5話
いつのまにか2000PVいってたので、気まぐれ更新
「ちょっと玄野さん?僕、英語はあまり分からないですけど、これって煽られているんですよね?」
「まあ、落ち着け。煽っている訳ではないだろうから気にするだけ無駄だ」
「でもクレイジーって言ってますよ!?」
「そりゃ、完璧に性別が女になったなんて言われたら、俺もクレイジーだとは思うが」
「ちょっと!?」
「まぁまぁ、奏君落ち着いて。ホントに悪口とかじゃないんだよ。ほら、英語圏の人ってすぐファックとか言うじゃない?それと一緒だよ」
そういうもんか?
若干 偏見の入った新谷さんのフォローで、取り敢えず喧嘩腰はやめる。
玄野さんと外国人のニーチャンの僕の扱い方に憮然としつつ、渋々受け入れて玄野さんに話の続きを促す。
「それで?えっと、言語がどうとか言ってましたけど」
「ああ、コイツはシェーンって言うんだがな、コイツも奏と同じ能力者なんだ。それも規格外のな」
「はあ、それで?」
「コイツの能力を簡単に言えば、半永久的な翻訳コンニャク、みたいなもんだ」
「んん?どう言う事ですか?」
「ま、百聞は一見にしかず、ってな。シェーンいっちょ頼む」
『Okay, I see. Let's do it』
「えっ?えっ?」
ふわふわした説明をされ、何一つ分からないまま困惑している僕のこめかみを拳で挟みグリグリしだすシェーンさん。
ちょっ、これ大丈夫?記憶の改竄とかされてない?
なんて不安をよそに、ほんの数秒で事が終わった様で、シェーンさんは手を離した。
そして、次の第一声は驚くものだった。
「どう?僕の言葉が分かる?」
「ふぇっ?あれ、日本語喋れたんですか?」
さっきまでネイティブっぽい英語だったのに、いきなり流暢な日本語で喋りかけられて変な声が出た。
「あっはっは!これやるとみんな驚くから毎回楽しみなんだよね!」
「これがシェーンの能力、『自動言語翻訳の付与』だ。仕組みはさっぱり分からんが、相手の言葉を瞬時に脳内で母国語に翻訳する、って事らしい。だから一般人が見れば英語と日本語で会話してる様に見えるはずだ」
そう言われて、さっきの2人の会話を思い出した。
確かに、なんでか玄野さんが日本語で喋ってても通じていたし。
って事は、
「じゃあ玄野さんもこの能力を?」
「ああ、2日前にな。とにかくこれでスムーズに説明出来る様になったしここでの用事は終わりだ。じゃ、シェーンありがとな」
「どういたしまして!」
「あれ、玄野さんどこいくんですか?」
「おいおい、もう忘れたのか?言語の件と、能力の解析だっつっただろ。ちょっと行けば解析してくれるやつがいるから、パッとやってチャチャっと帰るぞ」
「ああ、Mr.クロノは彼女のとこにいくんだね」
シェーンさんの一言に気になる言葉があり、思わず尋ねた。
「彼女、って……解析する人って女性なんですか?」
「ん?まあ、女性というか少女かな。それがどうかしたの?」
「いや、さっき身体情報も分かるって聞いたので……その、男としてのも……ねえ?」
「ハハハ!噂の少年はチェリーって事か!心配しなくても、悪戯に突ついてくる様な事はしないはずさ」
ど、どどど童貞ちゃうわ!
