見せて笑う。

 

「ん。行くよ」



 ――また、火曜日に。



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