3話
俺は新谷さんと古田さんに挟まれながら教室から特殊災害対策本部に向かう車へ移動する。
「しかし1時間で性別が変わってしまうなんてなぁ……」
「あん?何言ってんだ?おめーがぶっ倒れてからもう3日は経ってるぞ?
それに生徒や教師の証言だと10分かそこらで性別が変わったって聞いたぜ?」
古田さんが衝撃の新事実を言ってきた。
ポニーテールのいかにも姐御って感じの人だ。
「へ?10分?3日?」
「もう晶ったら、お前なんて呼び方失礼でしょ。ごめんなさいね。晶ってば、がさつなんだから」
「いえ……大丈夫です。あっ、名前言ってませんでしたね。早乙女奏っていいます。
よろしくお願いします」
「いいのよ、先に名前は聞いていたし。
私は新谷初でこっちが古田晶。奏君これからよろしくね!」
「はいはい奏な、よろしくー」
新谷さんはミディアムボブ?のお姉さん系の人だ。言うなれば、男子理想の女子大生って感じ。バブみが高い。オギャりたい。
なんて、息子の不在を惜しみつつトリップしてる間にも話は進む。
「それで、自己紹介の次は奏君が気になってる事について教えるね。
まず今日の日付は、異変が起こった4月15日から3日経った4月18日。君は15日の13時に約10分かけて男性に体から女性に体に変わった。このことについては証言からの推測だからはっきり言えないけど…。
君のクラスにはもう1人発症者がいるね。
えーっと……確か、桜井霞ちゃんだったかな?髪が長かった子ね。その子は一時的な体調不良だけだったから15日のうちに本部に来てもらったわ。
君の場合は前例のない症状だったから下手に動かせなかったの。変に動かして大変なことになるかもしれないし。だから目がさめるまで看病や診察をしてたのよ」
「はぁ、そうだったんですね。色々ありがとうございました」
「おう、気にすんな。
で、証言ってのは女体化を目撃した人、つまり生徒や教師の計15人から聞いた話だ。
15人別々に話を聞いて矛盾点なんかもなかったから現段階では女体化に至る資料の一つとして取り扱われている。
そんで、証言によると13:00に約10分かけて肉体が変化。
変化の様子は穴という穴から血液、体液が噴き出て、皮膚を残し恐らく脂肪、筋肉、臓器、骨などが混ぜられて不定形になり、再成形されているようだったらしい。
その後皮膚に無数の裂傷が発生し、傷口から裏返るようにして皮膚が作り直された。この時に顔の作りも変わった、との証言。
異変の最中は発症者の悲鳴が叫ばれ続けていたことから、激痛を伴っていたと考えられる、ってさ。なかなかハードなんだな女体化ってのは」
「はは…激痛なんてもんじゃないですけどね。頭がおかしくなりそうでしたよ」
話を聞か限りとてつもなくグロい光景だったようだ。逆の立場だったら完全にトラウマになるだろう
「ほーん、大変だったんだな。
女から男になる時も死ぬほど痛いんかねぇ」
「さぁ、どうなんですかね」
息子が生えるときはめちゃめちゃ痛そう。
玉も潰されると気絶するって言うし。
「学校の先生やクラスのお友達は街の人と一緒に市民体育館や公民館などに避難しているし、自衛隊の人たちが警備しているから安心してね」
古田さんの話を継いで新谷さんが高校の知り合いの状況を説明するが
「え?避難ってなんで?しかも自衛隊が警備って?」
「あぁ、そっか。今の地上の様子も分からないんだっけ。
えっとね、15日に異常が起きたのは人間だけではないの。
正しくは15日日の午前4時に君が雪と言った、私たちはマナって呼んでる光の球体を取り込んだと思われる生物にも異常が起きたの。
今現在確認されてるのだけでも昆虫や動物、植物や一部の微生物が進化したわ。
そして街中で暴れだし、人々に危害を加えた。一部では襲われて殺された人もいるほどに強くなった生物もいるわ。
幸いにも人類の持つ武器でなんとかなっているけど、それもいつまで保つか分からないし」
「けどよ、動物や虫が強くなったんなら俺ら人間だって強くなってるはずだろ?
