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やがて馬車は大きな大きなお城の前に停まった。
扉が開けられ、先ずはお兄様が従者の手を取って外へ出た。
続いて私も外へと出ると、目を僅かに見張った。
お城だった。
前世ではおとぎ話に出てくるようなお城。
「シダルタ」
「…ルシード」
その時、前方からかかった声に意識を戻した。
此方に笑顔で近寄ってきたのはルシード様とシーアだった。
「ティナ、もう、待ってましたのよ?」
「待たせてごめんなさい。シーア」
笑って会話を始めた兄達を傍目に近寄ってきたのはシーアと言葉を交わす。
シーアの身に纏うドレスは淡い桃色で、所々赤いレースがあしらわれていてとても可愛い。
髪も、濃い赤のリボンが編み込まれていてシーアにとっても似合っていた。
「素敵なドレスね。似合ってますわ」
「ありがとうございます。シーアも素敵…」
「ありがとう。嬉しい」
ふふ、っと二人では笑っていると、声がかかる。
「やぁ。久しぶりだね。とっても愛らしいよクリスティナ嬢」
「ありがとうございます。ルシード様もとても素敵ですわ」
白いスーツを纏ったルシード様の賛辞に、辿々しくも淑女の礼をして返す。
シーアの兄、お兄様と同じ歳のロストウェル家の嫡男であり、「土の愛し子」ルシード=ロキ=ロストウェル様。
髪は薄目の茶、シーアと同じ暁色の瞳を持つ美少年である。お兄様もだが、歳の割には大人びていて素敵だった。
隣ではお兄様とシーアも挨拶を交わしていた。
そして、時間もギリギリだと言うことで四人で城の中へ入っていったのだったーーーー…
豪華絢爛。
この一言に限る。
足を踏みいてた瞬間集まった視線に少しだけ怯えてしまったが、手を取ってくれていたお兄様が優しく微笑んでくれたので気を落ち着かせることができた。
私達カインズロッド家とシーア達ロストウェル家はこの国にニ家しかない第公爵家である。
注目されるのは仕方ないこと…何より、ここでの私達の評価は家の評価。
無様だけは晒せない。
「まだ開始はされてないようだね。ここで待っていようか」
「シンシア、喉は渇いていないかい?」
「大丈夫ですわ、ルシーお兄様」
「シーダお兄様、本日大人の方は王家の方々のみの参加ですか?」
「そうだよ。この場には貴族の令嬢と令息のみ集まっているんだ」
きょろりと回りを見渡すと、招待状に記されていた通り、7歳から10歳までの子供しかしないようである。
その時、ざわりと会場の雰囲気が揺らいだ。
ざわつきの先を見れば、気品を戻った男女が入ってきたようだ。
その後ろには、シーダお兄様と同じくらいの少年。…煌めく銀色の髪と、美しいアメジストの瞳を持った美少年が歩いていた。
「(彼の方々が国王夫妻…じゃあ、後ろの方は…第一王子、アレクシード殿下ね)」
奥の高い位置に置かれた豪華な椅子の前まで来ると、王妃様と王子殿下が腰を下ろす。
そして、国王陛下が笑顔で言葉を放った…
「「凄いですね」」
数分前に国王の放ったパーティーの開始の合図。
表向きは春を祝うパーティーが始まった。…のだが。
「流石にあの場には入り切れません。怖いです」
「…そうですね…凄い」
会場に出来た複数のクレーター…一人の令息を囲む複数のご令嬢方。…が4つほど。
「おはつにお目にかかります。わたくし、エリーシェル男爵家のーー」
「わたしくしは、…」
幼いながら令嬢の猛攻が凄い。
流石、家を背負ってる。
「奥は騎士団長様のご子息、エドワード佐摩ですわね」
シーアが赤い髪と、瞳を持つ美少年を見つめて言う。
「その前方のクレーターの中心は魔術師長様のご子息、ネルト様ですね」
続けて空色の髪と、スカイブルーの瞳を持つ美少を見ながら返した。
そして。
「…」
気に入らない。
何だか気に入らない…
「目が。…やだなぁ」
「…うん」
今日は無礼講だからって、私達を置いて、お兄様達だけで挨拶に行かれた。
直ぐに戻るから待っていてねって。
そんな、愛しい大好きなお兄様達に向ける、目が。
蔑むような、何の感情も篭っていない無機質な冷たい目が。
「気に入らない」
「許せない」
何様なんだろう、なんて
思ってしまうのは、仕方ないこと
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