1、名前、あるいは登場人物
小説の中の登場人物に名前をつけるとき、あっさりと決まるときもあれば、ものすごく悩むときもある。前者はパッと思い付いたものをつけ、後者は直近で読んでいた本の登場人物の名前を拝借したり、ネットに載っている「○○国名前事典(一覧)」を参考にしたりする。
私は主要な登場人物はイラストに起こすのだが、大雑把な設定、例えば「総務課に勤務する警備隊員の女性」などと決めてからイラストに起こしたり、あるいは先に人物のイラストを描いてあとからその設定をつけたりとさまざまだ。中には大雑把な設定のまま小説を書き進め、性格や容姿が徐々に固まり、小説が書き終わってからイラストに起こした者もいる。気持ちとしては「嘘から出た誠」のような感じもする。先にイラストに起こしていたら、多少は小説の内容が変わったのではないかと思うことがある。
小説の本編が完結してからイラストに起こした登場人物、ネイハム。
名前は、イギリスの男性の名前一覧から拝借した。
本編を書く前に決めた登場人物の初期設定。
その下には、彼らと司令官(上司)の友好度も書いてあったり。誤字が……。
現在の私が名前をつけるときに気にしていることは、頭の中で音読したときの“音”。その名前にどんな意味があるのかとか、どこかの誰かさんと名前が被らないかとか、そういったことは特に気にしない。なにか、その登場人物に合った、自分の中でしっくりきた“音”をその登場人物につけている、と思う。当の登場人物からしたら、名前という重要なものを“音”で決められて、かなり気の毒だが。
それと関係あるかわからないが、私は和名の登場人物をほとんど作らない。描きたい世界が西洋ファンタジーということもあるだろうが、和名だと何故か覚えづらいのである。本を読んでいても、登場人物が漢字表記の名前だととても読みづらく感じてしまう。漢字が苦手というわけではないと思うが、漢字は名前のときに専用の読み方もあるので、ややこしいというか、思考がそこで躓いてしまうというのだろうか。漢字を漢字ではなく“形”として捉えている節もある。
文章を読むにあたって、大抵のひとは頭の中で音読をしていると思うのだが、私はその音読においてことさら音、抑揚、間などに気を付けているらしい。間は、行間を読むとか、そういった意味ではなく、実際に声に出して音読したときの読点や句点の役割である区切り、による“休み”のことを指すと思っていただきたい。
自分の中に心地よい音読の律動や旋律みたいなものがあって、頭の中で音読をしたときに滑らかなものになるようにしている。執筆しているときは振り返らずに勢いで書いているときもあるので、つっかえるような文章を見付けた場合、気力があれば修正している。ただその頭の中の音読は、実際に音読をしたときとは少々感じが違う気がする。私の文章は、すこし遅いというか、ゆっくりしているように思う。だから実際に音読したとき、違和感がある、と思う。こればっかりは感受性によるし、私もうまく伝えられない。話を戻すが、そういった“音”の意識が名前をつける上でも重要になっている。
登場人物の中には、名字、あるいは名前しかない者もいる。つける必要がないと判断してのことだが、昔は設定にこだわっていたので、性格や身長などもきっちり決めていた。いまは、なんというか、書いていくうちに固まっていくかなとすこしばかり楽観的に見ている。実際そういう登場人物ばかりだし、設定が固まるにつれて小説の内容も修正している。つけた名前もしっくりこなければ変更する。登場するわけではない人物のイラストをなんとなく描けてしまったときは、名前や設定を無理につけずに放置するときもある。
すきな漫画家にあきづき空太さんという方がいるのだが、とあるインタビューにおいて、
『最近、新キャラを出すときは、既存のキャラクターと被らない主人公との関係性だったり、主人公と違う繋がり方をしてくれるであろうキャラクターを作るようにしています。最初からキャラの作り込みはあまりせずに、誰かと関わらせたり会話させたりして初めてキャラクターが見えてくる、という作り方』(コミックナタリー、2017年9月18日付けの記事より)
と話していて、その楽観的な気持ちはより余裕を持った。確かにそのほうが性格をつける上で無理なく自然で、面白い。納得の意見だった。が、『新キャラを出すときは』と書いてあるように、新しい舞台の話の登場人物は、こういうふうに作るのは難しい。一から二はなんとかできるが、私は、零から一は本当に苦手だ。現在頭の片隅にある話も、何年も前から存在しているものなので、零から作った世界や話はここ数年存在しない。ここだけは過去の自分に頼らざるを得ない。短編が苦手な理由はここにある。なにか明確なテーマや狙いを持って書くことができない。
過去を振り返ってみると、新しい話を作るにあたっては、先に登場人物を作っていた気がする。小説にしようとか物語を作ろうとか、そういったことは考えずに、適当に、四苦八苦しながら描いた人物にいくつか設定をつける。そこからその登場人物が住んでいる世界を考え出す、という順だったと思う。