そしてその仮定は正しかった。
光を取り込んだ人間の表層的な願望、深層域の願望、心理的な欲望をもとに能力を手に入れ人は進化した。
ある者は速く走りたいと願い、驚異的な走力を得た。
ある者は医者になりたいという夢から、他者を治癒する能力を得た。
ある者はタロット占いを盲目的なまでに信じていた為にタロットの結果で未来を見る、変える力を得た。
因みにタロットの能力は桜井って子の能力だからな。
という訳で15日の昼に異常があった人イコール光を取り込んだ人と見なして、片っ端から本部で能力を調べてんだ。戦力になるかは別として本部で調べた人は1人の例外なく能力を得ているんだとよ。
まぁ、奏は女になった事が能力の影響だろうな」
俺が倒れている間にものすごい変化が起きていたとは。
街にはモンスター化した生き物がいて人は能力者になったって、なんかマンガの世界に来たみたいだな。
しかし、女になるって戦闘どころかなんの役にも立たないじゃねぇか。確実にサブキャラポジションだな。
それに比べて桜井ってやつの能力強すぎだろ。多分貞子だと思うけど、なんだよ未来を変えるって。主人公レベルの能力じゃねえか。
「自分が倒れてる間に色々大変なことになったんですね。
けど自分は戦闘に役に立たない能力ですけどそういう人って何してるんですか?」
「大変というか、もはや人類の危機だけどね。
それに奏君の能力はまだ分からないよ?
能力のなかには副作用として体の一部が変わっちゃうひともいるし」
「副作用?」
「そう、例に出すと動物の能力が使えるようになる副作用で尻尾が生えたりとか。
だから奏君も実はとっても強かったりしてね」
「そうですね。せっかく能力を手に入れたんだし何か役に立てられれば良いんですけど」
「ま、そこら辺は急がなくても良いだろ。
と言うか、そのでっけーおっぱいと女優顔負けの美貌ってだけでも男共にとってはそれだけで色々と役に立つんじゃねーか?」
「もう、その言い方は下品よ」
新谷さんが古田さんを嗜めるが、気にせずに逆に新谷さんを煽る。主に胸を見ながら。
「わりーわりー。初への配慮が足んなかったな。奏も傷つけないように言葉には気をつけてくれよな」
「ぅぇえ⁉︎」
いきなりの流れ弾に変な声が漏れる。
「……何?私の胸が何か?文句ある?」
「いんや別に〜?」
「ふんっ、どうせトリプルAですよっ。
ええ、ええ羨ましいですとも。私だってねぇどうせだったら巨乳になりたかったわよ!
……奏くんも言いたいことがあったら遠慮しないでどんどん言って頂戴ね?」
(いや、言えるかよ……でも、フォローくらいは言っといた方がいいか?)
なんて余計なことを考えた末に口から出た言葉は──
「僕は新谷さんくらいのサイズも結構好きですよ?」
──なんていう性癖の暴露だった。
新谷さん「ふぇっ……?」
古田さん「ふっ……!」
2人は驚き、時間が止まる。
「あっ……いや、えっと……その…」
全然フォローになっていない言葉を取り繕うように言い訳を考えていると、古田さんが爆笑し出した。
「だーっはっはっは!そーかそーか!貧乳好きか!良かったな初、褒められたじゃねーか!ひー!お腹痛い!」
「何笑ってるのよー!貧乳じゃないわ!人よりちょっと小さいだけよ!」
「ちょっ、と、ち、い、さ、い!やめろ!これ以上笑わせんな!ヒック」
「笑い過ぎよ!奏くんも!それフォローになってないわよ!」
げっ、こっちにまで飛び火した。けど、嘘はついてないし……
自分の本心を告げた。告げてしまった。
「いえ、フォローじゃなくて本心です」
「「…………………」」
長い長い沈黙の後に。
「あはははは!フォローじゃなくて!ただのカミングアウトって!ひっ! へ 、変態じゃねーか!し、死ぬ!コヒューッ!」
「……………」
やばい、会ってから1時間も経たないうちに変態呼ばわりされるなんて。
変態じゃなくて人よりもストライクゾーンが広いだけだし。
てか、古田さん笑い過ぎで過呼吸になってる……
逆に新谷さんは一言も喋らない……
コレは…完全にキレてらっしゃる?
