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「ティナ!」
「シーア!」
今日も友人たるシンシアと小高い丘にある花畑で待ち合わせをした。
お互いにバスケットを持って準備万端である。
因みにバレたら怒られること必須であるので家の者達には内緒である。(お兄様達にはバレてるだろうが…)
「そういえばお聞きしました?お城から届いた招待状…」
「…確か、春を祝うという名目で7歳から10歳までの令息、令嬢を対象としたパーティーでしたわね。所謂…」
そう、所謂
「「お見合いパーティー」」
だろうと予測した。
「王家主催で、宰相様や騎士団長様、魔術師長様方のご令息も参加なさるそうですし…恐らく婚約者を選定する場、なのでしょうね」
「…私達も今7つですもの…ギリギリ対象ですから、強制参加ですわ。選ばれるなんて自惚れはありませんが…」
正直面倒臭い。
先程言った国王は勿論、宰相、騎士団長、魔術師長はこの国で最も権力がある。
私達の家たる大公爵家もそうだ。
「パーティー何かより、お兄様たちと居る方が嬉しいのですけど…出席しない訳にはいきませんものね…」
「曲がりなりにも大公爵家の長女としての責務もあります。家に恥をかかせるわけにはいきませんわ」
「はい」
パーティーは明日。
出席するのは子供だけなので、シーダお兄様と参加することになっている。
シーアは兄たるルシード様と。
「一応、子供だけとはいえ王家の方々はいらっしゃるし、私達の初めての社交界デビューね」
「えぇ…それに、第一王子であるアレクシード殿下に、えっと…宰相様のご子息ハルトナイツ様…騎士団長様のご子息エドワード様、魔術師長様のご子息ネルト様はお兄様と同じで9歳だと聞きましたわ」
「そして、私達と同じ愛し子…とも」
お互いに顔を合わせてため息をついた。
「なるようになるとしか言えませんね」
「あまり目立たず、折角のパーティーですもの。楽しみましょう。」
恐らく彼の方々は婚約者の座を狙う女豹のような令嬢と、友人の座を狙うハイエナの様な令息達に囲まれるだろう。
お近づきになることもあるまい。
「ふふ、実は、お父様が明日のドレスを用意して下さったのよ」
「まあ。私もよ。明日お見せするわね!とっても素敵なんですから」
「本当?では、お互いに見せっこですわね」
ふふっと笑いあって、初めての王城にあーだこーだと思いを馳せた。
貴族の生まれだが、実際に家の周辺や領地しか出たことがないのだ。
王族や他の貴族達の関わりなどない。
異世界…であると、改めて感じて少しドキドキした。そして、改めて明日が楽しみだなと思った。
時間は過ぎ、パーティー当日。
メイド達に部屋でドレスアップされ鏡をまじまじと見て感嘆の溜め息を漏らした。
「…」
可愛い。
控えめに言って可愛い。
この世界の自分の顔が前世ではあり得ない美少女だと自覚はしていたが、これは。
お父様が用意してくれたのはお兄様の瞳のような淡いグリーンのドレスに、濃い緑の宝石のあしらわれた髪飾りが白金の髪に良く映えていた。
少女の身故、化粧は濃すぎず控えめに。
「まぁ。とっても愛らしいわ。私のティナ…あぁ、お母様にもっと顔を見せて?」
「お母様…」
共に居てくれた母にです髪型が崩れないように両頬に手を添えられた。
美しい母…大公爵夫人たるアリア=カインズロッドである。
コンコン
「アリア。ティナの準備は整ったかな?」
「はい。あなた…どうぞお入りくださいませ」
「失礼するよ」
母の呼び掛けで部屋に入ってきた父は、それはもう此方が恥ずか死するんじゃないかってくらいベタベタに誉めてきて、本当に死んでしまうかと思った。
何とか耐えたのだが、後から入ってきた黒いスーツを身にまとった最愛の兄に誉められ見事に召されてしまった。カッコいいよぉ。
「さぁ。ティナ、そろそろ向かわないと遅れてしまう」
心の中で悶えていた私に優しく微笑んだ兄は、恭しく手を差し伸べて、言う。
「お手をどうぞ。リトルレディ」
「はい。お兄様」
そっと差し出された手を取り、兄と共に用意されていた馬車に乗った。
見送ってくれた両親に手を振り、そして…パーティー会場たる王城に向かったのだった。
「ティナ、緊張しているの?」
「…申し訳ありません…」
「謝る必要はないさ。大丈夫、ティナが沢山頑張ってきているのを知っているよ。マナーも完璧だと先生もおっしゃっていたしね」
「…はい」
おずっと顔をあげると、慈愛に満ちた翡翠の瞳と目があった。
優しい優しい、シダルタお兄様。
そう、お兄様も一緒だ…怖がることなんて何もない。大丈夫。
「城の前でルシードとシンシア嬢と待ち合わせをして居るんだ」
「!!」
それを聞いて、クリスティナは瞳を輝かせる。
入場前にシーアと合流できるのか!と。
それから落ち着いた馬車のなか、少しだけ軽くなったここで城に着くのを待った。
初めてのお城
初めての外のパーティー
どんなものかな、と…クリスティナは小さく笑った。
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