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「異世界…なんだい?クリスティナ」
「シンシア?」
お互いから目が離せずにいたとき、上から声がかけられ顔を上げた。
「何でもありませんわ、お父様」
「うん?そうかい?」
「私、シンシア様とお話がしたいのです。…よろしいですか?」
「まだパーティーまで時間があるから、構わないよ」
今日は私、クリスティナとシンシア様の五歳の誕生日パーティーが我がカインズロッド家で開かれる。
先程の言葉から、目の前の美幼女も前世を覚えているのではないかと思うと是非とも話してみたかった。それは、彼女も同じらしい。
「お父様、私もお話がしてみたいですわ。よろしくて?」
「おや、クリスティナ嬢が気に入ったのかい?僕の天使」
「はい。仲良くしたいです」
「ふふ…お互いの天使達の頼みなら、聞かない訳にはいかないな?ジェイド」
「勿論だとも、ルシフェル」
ふと頭を撫でられ顔を上げると、酷く優しい目をした父が私を見下ろしていた。
そして家の無駄に豪華な談話室に案内され、私とシンシア様はふかふかのソファに座らされる事となった。
「僕達はパーティーの準備や客の対応があるから行くけど、護衛は扉の向こうに配置しておくから何かあったときは遠慮なく呼ぶんだよ?」
「じゃあ、二人で仲良くしなさい」
「「はい。」」
パタンと扉の閉まる音と共に来る、沈黙
「「……あの!…」」
口を開いたタイミングが同時でお互い気まずそうに顔を反らし、ちらりと視線を向けると目があった。
それが何だか可笑しくて、楽しくて二人してクスクス笑った。緊張が解れて良かった。
「ごめんなさい。改めて、カインズロッド家長女、クリスティナ=カインズロッドと申しますわ」
「はい。よろしくお願い致します。クリスティナ様、私はロストウェル家長女、シンシア=ロストウェルと申します」
「よろしくお願い致しますわ、シンシア様」
自己紹介を終えた後、二人で色んな事を話した。
やはり彼女も転生者であり、前世の記憶を所持しているらしい。
シンシアは前世はごく普通の高校生であり、ある日突然通り魔に襲われて死んだと聞いた。
一人っ子で、愛情を持ってた育ててくれた両親を置いて逝ってしまった事が心残りだと。
私は前世は卒業間近の中学生だった。
何気ない日常の中、居眠り運転の車に跳ねられて即死した。心残りはその日が卒業式の当日だったこと、両親が近くにいて、跳ねられる間際に目があったことだ。
トラウマものである
暗い話から外れ、好きだった漫画、小説、好きなもの、好きだった芸能人など沢山の話をした。
その中で、シンシアは私をティナ。私はシンシアをシーアと呼ぶようになり、たった少しの間でとても仲良くなれたと思う。
「私、記憶を思い出すのが今日で良かったと思うわ。だって、生まれて直ぐに記憶を持っていたら、きっとこの世界に馴染めなかったもの」
「それは同感だわ。日本と文化も何もかも違うもの…今なら貴族のマナーもある程度習い初めているし問題ないものね」
まだたった五年だが、近世に不満はない。
優しい家族と使用人達、大きなお屋敷
大貴族として覚えることは沢山で大変だが、時間はまだまだある。
何より…
「「お兄様が、素敵すぎる…」」
また言葉が重なった。
目線を交わし、また笑う。
二つ上の兄、大公爵家の跡取りたる二人の兄がカッコよくて仕方ないのだ。
まだたった七つだと言うのに、凛とした姿と気品が素晴らしい。素敵だ。
その時、扉をノックする音が聞こえて返事をすると、今話題していた兄たちが姿を見せた。
「やあ。楽しかったかい?シンシア」
「ルシーお兄様!」
「そろそろ会場に向かおうか、クリスティナ」
「はい!シーダお兄様」
大好きな兄の姿に、二人で顔を輝かせふわりと微笑んだ。
そんな愛らしい妹達に兄二人
ロストウェル家嫡男ルシードと、カインズロッド家嫡男シダルタはくすりと笑みを溢した。
「「お手をどうぞ、僕達の可愛い天使。お誕生日おめでとう」」
「「ありがとうございます。私の大好きなお兄様」」
兄達にエスコートされなが、会場に向かった。
五歳の誕生日の日
かけがえのない親友との出会いの日
これから、彼女達を待ち受ける人生は決して平穏ではないが、きっとどんなことも二人でなら乗り越えられると信じている。
気高く、美しくそして愛らしく成長する彼女達を、愛する者も現れるだろう。
それは、まだ、先の話だ…
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