後ろで古田さんが笑いを堪えてるのが見なくても分かる。絶対後でイジられるわ。
「あー……そろそろいいか?シェーンもあまり揶揄ってやらんでくれ。日本でもやる事がたんまり溜まってるんでな。おら、チェリー行くぞ」
「悪いねMr.クロノ。君も、色々頑張ってね。じゃあまたね!」
「あ、ありがとうございました」
色々、に含みを持たせた別れの挨拶をシェーンさんと済ませて部屋を出た。
でも、よく考えると息子は家出中だし、僕 一生チェリーなんじゃ?いや、童貞じゃないけどもね。
なんて不安になっていると、案の定 古田さんに絡まれた。
「やー、奏は童貞だったかぁ。それなのに変態だなんて、初体験の時が楽しみだねぇ」
「いや古田さん、違いますからね?」
「分かった分かった。ヤリチン、いやビッチの奏は経験豊富だねー」
「ビッチて。それはそれで嫌だわ」
ついつい素の口調でつっこんだらシレーっとした顔で晶さんが爆弾を落とした。
「そんなに慣れてるんなら、初の処女を貰ってやってよ」
「ふぇ?」
隣からの流れ弾に、可愛い声が出たのは反対側の新谷さん。
僕らの下品な会話を聞いて赤らめていた顔が、スッと白くなった。次いで、爆発した様に真っ赤になる。
「バカ晶!な、何を言ってるの!?」
「コイツも20代半ばになったってのに、変な男にばっか引っ掛かるんだよ。それも、狙ったかの様に皆んなドMなんだ。コイツ自身もドえm──ふぁふぉふぃ」
僕は巨乳美女の口から出た素敵ワードの威力に言葉を失った。
処女。
胸は絶壁だけど、それでも僕よりも背が小さくて可愛い系の美女、美少女と言っても過言では無いくらいの美人が処女。
おっふ、下腹部に血流が。
それだけでお腹の奥がトゥンクだわ。
「ちょっと黙りなさい!!晶だけには言われたくはないわよ!そう言う晶だって処女じゃない!」
「ふぉふふぁふぇふぉ?」
おいおい、マジかよ。
新谷さんだけでなく古田さんも?
ここが理想郷か。
感慨に耽っている僕をよそに連鎖爆発は続く。
「私知ってるんだからね!?初めては海の見えるスイートホテルの最上階で、夜景を見ながら王子様に抱かれたい、って。少女漫画か!」
「ぶふぅっ!!な、なんでそれを……!」
初さんが齎らしたその情報は、古田さんにとって予想外のものであり、致命傷になり得るものだったようだ。
「え?マジ?」
出会ってからの粗暴な態度とは裏腹に、理想の初夜は少女趣味のものだった。とても信じられず、思わず聞き返すと。
「ええ、本当よ。昔 晶の部屋に入ったことがあるんだけど、二重底になっている引き出しの中に如何にも秘密!って感じのノートがあってね。好奇心に従って読んでみたら……
ふふふっ、ダメ、思い出したら笑いが……!」
「お、おまっ!何 人の机の中漁ってんだよ!
いや、その前に、今の今までその事を知っていて黙ってたのか!?」
「いやぁ、まさかあんな爆弾が出てくるとは思わないじゃない?
勝手に見たのは悪いと思ったし、ちゃんと墓場まで持って行かなくちゃなぁ、って」
「だったらここでバラすんじゃねぇよ!」
晶さんの言うことはごもっともだ。
けど先に爆弾発言をしたのは晶さん。それに連鎖爆発しただけだから、どちらかと言えば悪いのは晶さんだと思う。
てか、内容が酷い……
「すいーとほてる……おうじさま……ぷぷっ」
「おい奏ぇ……何笑ってんだよ」
堪えきれずに漏れた笑い声を、聞き流さなかった晶さんにギロリと睨まれる。
「晶さんって意外とロマンティックなんですね☆」
「オラァ!その喧嘩買ったらァァァ!!」
怒りで……いや、羞恥心で顔を真っ赤にした晶さんは僕の首に腕を回し頭を固定させて、所謂ヘッドロックをかけてきた。
「痛てて……!ぷぷっ……!」
しかし関節技の痛みでは愉悦を抑えられず、どうしても笑いが溢れる。
「お、お前ぇぇ……! 殺す!お前を殺してあたしも死んでやる!」
「は、はなしてプリンセス……!」
「むがああああああああああああ!!」
結局、解析能力者とやらがいる部屋の前までそれは続き、玄野さんと新谷さんに止められるまでくだらない攻防は終わらなかった。