「あの〜……」
新谷さんの様子を伺うと
「ま、まあ、本心から言ってるのであれば、そんな怒ることもないかなぁ?
……社会人になってそういう事一度も言われたこと無かったし、これはこれで魅力があるって事よね。うふふ、褒められた。初めて褒められた!」
なんか小声でブツブツ言ってるけど怒ってはないようだ。
逆に喜んでる?初めて言われたって言ってるけどこの魅力に気が付かないなんて今まで会った男はみんなホモだったのだろう。
「はぁぁ、笑い死ぬとこだった。お前面白いやつだな。今後も上手くやっていけそうだ」
「そうね。軽く接してみた感じでも良い子には違いなさそうだしね」
「はぁ、どうも」
僕としても2人には好印象を抱いた。どちらも美人で優しいし、不満なんて変態だと思われた事くらいしかない。
なんて茶番のようなやり取りをしてるうちに生徒玄関に着く。
校庭に見えるあれってもしかしてヘリ?
デカくね?僕の知ってるやつの10倍はデカい。下手したら大型トラックよりもデカイんじゃ……
「古田さん、もしかしてあのヘリで行くんですか?」
「おう、本部だけにある世界最大のヘリコプターだ。ちょっと特殊な動かし方だから、仮に新幹線を引っさげても飛べるし、速度もマッハは余裕で超える」
「は〜、科学の進歩って凄いですねぇ」
新幹線を移動させられるって考えられないな。って、あれ?靴がない。ま、いっか。裸足で行こう。
「奏くん、どうせ後で分かるからバラしちゃうけど、科学の進歩じゃないの。特殊な動かし方っていうのは能力を使っての操縦なのよ。だから多少無茶苦茶な事も出来るって訳。詳しくはヘリの中でね。
隊長たちも待ってるし、私たちも行きましょう。…って、あれ?奏くん靴ないの?流石に素足で歩かせるのは申し訳ないし、晶頼める?」
「あ〜、靴がないのは避難の時に誰かが借りたんじゃないか?奏じっとしてろよ」
「えっ?」
そう言うなり古田さんは僕の背中と腰に手をやるといとも簡単に持ち上げた。俗に言うお姫様抱っこだ。
「うわっ、ちょっ僕は大丈夫ですから下ろしてくださいよっ」
人生初とも言える大人の女性に触れているっていうのと、恥ずかしさで顔を赤らめながら下ろして貰おうとするが、その状態のままヘリに近づく。
「まぁまぁ遠慮すんなって」
「そうよ、照れなくても見た目は女の子なんだから」
あ、そういやそうだった。側から見れば、女性が女子を抱えてるのか。じゃあいいか。この感触を満喫しよ。
「お、急に開き直ったな。流石変態」
「違います、好き嫌いが少ないだけです」
「クックック。そうとも言うな」
「やっぱ男の子ね〜」
そうして話しているとヘリの中から、先に行ってた玄野さんに声を掛けられた。
「お前ら遅いぞ!どうせ古田が遊んでたんだろう!早く乗れ!」
「隊長、違いますって、奏が意外とオープンスケベだったからですよ」
「ああ?何変なこと言ってんだ。乗ったならもう行くぞ。コイツらが奏って呼んでるから俺もそう呼ぶぞ。奏、多少は聞いてると思うけど、このヘリは移動速度が速いから怪我しないように2人に掴まってろよ」
「はい……なんか怖くなってきた…」
「怖いのは初めのうちだけだから安心してね。ちゃんと手も握ってるからね」
「よろしくお願いします」
「機長、もう出ていいぞ」
『了解。離陸5秒前……3……2……1、テイクオフ』
ドンッッッッ‼︎
爆発音に似た音が聞こえた瞬間、あまりの衝撃に僕は呆気なく気絶した。